新ほっと介護 お口に清潔に保つケア
全日本民医連介護職委員会委員/東京・すこやか福祉会
漆原沙織
皆さんは「口腔ケア」と聞いて、どんなことをイメージしますか?
今回は誤嚥性肺炎や感染症など、さまざまな病気の予防にもつながる「口腔ケア」について紹介します。
口腔ケアは口の中を清潔に保ち、噛んだり飲み込んだりする力や唾液の分泌を促すなど口腔機能の維持、向上を目的としています。
口の中が汚れていると食欲もなくなりますが、清潔でさっぱりした状態であれば、食欲が湧いてきて生きる意欲も生まれます。よく噛むことができれば脳への血流が増し、認知症の予防になると期待されています。
口腔ケアの方法
口腔ケアを始める際には、次の6つのポイントを参考にしてください。
1.状態の確認
口腔ケアを始める前には、体調としっかり覚醒しているか(目覚めているか)を確認します。ウトウトしている状態で口腔ケアを行うと、うがいの水を誤嚥する可能性があるので、まずは全身の状態をしっかり確認しましょう。口腔内に食べ物が残っていないか、出血や痛み、腫れなどはないかなどの確認も重要です。
次に本人に声を掛け、これから口腔ケアを行うことをしっかり意識してもらいます。口腔ケアは重要な介護の1つではありますが、本人が嫌がる時は無理強いせずに、時間を置いてから再度チャレンジしてみましょう。肩肘を張らずにおおらかな気持ちで取り組むことが、介護が長続きする秘訣です。
2.物品準備
口腔ケアに時間がかかると、ケアされること自体が嫌になってしまうことがあります。使用する物品は事前に準備し、スムーズに行えるようにしましょう。
基本的な使用物品は、歯ブラシ、水を入れるコップや吸い飲み、口を拭く物(タオルやティッシュ)、うがいの水を受ける物(洗面器やガーグルベースン)などがあります。これらに加えて口腔ケア用のスポンジブラシやガーゼがあるとより良いでしょう(図1)。
歯ブラシは毛先の開いたものや黄ばんで歯垢が付着したものは、洗浄効果が不十分だったり、雑菌の温床となるので使用しないでください。介助者は感染予防のためにプラスチック手袋を装着してください。
3.姿勢
準備ができたら、口腔ケアを始めます。まずは要介護者の姿勢を整えます。いすに深く座ったり、ベッドでは上体を起こすなどして身体を安定させます。
介助者が立ったままだと、要介護者のアゴが上がり誤嚥の原因になります。また、腰を曲げて行うと介助者の腰痛の原因になりますので、要介護者と同じ目線になるくらいの高さのいすに座ることをお勧めします(図2)。
4.歯磨き
介護の基本は、本人ができることは本人にしてもらうことです。介助者が手を貸すのは簡単ですが、本人ができないところのみにとどめることを忘れてはいけません。
自分で歯を磨けるようであれば本人に任せましょう。歯ブラシを持って動かすことは手指のリハビリにもなります。介助者は磨き残しがないかなどを確認しましょう。
自分で磨くことが難しいときは介助者が磨いてください。歯ブラシは鉛筆を持つように持ちます。歯磨き粉は好みですが、つけすぎると口の中が泡まみれになるので、使用する場合は少量にしましょう。
歯と歯茎の隙間に毛先が入るように角度をつけ、1~2本ずつ優しく小刻みに磨きます。磨く順序もあちこちに移動すると、「次はどこを磨くの?」と要介護者が不安になります。声を掛けながら、図3のような流れで進めましょう。舌の上にも汚れがついているので、舌ブラシなどで奥から手前に優しくこすります。
身体を起こすことのできない方など歯ブラシでのブラッシングができないときには、指にガーゼを巻くかスポンジブラシなどを使用し、白湯や殺菌効果のある緑茶で湿らせ、歯、歯茎、頬の内側、舌の下などを全体的に拭きます。
5.うがい
歯磨きの後は口に水を含んでもらい、頬を膨らませブクブクと口の中に水分を行きわたらせます。洗面所でできない場合は、事前に用意した洗面器やガーグルベースンに吐き出します。
うがいができない方は、歯磨きができない方と同様に、ガーゼやスポンジブラシなどを使用し口の中を拭きます。うがいが終わったら、口の周りの水分をタオルで拭きとります。
6.片付け
使用した物品は、感染予防のために十分な流水で洗い流し、しっかりと乾燥させましょう。
最近では口腔ケアグッズも種類が増えています。口腔ケア用ウエットティシュや舌ブラシ、口の中が乾燥している方用の保湿剤などがドラッグストアで購入できます。要介護者の状況に合わせて使用するのもいいでしょう。
尊厳に配慮したケアを
他人に口の中を見せる行為を恥ずかしく感じる人は少なくありません。口腔ケアをする際も、その人の尊厳(プライド)に十分配慮することを忘れないようにしましょう。
高齢者の関心事の上位には「食事」が挙げられますが、口のトラブルがあると食事を楽しめなくなります。口腔ケアを1日のリズムに組み込み、メリハリのある生活を心がけましょう。
いつでも元気 2017.9 No.311