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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ・福井県池田町 能楽の里で森に遊ぶ

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

年齢に応じて本格的なアドベンチャー体験ができる。 全6コースあり、有料で事前予約が必要

年齢に応じて本格的なアドベンチャー体験ができる。
全6コースあり、有料で事前予約が必要

 いわゆる林業地を“遊び場”に変え、年間約26万人の観光客が訪れるようになった池田町。
 高さ60mからターザンのごとくワイヤーを滑り降りる日本最大級のジップラインや杉林のアスレチックなど、大人も子どもも大はしゃぎできるアドベンチャーランドが注目を集めています。
 かたや「能楽の里」として貴重な伝統芸能を今に受け継ぐ、まさに古くて新しい山里。その魅力を訪ねました。

ジップラインで鳥になる

 町の中央を流れる足羽川の上流に向かって車を走らせ、集落を抜けて到着したのは「ツリーピクニックアドベンチャーいけだ」。駐車場に降り立つと、子どもたちの元気な声が風に乗って聞こえてきました。その源は、どうやら杉林の中にある模様…。
 声のする方へ歩を進め、思わず「こりゃ、すごい!」と感嘆しました。真っ直ぐに伸びた杉の木同士がロープや網でつながれ、その上を子どもや大人が渡り歩いています。
 高さは12mほど。「こわい~!」と男の子が叫べば、「がんばれ!」と下からお母さんが激励。全身の筋肉とバランス感覚を頼りに、大自然に体当たりする本格派アスレチックです。
 施設を運営するのは、第3セクターの株式会社「まちUPいけだ」。町の9割以上を占める森林を観光にも活用、雇用を増やして人口減少を食い止めようと、町が7億5000万円を投じて昨年4月にオープンしました。
 目玉のメガジップラインの高さは日本一。地上60m地点から、長さ510mのロープを約50秒間で滑り降りるというもの。実際にやってみると、スリル満点どころか、まさに鳥になった気分。特に眼下に広がる森や川の景色は地上から見るそれとは全く違い、山のイメージが根底から覆ります。「視点を変えるとこうも世界は違って見えるのか」と、開眼したような気になりました。

おもちゃハウスで木と遊ぶ

 森林の町ならではの施設が、もう1つ。2年前にオープンした「おもちゃハウス」では、主に0歳から5歳の子どもたちが木製のおもちゃで思う存分遊べます。平日でも1日約30人、ピークの時期には1日350人が訪れ、入場制限をかけるほどの人気ぶり。帰省客のほか、関西からわざわざ足を運ぶ人も多いそうです。
 この日、訪れていたお母さんに話を伺いました。「これだけ木のおもちゃが揃っている場所はそうありません。特に小さい子どもはなかなか外で遊べないので、ここに来ると楽しそう」。
 室内には積み木や滑り台、ままごとセット、手押し車、クライミングができる木の壁など、実に多種多様な遊具が。けん玉やダルマ落としなど懐かしいおもちゃもあり、世代も男女も問わず家族そろって楽しめます。
 木に触れることで人間性を育む「木育」が重要視されている近年。その実践の場としての役割も、今後ますます高まりそうです。

木のぬくもりが感じられる室内で、
大人も子どもも一緒に楽しめる「おもちゃハウス」

今に受け継ぐ田楽能舞

 日本海に面する福井県は、かつて中国大陸と都を結ぶ玄関口として栄え、多くの文化人を輩出しました。室町から江戸時代にかけては能面師の名門、越前出目家や大野出目家が代々活躍。池田町は京都に続く道の途中にあるためか、多数の能面が残されています。
 水海地区の鵜甘神社では毎年2月15日、約800年の歴史を伝える国の重要無形民俗文化財「水海の田楽能舞」が厳かに執り行われます。鎌倉幕府5代執権の北条時頼が諸国行脚中に雪で立ち往生し、水海地区で越冬。村人たちから「田楽」を舞って慰められたお礼として、「能舞」を教えたのが発祥だとか。
 一面の銀世界と化す真冬の川に3人の男性がふんどし姿で入り、みそぎの儀式を行う姿は神々しいとしか言いようがありません。みそぎの後は、午後から半日かけて田楽と能が舞われ、大勢の見物客とともに春の訪れを祈念します。
 田楽能舞保存会の飯田拓見さんに伝統を受け継ぐ難しさを伺いました。「約40人の出演者のうち、半分以上は30~40代。昔は世襲制でしたが、今は年配の熟練者が、長く続ける覚悟がある人だけを選んで教えています。この山里で水海地区が100戸以上残っているのは、田楽能舞があるおかげですよ」。
 子や孫に受け継がせたい地域の誇りがあればこそ、伝統は続いていくのかもしれません。

表情豊かな能面がずらり

 能面について知るには「能面美術館」へ。室町時代の古面から現代の能面師が打ったものまで、100以上の面がずらりと並べられています。
 “能面”とは無表情な人を形容する言葉としても使われますが、1つ1つを眺めていると、実際には表情豊かで多様な面があることに驚かされます。
 美術館館長の桑田能守さんは兵庫県出身。能面師の父・能忍さんから技術と精神を受け継ぐ2代目です。
 「能楽の普及を図る能楽協会はありますが、能面師が所属する大きな団体はありません。江戸時代に能が武家の式楽()になったため、明治維新によって能面師が一旦途絶えました。私は能楽がもっと一般の人たちにも気軽に楽しんでいただけるようになったら良いと思います。伝統的な型を写すだけでなく、さまざまな面を創作することで芸術性を進化させたいと望んでいます」。
 桑田さんは、1つの面を10回で製作する能面教室も開催。約20人が集まり、面打ちの奥深さや面白さを学んでいます。年に一度は町主催の「能楽の里が選ぶ能面公募展」も開かれ、全国から約300点の応募があるとのこと。打ち手の心意気に触れると伝統文化の楽しみ方も広がりそうです。

 

約800年の歴史を誇る水海地区の田楽能舞(池田町提供)

式楽 儀式用に用いられる芸能

越前そばにかずら橋

 体と頭を使った後は、胃袋の番。「ふるさとふれあい道場」でそば打ち体験をすれば、職人さんの指導の下で打った手作りそばを、その場で味わうことができます。
 食べ方は、ぜひ福井ならではの「越前おろしそば」で。麺に大根おろしを乗せて冷つゆをかけたシンプルな逸品です。大根の辛さと麺のコシへのこだわりが、店によってそれぞれ違うのだとか。
 小腹を満たしたら、道場の裏手にある「かずら橋」へ。全長44mの吊り橋をそろりそろりと渡りながら、鮮やかな緑に染まった渓流の風景を堪能できます。川沿いには遊歩道も整備されているので、下から吊り橋を眺めるのも風情があってオススメ。
 その他、樹齢千数百年の「稲荷の大杉」がご神木として祀られている須波阿須疑神社、日本の滝100選にも選ばれている龍双ヶ滝など、訪れてほしい見所はあちこちに。自然環境と伝統文化が見事に調和した池田町で、贅沢なひと時を過ごしてみてください。

職人の技に触れられる「ふるさとふれあい道場」のそば打ち体験

職人の技に触れられる「ふるさとふれあい道場」のそば打ち体験

■次回は鳥取県岩美町です


まちのデータ
人口
2,698人
(2017年4月現在)
おすすめの特産品
米、おろしそば、有機野菜など
アクセス
JR福井駅から車で約45分
北陸自動車道・武生ICから車で約25分

いつでも元気 2017.7 No.309