映画「大地を受け継ぐ」
文・宮武真希(編集部)/写真提供・太秦株式会社
福島第一原発事故から6年。
事故は未だ収束せず、8万人を超える県民が避難生活を送っています。
農林水産業・商業などの「生業」も、再建に向けて努力を続けていますが事故前の状況には戻っていません。
映画「大地を受け継ぐ」は、事故で父を奪われ土地を奪われた、福島県で農業を営む男性の「言葉」を伝えます。
ある農家の孤独と葛藤
映画の主人公は、福島県須賀川市の樽川和也さん。和也さんは母の美津代さんと2人で、農業を営んでいます。
2011年3月23日、原発事故を受けて地元の農業団体から「農作物出荷停止」のファクスが届きました。和也さんの父親は「お前に農業を勧めたのは、間違っていたかもしれない」と言い残し、翌日に自死します。
それから4年後の2015年5月。16歳から23歳までの学生11人が、農業を続ける樽川さん親子のもとを訪れます。和也さんは学生たちを居間に招き入れ、父が亡くなった時のこと、東電の紛争解決センターの対応、原発事故以降の孤独と葛藤を語るのです。
「汚染された土地で育てた作物を流通させている」という、生産者としての罪の意識も真っすぐに語る和也さん。カメラは、話に聞き入る学生たちの姿もとらえます。
監督の井上淳一さんは「樽川さんに初めて会ったとき、僕もあそこの居間に座って話を聞きました。農作物を作らなくても農家の方は損害賠償や補償金をもらっているのだろうと思っていたので、なぜ樽川さん親子が作り続けているのか分からなかった。実際は、農作物を作って流通させて、原発事故前より利益が減った差額を賠償する、というシステム。僕はこのことを知りませんでした。そして、この知らないことをなんとか伝えなきゃ、と思ってこの映画を作りました」。
何を受け継ぐのか
「先祖代々受け継いできたこの地を手放すわけにはいかない」と語る和也さん。苦悩しながら土地を耕し続ける母子の姿も映します。
井上さんは「大地を受け継ぐのは彼だけではない。また、受け継ぐのは大地だけではないでしょう。我々は何を受け継ぐのか?、それを考えるきっかけになれば。映画を観た人の心に残った小さなひっかき傷が、うずき出して広がってほしい」と話します。
全国で上映会を
「大地を受け継ぐ」を企画した馬奈木厳太郎さん(弁護士)
撮影から約2年が経ちますが、福島の被害はいまも続いています。それにもかかわらず、政府は生業への賠償や住宅無償提供などを打ち切る政策を次々と具体化しています。被害者の命綱が切り捨てられようとしているのです。
映画に登場する樽川さん親子は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団の一員です。この映画を全国で広げて、裁判にもぜひ関心を持っていただければと思います。
■公式ホームページ
https://daichiwo.wordpress.com/
■上映会の問い合わせ先
太秦株式会社
電話03-5367-6073
Mail:info@uzumasa-film.com
いつでも元気 2017.3 No.305