支え合いまちづくり・山口 1人暮らしの男性を孤独にさせない 医療生協健文会・小野田中央支部「お結びの会・男前サークル」
文・井口誠二(編集部)/写真・野田雅也
医療生協健文会(山口)の小野田中央支部(山陽小野田市)では、孤独になりがちな1人暮らしの男性の交流の場を作ろうと、今年3月から月1回の「お結びの会・男前サークル」を始めました。
「ようおいでました、元気にしちょった?」。お結びの会ののれんをくぐった男性参加者に、元気な声がかかります。ここは生協小野田診療所2階の組合員ルーム。毎月第3木曜の午前11時から午後1時までが「お結びの会・男前サークル」の時間です。
会をまとめるのは、小野田中央支部長代行の大村敬子さん。「さっちゃん、お茶出してくれる?」「瀬戸崎さん、座って座って」とテキパキ指示を出しつつ、参加者を迎えます。すぐ横の調理場では、支部のボランティアが手際良く料理を作っています。
料理の材料はできるだけ切り分けたものを持ち寄り、手間を省いています。「目的はあくまで会話を通した交流。料理に一生懸命になると、あまり話さなくなってしまう」と大村さん。そもそも「お結びの会」の由来は、「簡単にできる料理=おむすび」との思い付きでした。
積み重ねた信頼
この日の参加者は、50~80代の1人暮らし男性が10人。大方集まったところで、参加者とボランティアが入り交じって「じゃんけんペタンコ」が始まりました。一投一投に一喜一憂したあとは、食事会。汁物の取り分けや配膳は、参加者も手伝います。ごく自然に見える光景ですが、初期の様子は全く違いました。
参加者の大半は、黙って用意されたご飯を食べるだけ。難しい表情を並べた男性陣に、大村さんたちも会話の糸口をなかなか掴めませんでした。それでも「何とかコミュニケーションをはかろう」と話を続け、帰り際には参加者一人一人と握手をして「ありがとね、来月も忘れんでね」と見送りました。少しずつ積み重ねた信頼が、心の溝を埋め、笑い合える関係を育てたのです。
「話し相手ができたよ」
率先して汁物を取り分けていた坂本誠さんは、初回から毎月の参加。「ここだと最年少だから働かないとならんのです」と笑います。普段の生活を聞いてみると「外にはあまり出ない。家で1人で酒を飲んでる日も、誰とも話さない日もある。けど、ここに来るようになって知り合いが増えたね。別の場所で会ったときも話す人ができたよ」。
6月から参加している金崎廣二さんは「家ではパン1つ食べるきりだけど、ここでうまい飯が食べられるよ。滅多に外に出ないけど、月1回ここに来るのが楽しみ。余程のことがない限り必ず来たい」と少し恥ずかしそうに話してくれました。
お結びの会が楽しみなのは、ボランティアも一緒。「私たちも来るのが楽しみ」と笑う武野敏恵さんは「ボランティアの女性も1人暮らしが多い。ここで色んな人とつながれて交流できるのは、すごく良いことなんよ」と話します。
つらい思いをバネに
笑顔溢れるお結びの会ですが、きっかけはつらい経験からでした。いつも班会に参加していた1人の組合員さんが認知症を発症。家族がふと目を離した間に行方不明になり、数日後遺体で発見されました。
「元気な時は班会に来るけど、そうじゃなくなったら来られなくなって、挙げ句亡くなってしまった。何のための医療生協なのかと悩みました」と大村さん。
同じ頃、アルコール依存症から自殺願望を抱くようになった1人暮らしの男性のことで、支部に相談が舞い込みます。生活相談の援助などをするなかで、地域に同じような境遇の人が多くいることが分かりました。
そこで「独りぼっちにさせない。人と人を結ぶ場を作ろう」と、お結びの会が生まれました。組合員から地域の1人暮らしの男性の情報を集め一軒ずつ訪ね歩き、参加を呼び掛けました。
最初は「1人でも困ってないし大丈夫」と断られましたが、「とにかく一度来てみて」とお願いし続けました。そうして迎えた初回は7人の参加。2回目以降は参加者が友人を連れてくるなど、少しずつ広がっています。
多くの人に声を掛けて連れてきた組合員の大木千代子さんは「家の中で1人じゃいけん。人は1人になっちゃいけん」と静かに訴えます。
今後の目標は、参加者が主体となってさまざまな地域にお結びの会を作ること。11月には、大村さんらが関わらないお結びの会が開かれます。「どんな地域にも孤独や貧困がある。地域の人たちが自発的に作るお結びの会があればいい。私たちの会が、そのモデルケースになれば」と大村さんは話します。
いつでも元気 2016.12 No.302