新ほっと介護 認知症に寄り添う
今田健司 全日本民医連介護職委員会委員/大阪・医療生協かわち野生活協同組合
65歳以上の7人に1人が発症すると言われている「認知症」。
読者の方からも多くの悩みが寄せられます。
今回は認知症のケアのポイントを紹介します。
一言に「認知症」と言っても、脳のどの部分が影響を受けているかによって症状はさまざまで、対応の方法も1つではありません。全てを把握し対応することはとても困難で、私たちのような専門職であっても答えを見つけられないことがたくさんあります。
しかし、認知症になってもその人自身であることには変わりなく、そこには「人生」というストーリーがあります。その人の人生や想いに寄り添い一緒に進んでいくことが、認知症ケアにとって大切だと考えます。
認知症の症状
家族が高齢になると、「もしかして認知症かも」と気になることがあるかと思います。気付きのポイントを表にしました。
認知症になると出現する症状には、誰にでも起こる「基本症状(中核症状)」と、「行動・心理症状(周辺症状)」と呼ばれるいわゆる「問題行動」と捉えられる症状に分けられます(図)。現在の医学では根本的な治療はできず、薬を飲み進行を遅らせ、症状をできる限りコントロールして対応していきます。家族や介護職員など周囲の人による「適切なケア(介護)」も、進行を遅らせることができる1つの手段となります。
ケアのポイント
1.正しい理解
まずは、介助者が認知症について正しく理解することが重要です。記憶力に障害があったり、行動が変化するなど、認知症の種類によって症状はさまざまです。症状に合わせた対応が必要となるので、認知症がどのようなタイプなのかを理解することから始めてみましょう。
2.環境の整備
例えば、昔から使い慣れたものを使い慣れた配置で置く。記憶障害によって日時が分からなくなるので、見やすい場所に時計やカレンダー(日めくりがお勧めです)を置いて混乱が起きないようにするなど、環境を整え本人に余計なストレスがかからない工夫をしましょう。
また、人間関係も重要です。最近の記憶が保てなくなると、新たに出会った人のことを覚えているのが難しくなります。昔から馴染みのある人たちとの交流が継続できるような支援も大切です。
3.外部からの刺激
外に出て四季を感じたり、人とコミュニケーションを図るなど刺激を受けることも効果的です。認知症になると自発性が低下し、人との交流や外に出ること自体がおっくうになり、家に閉じこもりがちになります。
太陽の光を浴びたり、外に出て人と話をすることで脳が活性化し、認知症の進行を抑制することにもつながります。本人が興味を持てることを提案しながら、外出する機会を作っていく工夫をしてみると良いでしょう。
4.役割を創る
「認知症になると危ないから何もさせない」と家族の方からよく聞きますが、それは大きな間違いです。人間にとって「自分が必要とされている」という感情はとても重要で、「役割を創ること」は認知症ケアにおいて重要なポイントとなります。
本人に任せられることは積極的に任せて、できない部分をサポートしてください。終わった後は「ありがとう」「助かった」などの言葉をかけてあげると、その人は「自分が役に立ったんだ」と思うことができます。自分たちにとって大切な存在だと伝えることで「精神的な社会的孤立」を防ぎ、ハリのある生活を送る支えとなります。
自分も大切にする介護
家族が介護をしていると要介護者と向き合う時間が長くなり、繰り返し対応することに疲れてしまう時もあります。「さっき言ったでしょ」「何度同じこと言わせるの」などと言ってしまったり、本人の意思決定を待てず家族が本人の意思とは関係なくさまざまな決定を行ってしまいがちです。会話に答えることもせずに、背中で「聞こえないふり」をして、その人の存在を消してしまうような対応をとってしまうこともあるでしょう。
介護の中でも認知症のケアは特に、チームでの関わりが重要です。決して1人ですべてを背負わず、介護の専門職や地域、ほかの家族の力を借りながら「自分(介護する側)も大切にする介護」をしていただきたいと思います。
いつでも元気 2017.7 No.309