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いつでも元気

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最も必要な人に最も届かなくなる 介護保険改悪の狙いに迫る

政府は介護保険制度のさらなる改悪を狙っています。来年1月から始まる通常国会に、利用料の一律2割負担など法案を提出。2018年4月に施行するつもりです。私たちの生活はどうなってしまうのか? 全日本民医連次長の林泰則さん(介護・福祉部)に聞きました。
聞き手・井口誠二(編集部)

林泰則さん

林泰則さん

 2015年4月から改正介護保険制度が始まり、特別養護老人ホームの入所対象の限定化や要支援サービスの総合事業への移行など、様々な改悪が行われました。
 この上さらに、国民生活を苦しめる改悪が狙われています。現在検討されている内容は、(1)利用料の一律2割負担化、(2)要介護2以下の福祉用具貸与の自己負担化、(3)要介護1・2の生活援助の自己負担化です。

必要な人に届かない

一律2割負担

 政府は2015年4月の改定で、一定以上の所得がある人の利用料を1割負担から2割負担に引き上げました。さらに今回は、65~74歳の利用料を所得に関わらず一律2割負担にしようと狙っています。
 1割負担でも「利用料が高すぎて払えない」と、介護サービスの利用を諦めてしまう人たちが多くいました。ただでさえ高い利用料を、所得に関係なく2倍にしようというのです。計り知れない影響を及ぼす大問題です。
 国民年金の平均受給額は月4・4万円。この中から利用料を何とか捻出し、ギリギリで暮らしている人は多くいます。また貧困が広がっている昨今、「不安定な職に就いている子が親の年金を頼りに暮らしている」という家庭も珍しくありません。利用料が2倍に増えたら、所得の低い人ほど介護保険の利用を諦めざるを得ません。
 健康格差に詳しい近藤克則教授(千葉大学)の研究では、「所得が低いほど、介護が必要な状態になりやすい」というデータが出ています。改悪されれば最も介護が必要な人に、いっそうサービスが届かなくなってしまうのです。

手足を奪われる

福祉用具貸与自己負担化

 福祉用具とはつえや車いす、介護ベッドなど。これらを使って暮らしている人にとっては、まさに身体の一部です。自己負担化とは保険給付の対象から外し、全額自費になること。これまでの1割負担から、10倍の料金を払わなければなりません。そんな大金を払える人がどれだけいるでしょう。
 「要介護1・2の軽度者」と言っても、片麻痺でつえなしでは歩けない人や、自力で起き上がれず介護ベッドを使ってようやく車いすに移ることができる人もいます。この改悪は、今まさにつえを使って歩いている人から、つえを奪い取るようなものです。
 つえの代わりに家族の手を借りる人もいるでしょう。そうなれば、当然家族の介護負担も増え、介護離職にも拍車が掛かります。

本質が見えていない

生活援助自己負担化

 生活援助とは、ヘルパーが掃除や洗濯などの家事支援を中心に生活全体を支えるサービスです。軽度者であっても生活に欠かせないサービスですが、これも自己負担化や市町村が実施する総合事業への移行が狙われています。
 ヘルパーの役割は、家事ができない人の代わりに、ただ買い物や料理をするだけではありません。例えば料理をする際、冷蔵庫を開けて最近の食事状況や健康状態を確認するなど、サービスを通して生活全体を見て支えることが役割です。認知症についても、専門職が初期段階から関わることが非常に重要です。

高齢者の問題ではない

 「介護保険」と聞くと、「高齢者の問題」と思われがちですが、誰もがいずれ介護を受ける・する立場になります。また、介護保険料は40歳以上の誰もが払います。他人事ではありません。
 政府や省庁は「財源がない」と言って、保険給付を切り下げようとしていますが、一方で軍事費は右肩上がりで今年度初めて5兆円を超えました。
 必要な介護を受けられないことで、健康状態の悪化や認知症の重症化が進みます。するとかえって医療費や介護サービス費が増大し、結果的に社会保障費がますます膨らみます。家族の負担が増え、介護のために仕事を辞めざるを得ない人も増えるでしょう。
 介護保険制度の改悪が進む今、介護を受けている人・している人、家族、職員が当事者として声を上げなくてはいけません。全日本民医連は「介護保険制度の見直しに対する請願署名」を始めました。ご協力をお願いします。

※総合事業とは
 介護予防・日常生活総合支援事業の略称。2014年の介護保険法改定で、介護給付費削減策の一環として要支援者の訪問介護、通所介護を市町村事業に移行させることが決定。2018年3月までに、全市町村での実施が義務付けられている。
 受け皿は現行の予防給付相当サービスのほか、人員基準を緩和したサービス、住民主体のボランティアなど。運用は市町村の裁量に委ねられるため、サービスの取りあげや受療権の侵害となりかねない。現行より低い単価や人員基準で実施したり、ボランティアへの委託も可能なため、サービスの質の低下が懸念される。

いつでも元気 2016.11 No.301

新ほっと介護特別編 なりふりかまわず負担増