認知症Q&A 二人三脚の支援
お答え・大場敏明さん(医師)
Q.夫は定年後に認知症と診断されました。高血圧でかかっていた近くの医院に定期的に通院して、ドネペジル(認知症治療薬)を飲んでいます。このままでも大丈夫でしょうか?
生活習慣病で通院している「かかりつけ医」に、認知症の治療も受け持っていただけることはとても良いことだと思います。“なじみ”の信頼関係、身近で生活している“ご近所同士”の関係で、認知症治療を適切に長く継続していくことができます。
しかし治療をより効果的にするには、内服治療だけでは不十分です。例えば高血圧などの生活習慣病は、薬とともに食事療法、運動療法の重要性が強調されています。
認知症は他の病気以上に、単に症状だけに注目するのではなく、生活と人生をトータルに見て治療していくことが求められます。医療と認知症ケア、家族の三者が密接に協力しあい、患者さんを全体として1つの力で支援していく「二人三脚の支援」が必要です。
認知症ケアとの二人三脚
最初に介護事業所などを利用する認知症ケアについて紹介します。認知症の方は出不精になりがちです。特に会社員の男性は家と会社の往復ばかりで地域社会から孤立していた方が多く、定年後に認知症になると家に閉じこもる傾向があります。
閉じこもりを解消したり、介護する家族の息抜きのためにも、デイサービスの利用をお勧めします。いきなり介護施設を利用することに躊躇する場合は、認知症の相談や家族の交流ができる場として、自治体や事業所、法人などが開設している「オレンジカフェ」や、共同組織をはじめボランティア団体が運営する高齢者の居場所、老人会のサロンなど地域資源を利用するのも有効です。
また、利用している介護事業所から本人の様子を医療側に伝えてもらうことは、治療を進めるうえで重要です。私の経験上、かかりつけ医と介護事業所が連携し、頻繁に情報交換をしていると治療への重要なヒントを得ることもしばしばあります。認知症ケアについては、次回以降で詳しく紹介します。
家族との二人三脚
続いて家族の支援について紹介します。昨年11月号から4回にわたり、本欄で「認知症の予防法」を紹介しました。食事や運動、脳トレ、生活習慣病対策について述べましたが、「予防法」は認知症の進行を抑制する「治療法」にも通じます。認知症と診断されたら、ご家庭で予防法(進行抑制法)に取り組んでいただきたいと思います。
食事については「妻が準備する」というご家庭が多いかと思います。定年後は男性も一念発起して、献立や買い物、調理に取り組んでみてはいかがでしょうか。認知症になっても自立した生活を送れるよう、ご家族が上手に励ましてください。
運動については、ウオーキングをお勧めします。ご夫婦で一緒に、脳トレも兼ねた「引き算歩行」や「しりとり歩行」が有効です。これは文字通りの「二人三脚」ですね。
また、かかりつけ医にとって家族からの情報も極めて重要です。私は認知症患者のご家族に(1)家庭での生活の様子(2)認知症の症状(3)行動・心理症状の有無(4)内服薬の効果と副作用について、前回の受診時と比較したものをメモ書きにして持参するようお願いしています。こうした情報を医師へ伝えていただけると、薬の評価や副作用の有無を把握でき、不要な薬を中止したり必要な薬を追加することができます。
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二人三脚の支援を実現するうえで重要なポイントになるのは、かかりつけ医にその意識があるかどうかです。医師の中には認知症への苦手意識が残っていたり、内服薬の調整を優先しがちな方もいます。家族から後押ししていただき、薬物治療とともに認知症ケアにも取り組めるようにしてください。
いつでも元気 2017.3 No.305