安心して住み続けられるまちづくり・大分 広がり始めた「こども食堂」の輪
文・寺田希望(編集部)/写真・五味明憲
近年、全国的に広がっているこども食堂。
大分県医療生協でも組合員や子どものいる職員が中心になって、昨年7月に「つる子ども食堂」を立ち上げました。
大分健生病院(大分市)のすぐそばに、昔ながらの平屋の民家があります。ここは大分県医療生協津留支部のたまり場「なごみの家」。普段は班会をしたり、高齢者の食事会をする大人たちの交流の場ですが、月に1回、こども食堂に変身します。
つる子ども食堂は毎月第4土曜にオープン。正午~午後1時半が昼食の時間で、中学生以下の子どもは無料、大人は200円で食べられます。準備は9時頃から始まり、10時以降は早く来た子どもたちが別室で遊ぶこともできます。昨年11月からは、絵本の読み聞かせや紙芝居も始めました。
取材に伺った日はクリスマスイブ。持ち寄ったタペストリーやリースが雰囲気を演出します。特別メニューとして手作りのクリスマスケーキも。子どもたちは目の前で切り分けられるケーキに目を輝かせていました。
「サミット」が契機に
こども食堂の中心となっているのは大分県医療生協副理事長の松本茂子さん(62)と組織課の山下藍さん(31)。山下さんは3歳の娘さんがいます。以前から理事会や社保平和委員会で子どもの貧困が話題に上ることも多く、自分たちも何かできないかと考えていました。
転機となったのは昨年4月、福岡で行われた「こども食堂サミットin九州」でした。松本さんが参加して、こども食堂の理念や作り方を聞き、始めることを決意。組合員や職員からなる実行委員会を組織し、7月に第1回を開催しました。開催前には教育委員会に許可を取り、近くの津留小学校にもチラシを配りました。
こども食堂で使う食材の多くは組合員や職員からの寄付。「職員の意識も変わってきたのかな」と言うのは山下さん。「仕事をしながら組合員活動に参加するのは時間的に大変だけど、こども食堂は多くの職員が手伝いに来たり、食材の提供をしてくれたりと力を貸してくれます」と言います。寄付が難しい肉や調味料は、大人の食事代の中でやりくりしています。
また、手伝いに来てくれた人には「一度きりではなく継続して関わってほしい」との思いからサポーター登録をしてもらうようお願いしています。今では実行委員とサポーター合わせて、毎回10人ほどが切り盛りしています。
つながり生かしたお誘いも
実行委員でけんせい歯科クリニックの歯科衛生士・佐藤千代子さん(40)は、自身も小学3年生の子どもを持つ母親。佐藤さんは子どもが通う児童育成クラブでも、こども食堂を紹介しています。
児童育成クラブは月に1回、土曜日も開所しますが、お昼はお弁当を持参しなくてはいけません。たまたま児童育成クラブとこども食堂の開催が重なった10月には、指導員と保護者の了解を得て、児童たちにこども食堂に来てもらいました。「16人くらい来てくれて、指導員の方も『毎月(こども食堂のある)第4土曜に開所しようかな』なんて言ってくれたんですよ」と佐藤さん。
地域密着型を目指して
新しい広がりもあります。こども食堂のサポーターで組合員の女性が、息子が住職をしているお寺の敷地内でこども食堂を始めたのです。「もっと色々な地域で始められたらいいですね」と山下さん。
「医療生協の枠を越え自治会長や民生委員、児童委員に趣旨を伝えて、つながりを作っていきたい。この辺りは高齢者が多いから、大人と子どもをつなげる役割も担っていけたらと思います」と話します。
松本さんも「私たちの世代には、まだまだ子どもの貧困を疑問に思う人も多いと思います。そんな人たちにも私たちが話をすることで、メディアでこども食堂が取り上げられた時に関心を持ってもらえる。時間はかかるかもしれないけれど、みんなにこども食堂や子どもの貧困のことを知ってほしい。焦らずに続けていくことに意味があると思います」と語ります。
今後はサポーターを増やし、平日の夕方の開催や、無料塾もできたらと構想を練っています。
いつでも元気 2017.3 No.305