けんこう教室 睡眠時無呼吸症候群
「睡眠時無呼吸症候群」とは、夜間寝ている間にいびきを伴って呼吸が中断する病気です。患者は全人口の約2%、200万人と言われていますが、自覚症状のない人を合わせるとこの数倍はいると思われます。患者の7~8割には肥満がみられ、生活習慣病だと言えるでしょう。
当病院の外来には「いびきをかくから気になって」「妻から呼吸が止まっていると言われて」と受診する患者さんが多くいます。鳥取市内で睡眠時無呼吸症候群の詳しい検査ができるのは当病院を含め3施設だけなので、他の医療機関からの紹介で受診される方が多くいます。
この病気は昼間に強い眠気を感じることが多く、居眠り運転による交通事故の原因となります。最近ではバスやタクシー、運送業界などで、運転手に検査を義務づけていることもあります。
さらに高血圧症、心不全、心房細動、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす怖い病気でもあります。高血圧症の30%、心不全の76%、心房細胞の50%、脳梗塞など脳血管障害の50%以上が睡眠時無呼吸症候群の合併症として発症しているというデータもあります。しかし、残念ながら命に関わる病気であると認識している人は少ないのが現状です。
症状
主な症状は昼間の強い眠気、朝起きた時の頭痛、集中力の低下、夜間頻尿、勃起不全などです。
また、二次性高血圧症を最も引き起こしやすい疾患でもあります。健康な人であれば、睡眠中の夜間から早朝にかけて血圧は10~20%下がりますが、睡眠時無呼吸症候群の患者は寝ている間に何度も呼吸が止まるため、逆に血圧が上がってしまうのです。
また、治療抵抗性高血圧症の80%は睡眠時無呼吸症候群が原因です。薬によって血圧をコントロールできない方は睡眠時無呼吸症候群が隠れていることもあるので、検査が必要でしょう。
さらに、気管支ぜん息を治りにくくしている原因の1つだったり、最近では糖尿病の原因としても注目されています。これらの病気や、心不全、心房細動、狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳血管障害を患っている人は、睡眠時無呼吸症候群を疑ってみる必要があります。
原因は2種類
10秒以上空気の出入りが90%以下に低下する無呼吸と、70%以下となる低呼吸の1時間あたりの合計数をAHI(無呼吸低呼吸指数)と言います。AHIが5以上で、昼間の眠気や夜間のいびき、窒息感などの症状がある場合、または高血圧、認知障害、冠動脈疾患、うっ血性心不全、心房細動、II型糖尿病のいずれかがある場合を睡眠時無呼吸症候群と定義します。AHIが15回以上の時は、症状は問いません。
無呼吸の原因は2つあり、閉塞性(O-SAHS:閉塞性睡眠時無呼吸)と中枢性(C-SAHS:中枢性睡眠時無呼吸)に分けられます。
閉塞性はのど(上気道)の閉塞が原因で、患者の9割はこちらです。あおむけに寝た時に舌根や軟口蓋が落ち込んでのどが塞がったり(図1)、扁桃肥大によって気道が狭くなって呼吸が止まってしまうのです。
肥満の人は首回りに脂肪がついていて気道が狭く、塞がりやすい状態になっています。肥満でない人でも日本人はあごが細く気道が狭いため、他の民族より閉塞性になりやすいと言われています。
一方、中枢性は脳の呼吸中枢の異常が原因です。呼吸をする指令が脳から出ないために呼吸が止まります。過去に脳血管障害を患ったり心不全などの心疾患の人にみられます。
閉塞性の患者にはいびきの症状があるのに対し、中枢性の方は気道が狭まっているわけではないので自覚症状がなく、睡眠時無呼吸症候群だと気付きにくい方も多くいます。
閉塞性と中枢性の混合型もあり、最近では閉塞性の治療後、新たに中枢性が出現する特殊な事例も注目されています。閉塞性の治療を始めても改善がみられない人は注意が必要です。
診断
来院された方にはまず問診をします。いびきや昼間の眠気、朝起きた時の頭痛、夜間の頻尿など典型的な症状がないかを伺います。合併症として高血圧や糖尿病を引き起こしている方も多いので、病歴も確認します。
問診の結果、睡眠時無呼吸症候群が疑われる時は、簡易検査を行います(図2)。機械を自宅に持ち帰ってもらい、一晩の無呼吸・低呼吸の回数や血中酸素飽和度を測定します。
当病院では簡易検査でAHIが5以上40未満だった方は1泊入院をして、「夜間ポリソムノグラフィー検査」というさらに詳しい検査を実施します。簡易検査でAHI40以上だった場合は、夜間ポリソムノグラフィー検査を受けなくても診断が確定し、保険で治療を進めることができます。
夜間ポリソムノグラフィー検査は夕方に入院して翌朝退院するので、そのまま仕事に行けます。検査では脳波や呼吸の状態、血中酸素飽和度を正確に測定して睡眠の深さやAHIを調べます(図3)。費用は窓口負担3割の方で簡易検査は約520円、夜間ポリソムノグラフィー検査は約2万8000円です。
検査の結果から、AHI5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症として、今後どのように治療していくかを決定します。
治療
AHI5~20の比較的症状が軽い閉塞性患者の治療には、歯科装具(マウスピース)を使い治療します。睡眠時に下あごを5mmほど前に出して固定することで、のどの狭窄を改善します。この治療は持ち運びや管理が簡単であるという利点があります。
AHI20以上だった閉塞性患者には、睡眠時にCPAP(持続陽圧呼吸)装置(図4)をつけていただきます。医師の指示によって決められた圧力をかけた空気を送り込み、のどの狭窄を防ぎます。
CPAPを利用している当病院の患者は243人(2016年11月現在)で、窓口負担3割の方で1カ月の管理料は4570円程度です。以前は月に1度の受診が義務づけられていましたが、昨年4月からはCPAPの最低目標である1日4時間以上、週5日以上の使用ができていて症状が安定している方は、最大3カ月に1度の受診でよくなりました。
最近はCPAP装置の改良が進み、選択の幅も広がっています。音が静かで加湿装置がついていたり、圧調節が生理的なものに近い高機能な装置も出てきています。使用している装置やマスクが合わないと感じる方は、主治医に相談してみましょう。
中枢性は閉塞性と違い、気道は塞がっていないのに脳からの指令がなく呼吸が止まってしまうので、主に人工呼吸器での治療になります。夜間ポリソムノグラフィー検査でAHI20以上だった中枢性の方は、在宅人工呼吸器の使用が保険で認められています。
外科手術はあまり多くはありませんが、若い人で明らかに扁桃肥大によって気道の狭窄がみられる場合には、除去手術を行うこともあります。
肥満の改善が効果的
この病気の患者は圧倒的に肥満の方が多く、体重を減らせばそれだけで治ることもあります。病気を治すにはCPAPなどでの治療と同時に、食事運動療法も並行して行いましょう。
しかし、急激なダイエットはとても危険です。私の外来では数年がかりで5~10kg痩せることを目標にして、 「毎日なるべく歩くことを意識して、週に1回は汗をかく運動をしてください」と伝えています。また、過度な飲酒は症状を悪化させることにもなりますので、気をつけてください。
睡眠時無呼吸症候群は『ハリソン内科学書』(17版)によると「最近50年間で認識された最も重要な疾患の1つである」と言われるほど、重篤な病気です。さまざまな合併症を引き起こし、放っておくと命を落とすこともあります。昼間に眠気を感じたり、いびきをかいている人は、1度検査を受けることをおすすめします。
いつでも元気 2017.2 No.304