• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ・鳥取県岩美町 海の幸あふれるリアス式海岸

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

迫力あふれる断崖美は、約40分間の島めぐり遊覧船で

迫力あふれる断崖美は、約40分間の島めぐり遊覧船で

 日本海ならではの群青色と浅瀬のエメラルドグリーンのコントラストが美しい浦富海岸は、断崖絶壁や洞門が約120kmにわたって連なるユネスコ「世界ジオパーク」認定の景勝地です。
 ここ数年はアニメの舞台としても有名になり、若い女性がひっきりなしに訪れるように。
 また今年新たに運行される豪華寝台列車の停車地にも選ばれ、ますます注目度が高まっています。
 老若男女の心を癒やす岩美町の魅力を訪ねました。

山陰地方屈指の景勝地

 まずは陸からの絶景を眺めようと、最も有名な菜種五島を目指しました。海岸道路に沿ってところどころに展望用の駐車場と遊歩道入口があり、写真スポットが分かりやすく示されています。菜種五島は、もともと1つだった岬が長年の波の浸食によって5つの離れ小島になったもの。
 他にも千貫松島、城原海岸、鴨ヶ磯、龍神洞など風光明媚なスポットがいくつもあり、どこも目を見張る美しさ。さすが日本百景や白砂青松100選、さらにユネスコ世界ジオパークにも選ばれている景勝地です。
 景観美以上に息を飲むのは、最高透明度約25mと抜群に澄み切った海の中。シュノーケリングやダイビングで海中に潜れば、アジの大群や亜熱帯魚など海の生き物たちが別世界を見せてくれます。しかも複雑に入り組んだリアス式海岸から漏れ入る光の神秘は、きっと体験した人にしか分からない神々しさ。岩美の海の虜になる人が多いのも頷けます。

びっくりアゴすくい体験

 海の幸が豊富な岩美町は、釣りファンも魅了して止みません。6月が旬というアゴすくい体験に同行しました。アゴとは、山陰地方で使われているトビウオの呼称。「あごちくわ」などの加工品としても親しまれています。
 夜8時、東浜港から小型ボートで10分ほど沖合に出てライトアップすると、アゴが驚いて飛び跳ね、水面でエラを大きく広げて走るように泳ぎ去りました。その速さにこちらもびっくり!
 背が青く光るアゴは船の上からでもよく見え、直径約50cmの網で比較的簡単にすくい取れます。「動きが速いのはマルアゴ、ゆったり泳ぐのはカクアゴといって食べ方も違うんですよ」と船頭さん。この日は不漁だったようですが、それでも2時間で20匹以上が獲れました。
 翌朝、競りがあると聞いて田後港へ行くと、箱に詰められたアゴがびっしり並べられていました。地元の女性に食べ方を尋ねると、「やっぱり刺身が一番。残ったアラをお吸い物や味噌汁にすると、旨みのある出汁が出ておいしいんだよ」。
 アゴ以外にも、舌に吸い付く食感の白イカ、地元でしか食べられないモサエビ、夏は岩牡蠣、冬は松葉がになど海産物には事欠きません。日本海の幸に舌鼓を打つこと間違いなしです。

アニメと列車で注目度アップ

 港の周辺では、パンフレット片手に散策している若い女性観光客をよく見かけます。聞けば、4年前に放送された男子高校生たちの水泳アニメ「free!」のファンが、物語の舞台を訪ね歩く「聖地巡礼」をしているとのこと。アニメの登場人物に扮してコスプレ衣装で訪れる人も多く、ちょっぴり不思議な賑わいを見せています。
 町役場商工観光課の松野洋平さんに地元の反応を聞くと、「最初は驚きましたが、今ではリピーターとして足を運んでくださる人も大勢います。きっかけは何であれ、岩美の自然や人に出会って本当の意味で岩美ファンになってくれれば嬉しいです」。
 意外なアプローチはJR西日本からも舞い込みました。今年6月にスタートした寝台列車「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の停車駅として、岩美町の東浜駅が選ばれたのです。
 瑞風は京都~下関間を1泊2日または2泊3日の5コースで走り、厳選された観光地に1日1駅のみ停車するという、まさに“走るホテル”。車両が丸ごと客室になっており、定員は30人、乗客全員が停車駅で降りて観光します。
 東浜駅では、すぐ目の前のビーチで地引網体験をした後、地元食材をふんだんに使ったイタリアンを堪能してもらうとのこと。もともと無人駅だった静かな駅舎も装い新たにリニューアルし、新しいスポットとして脚光を浴びそうです。

開湯1200余年ゆかむりの里

 海岸を離れ内陸方面へ車で約15分走ると、1200余年の歴史を誇る源泉かけ流しの名湯「岩井温泉」があります。蒲生川に沿ってひっそりと佇む温泉街で、戦前は約10軒の宿がありましたが、今は3軒の老舗旅館が伝統を受け継いでいます。
 文豪の島崎藤村も投宿したという創業400年の「明石家」では、主に関西からの宿泊客に加え、最近では香港や台湾など海外からの観光客も増えているとのこと。「やはり素朴な風情が一番の魅力だと思います」と14代目当主の山本潤一さん。日本の古き良き原風景が、何より人々の心を癒やすのかもしれません。
 泉質はナトリウム・カルシウム・硫黄塩泉で関節痛などに効能があると言われています。47度前後で天然のままちょうど良い湯加減。最新の研究では水素の含有量が非常に多いことが分かり、若返り効果も期待できるとか。
 面白いのは江戸時代から続く奇習「ゆかむり」です。頭に手ぬぐいを乗せた男たちが「ゆかむり唄」を歌いながら柄杓で湯を叩き、汲んでは頭にかむるという珍しい入浴法。少しでも長く湯につかり、温泉の効能にあやかるために始まったとも言われています。ユーモラスな数え唄にはいくつかの種類があり、中には100番まであるものも。

個性が光る窯元めぐり

 最後にオススメするのは窯元めぐりです。町内5カ所に窯元があり、それぞれ個性的な作家さんが陶器や磁器を製作しています。
 そのうちの一つ、「延興寺窯」を訪ねました。すぐ近くの河原で採れる石を釉薬の原料にし、地元産の素材にこだわったシンプルな陶器をつくっています。作家の山下清志さんは、もともと鳥取市の出身。幕末の頃にあった磁器釜の浦富焼を復興させようと兄弟で移住しましたが、延興寺地区に新しい原料が発見されたのを機に独立。「岩美町も人口が減っていますから、作品とともに、自然の中で暮らす生き方も発信していきたいです」と後継者育成にも取り組んでいます。
 各窯元の作品は、浦富海岸近くにある「カフェニジノキ」で実際に器として使用感を楽しめます。器に盛る食材も、もちろん地元産。地域性を大切にするこうしたカフェが、若い移住者たちによって少しずつ増えています。
 「岩美町は、自然が手つかずのまま残っているところが好き。今後は地元の人たちが定期的に交流できるイベントをつくっていきたいです」とオーナーの川元壮一さん。
 町に根付いた新しいパワーの活躍にも、今後ますます期待が高まります。

■次回は茨城県大洗町です。


まちのデータ
人口
1万1869人
(2017年6月1日現在)
おすすめの特産品
松葉がに、モサエビ、スルメ、マコモタケ、新雪(梨)など
アクセス
JR鳥取駅から山陰本線で25分
鳥取空港から車で約30分

いつでも元気 2017.8 No.310