新ほっと介護 排泄の介助
全日本民医連介護職委員会委員/東京・中野共立病院 金野昭嗣
「食べる、出す、寝る」は、人間が生まれながらに持つ生理的欲求です。
これが満たされないと不快感を覚えたり、病気になります。
今回は「出す=排泄」がテーマ。
排泄は生きていく上でとても大切な行為ですが、自尊心や羞恥心を伴うプライベートでデリケートなものでもあります。
それぞれの気持ち
排泄ケアは介護をする側もされる側も、ネガティブな気持ちを持ちやすいものですが、健康で文化的な生活を送る上ではとても重要なことです。まずはお互いの気持ちを知ることから始めましょう。
■ 介護を受ける方の気持ち
「下の世話になるなんて…」と排泄ケアを受けることへの恥じらいやためらい、拒否がある方は少なくありません。排泄の失敗を恐れて、飲食や外出を控える方もいらっしゃいます。
日本人の中に「人前で排泄の話をすべきではない」という風潮があることを考えると、「隠したい」「恥ずかしい」「自分で処理したい」と考えるのは当然です。
■ 介護する側の気持ち
介護経験者に「在宅介護で苦労したこと」を聞いたところ、最も多かったのは「排泄時の付き添いやおむつの交換」でした(内閣府「介護ロボットに関する特別世論調査」)。トイレに付き添ったりオムツを変えるなど夜間の対応が続いたり、手間の多さや臭いなど、介護をする側にとっても身体的な問題だけでなく精神的にもきついケアだといえます。
気持ち良い介護のために
では、お互いが気持ち良い介護をするためにはどうしたらよいでしょうか。いくつかポイントを紹介します。
(1) 気持ちの持ち方
排泄は生きている証で、健康のバロメーター。「出ることは良いこと」と排泄を喜び、出なかったら心配するくらいの気持ちが持てるといいですね。
(2) 傾向を知る
同じものを食べたり飲んだりしても、回数や量は人それぞれ。「排泄チェック表」(下図)を使っておおよその傾向を知ることで、ゆとりをもってケアができ対処方法も分かってきます。
(3) トラブルは専門家に相談する
失禁など排泄トラブルは「加齢による症状だから仕方がない」と思いがちです。しかし病気による膀胱のトラブル、運動機能の低下、精神的なこと、認知機能の障害などさまざまな原因が考えられます。
どういうときに漏れてしまうのか、どんなことに困っているのかを具体的にあげて、主治医やケアマネジャーに相談しましょう。原因が分かれば解決の糸口が見えてきます。
また、「できること」に応じた環境整備をすることも大切です。過剰な介護は介助者の負担を増やすだけでなく、介護を受ける方の意欲を奪ってしまう恐れがあります。
(4) 状況に合わせて道具を選ぶ
排泄の状況、困っていること、できることが分かったら、それに合わせて使用する道具を選びます。例えば「夜はしっかり眠れるように、吸収量の多いおむつを使用する」「トイレまでは距離があるからポータブルトイレを使う」など、道具や環境を整備することで、お互いの生活の質は大きく変化します。
失禁=おむつと考えがちですが、ポータブルトイレの設置や尿取りパッドの使用など、種類や組み合わせはさまざまです。介護を受ける方の希望や生活スタイルも考慮しましょう。
おむつや尿取りパッドは介護用品店のほか、最近ではスーパーやドラッグストアでも、1000~3000円ほどで購入できます。生活スタイルや尿量によってさまざまな種類があるので、まずはケアマネジャーなど介護の専門職に相談してください。
(5) 無理強いをしない
いきなり「トイレ」「おむつ」と言われると、「恥ずかしい」「自分でできる」と感じている方はスムーズにケアに応じてくれないこともあります。時間を置いたり、世間話をしたり、別の理由を作ったりしながら誘ってみるといいでしょう。無理強いや失敗を否定する言動は信頼関係や安心感を損ないます。おおらかな気持ちで接しましょう。
購入には医療費控除も
おむつや尿取りパッドは、毎日の消耗品なので経済的負担も気になるところです。介護用のおむつや尿取りパッドの購入は、医師が必要と認めれば確定申告の医療費控除(※1)の対象になります。自治体によっては介護用おむつに対して補助金や現物支給のサービスもあるので、お住まいの自治体窓口で相談してみてください。
ポータブルトイレは介護保険制度の福祉用具購入費の対象になります。購入後に申請をすると、費用の8~9割が支給されます。ただし、「特定福祉用具販売事業者(※2)」から購入したものに限ります。使用する人や置き場所によって種類があるので、ケアマネジャーなど介護の専門職に相談してください。
「排泄ケアは介護の基本」と言われますが、複雑な要因が重なりやすく難しいケアでもあります。しかし、排泄のトラブルは誰にでも起こりうるもの。その人らしい生活が送れるよう、1人で悩まず主治医やケアマネジャーとも相談しましょう。みんなで解決に向けて考えていくことで、より快適に、喜び合えるケアになるといいですね。
※1…世帯の医療費の合計が1年間で10万円、または所得金額の5%を超えた場合、申告すると税金の一部が還付される制度
※2…入浴や排泄介助などに使用する用具の販売について、都道府県の指定を受けた事業者
いつでも元気 2017.8 No.310