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いつでも元気

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共謀罪 話し合っただけで逮捕

聞き手・新井健治(編集部)

内田博文 九州大学名誉教授
うちだ・ひろふみ 
1969年、京都大学法学部卒。九州大学名誉教授。ハンセン病市民学会共同代表。『治安維持法の教訓』(みすず書房)など著書多数。患者の権利擁護を中心とする医療基本法にも取り組む

 政府は3月中にも国会に「テロ等準備罪」(共謀罪)を新設する法案を提出する予定です(3月1日現在)。
 “共に謀る”いわば話し合っただけで処罰できる共謀罪。
 思想・信条を取り締まる最悪の法律で、戦前の「治安維持法」の復活です。
 刑法に詳しい九州大学名誉教授の内田博文さんに聞きました。

 共謀罪はこれまで3度国会に提出され、3度とも世論の強い反対で廃案になりました。政府は今回、テロ等準備罪と名前を変え「東京オリンピックのテロ対策のため」と説明しますが、現在の法体系でもテロには十分に対処できる。つまり共謀罪の本当の目的は、政府に異議を唱える国民を取り締まるためです。
 今の日本の刑法は具体的な被害が生じてから捜査が始まります。共謀罪は「犯行を計画する」「犯行に必要な物品を購入する」といった犯罪の前段階で捜査や逮捕が可能になる。日本の刑法理念を根本から覆すとんでもない法律で、捜査手法も大きく変わります。
 具体的な被害が生じていないのだから、捜査機関はあらかじめ目星を付けた団体や個人を監視して証拠をつかむしかない。共謀罪ができれば、「危険団体」「危険人物」というレッテル張りが横行するでしょう。
 何をもって「危険な団体」とするかは警察や検察が判断します。今でも公安警察が労働組合やデモを日常的に監視しているのはご存知ですか? もちろん違法ですが、共謀罪ができれば堂々と監視も盗聴もできます。
 例えば原発再稼働反対や、辺野古新基地反対の集会も取り締まることができる。たとえ逮捕までいかなくても、「何となく危ない団体だから、近づかないようにしよう」とのムードが国民の中にできる。政府の狙いはこちらです。このようにして、国策に反対する運動を封じ込めるわけです。

電話やメールも監視

 「アカ」や「特高」(特別高等警察)という言葉を聞いて、ピンとくる人はいますか? 私は大学で講義していますが、最近の学生は現代史を学んでいないので想像が及ばない。「蟹工船」で有名な作家、小林多喜二も特高の拷問で殺されました。彼は貧困の実態を描く小説を書いただけで、治安維持法が適用された。共謀罪ができれば同じような暗黒時代がやってきます。
 帝国議会は1925年、戦時体制を確立するために治安維持法を制定しました。最初は左翼政党が対象でしたが、やがて創価学会など宗教団体や教師、雑誌編集者、ひいては単に「社会を学ぼう」というサークル活動まで、すべて弾圧・粛清の対象となりました。
 隣組制度を使って密告社会を作り、戦争に反対する国民は「非国民」「アカ」と呼ばれ村八分になった。戦局が悪化しても誰も反対できず、原爆投下まで突き進んでしまったわけです。
 犯行の前段階で捜査を始める共謀罪も、監視か密告でしか証拠をつかむことができません。電話やメール、SNSなどあらゆるツールが監視の対象になるとともに、密告やスパイが横行、国民は相互不信に陥ります。

治安維持法は死んでない

 治安維持法は戦後、GHQによって廃止されました。しかし、そのシステムは生きています。
 例えば「自白」を裁判の証拠として使えるのは、治安維持法が始まりでした。こんな制度は先進国では日本だけで、自白の強要によりえん罪の多発につながっています。物証が何もない共謀罪は自白で立証するしかなく、えん罪がより増えるのは間違いありません。
 他にも強制捜査権など治安維持法下で拡大した捜査権限の多くが現在も温存されています。共謀罪ができれば旧システムが再び動き出し、戦前のような人権弾圧が横行するでしょう。

黙ってはいけない

 共謀罪は単なる一法律ではありません。政府はここ数年、安保法制をはじめ秘密保護法、盗聴法拡大など、戦争ができる国へ向けて一連の法整備を進めてきました。共謀罪はその総仕上げともいうべき法律です。
 世界は今、「刑罰国家」と「福祉国家」に二極分化を始めています。福祉ではなく、“脅し”で国民を統治するのが刑罰国家で、日本はトランプの米国とともに刑罰国家への道を突き進もうとしている。
 格差と貧困の拡大で国民の不満が大きくなっています。不満が政府に向かないように、黙らせるのが共謀罪の目的です。治安維持法も国民の権利運動をつぶすのが目的でした。今の憲法は国民1人1人が基本的人権の権利主体で、権利を「天皇の恩恵」と位置づけた明治憲法とは大きく違います。
 ところが、政府は「自己責任論」を喧伝し、基本的人権の意味を戦前の「恩恵」に変えようとしている。私たちは黙っていてはいけません。


全日本民医連が反対声明

 全日本民医連は2月17日、理事会アピール「共謀罪法案を阻止しよう」を発表。総がかり行動実行委員会の緊急統一署名(5月末集約)に取り組みます。また、パンフレット『一からわかる共謀罪』(200円)などを使い学習します。パンフの問い合わせは日本消費者連盟(tel03・5155・4765)へ。


※治安維持法
1925年制定。28年の改定で最高刑が死刑に。同法による逮捕者は数十万人、虐殺や獄死は500人以上と推定される。帝国議会で治安維持法改悪に反対した山本宣治議員は29年、右翼に暗殺された。この事件を機にできた「無産者診療所」が民医連のルーツ

いつでも元気 2017.4 No.306