緊急インタビュー 共謀罪
正しい情報を知らせてただちに廃止に
6月15日、政府は参議院法務委員会の審議を封じ、委員会採決を抜きに本会議で「共謀罪」法を成立させました。
この法律にはどんな問題があるのか。
これから私たちにできることはなにか。
京都大学大学院法学研究科教授の髙山佳奈子さんに聞きました。
文・宮武真希(編集部) 写真・豆塚猛
■今回の採決強行について、どのように評価していますか。
私は、共謀罪は可決していないと思っています。なぜなら、国会法の要件を満たしていないので、無効採決だと評価しています。「委員会での採決を省略することができるのは緊急時だけ」と決まっているのに、今回、緊急の必要性について何の説明も行われていません。また、委員会での採決を省略しただけでなく、参議院では本会議の審議も行われませんでした。
安保法制の時も「議事録が無い」とか「公聴会後の手続きが行われていない」などの不備がありました。今回はそれどころではなく、本来の法律上の要件を満たしていないので完全に違法であり、この法には効力がないと思っています。
■共謀罪の一番の問題点はなんでしょうか?
処罰にあたる範囲が広く、全部で277にもわたる犯罪が対象です。そして、警察が捜査する権限についての歯止めがありません。もちろん、違法な捜査が行われれば問題になりますが、適法の範囲での捜査であっても、まったく犯罪と関係の無い人たちまでが広く巻き込まれる可能性があります。このような関係の無い人たちが巻き込まれ無用な権利侵害が行われた時、被害にあった人の権利を救済する仕組みがまったくありません。
捜査側はやりたい放題、捜査をストップする機能が無いということは恐ろしい事態で、そこが一番の問題点だと思います。
■犯罪の計画に関わっていなくても、捜査対象になるのですね。
そうです。実際に犯罪の計画を立てていなくても、そのように見える事実があれば、それだけで捜査の対象になります。やりとりの一部だけを切り取って犯罪の計画のように見えてしまえば、それだけで疑われます。
たとえば、私たちは刑事法研究者として、組織的経済犯罪について研究会で定期的に議論します。研究会後の懇親会でも、組織的経済犯罪のテーマを話す。もしかすると、その話の一部が録音されて「この集団はいつも犯罪について話をしている」という証拠にされる可能性がある。
また、共謀罪に反対する街頭宣伝で若者がこんな話をしていました。「ゲームの中の世界の話で『ある地域を攻略した』とか『現金を強奪した』という内容をメールでやりとりした場合、その一部だけを切り取って証拠に使われてしまう可能性がある」と。このように、何でもない生活の中のやりとりが弾圧の手段として悪用され、捜査対象になる可能性があります。
■「テロ対策に必要ではないのか」という声もありますが。
「共謀罪処罰はテロ対策に必要だ」と騙されている国民は多数いると思います。しかし、自民党法務部会長の古川俊治さん自身がテレビ討論で「テロ等準備罪は名前だけ」という発言をして、テロ対策とは関係ないことを認めています。さらに、共謀罪を持っているアメリカやイギリスでは、テロを防げていません。
国際学界では10年ほど前から「いくら監視の目や規制の網を広げてもテロは防げない」という認識に移ってきています。海外のメディアからも「今回の日本の立法はおかしい」と見られているのは当然のことだと思いますね。国連からも複数の疑問が提示されています。
テロの原因となるのは、背景にある構造的な問題です。表面的な重罰ではなく、貧困対策や文化的な相互理解などが根本的に重要だと考えます。
■これからどのように運用されるのでしょうか。
予想されるのは、最初は批判が少ないところからの適用でしょう。たとえば、暴力団による組織的犯罪や組織的詐欺ですね。それから、危惧されているのは性表現です。性表現に対してはそもそも風当たりが強い面があるので、性にまつわるパロディー作品を創作している方々が、著作権の侵害を口実に弾圧されてしまうのではないか。そういう分野から摘発されるのではないかと思われます。
その次の3番目に、労働組合や環境団体、人権団体、権利や自由を掲げて活動する方々がターゲットになるでしょう。
■今後、私たちに何ができるでしょう。
今はとにかく「この間に国会で行われたことがいかに違法・不当であるか」ということを、広く知らせていくことが求められます。法律1つで277もの行為が犯罪の対象になるというのに、可決の様子がテレビで中継されることもありませんでした。これは、メディアが弾圧されている表れでもあります。共謀罪のことを知らない人はまだまだたくさんいますので、真実を広く知らせましょう。各地の選挙で、違法なやり方を進めた勢力の人たちを当選させないことが大事です。
民医連・共同組織のみなさんと、私たち学者や労働者のグループなどが連携しながら、怖がらずに、正しい情報の拡散をみんなでやっていくことが大事だと思います。
いつでも元気 2017.8 No.310