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いつでも元気

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真の人道支援とは ジャーナリスト・志葉 玲 イラク 国内避難民の困窮

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イラク北部アルビル郊外の避難民キャンプ。IS支配下のモスルから逃げてきた人びとが多い

 「日本も汗を流せ」「国際貢献をすべきだ」─こうした主張の中でいつも取沙汰されるのは、自衛隊の紛争地への派遣だ。安保法制が施行された現在、以前にも増して自衛隊は危険な任務を担うかもしれず、それはまた、現地の人びとと自衛隊が殺し殺される関係になる危険性もはらんでいる。だが、そもそも国際貢献とは、非武装でおこなうものではないのか。
 イラク戦争開戦から13年あまり、現在もイラクで支援を続ける高遠菜穂子さんの活動を見ていて、いつも思うのだ。これこそが平和憲法に根差した国際貢献のあり方だと。

高遠さんを訪ねて

 今年2月、イラク北部クルド人自治区で活動する高遠さんを訪ねた。クルド人自治区の治安は他の地域よりも安定しており、それ故、イラクの他の地域から逃げてきた国内避難民が押し寄せている。
 アルビル郊外の避難民キャンプには、粗末なテントや仮設住宅に人びとが暮らしていた。「イラクの国内避難民は320万人以上と言われています。国外に出られた、いわゆる“難民”と違い、日本を含む海外メディアで国内避難民の状況が報じられることは少なく、支援も不足しがちです」と高遠さんは言う。
 「南部は暑いイラクですが、北部の高地の冬はとても寒く、氷点下になることもあります。でも、避難民は十分な灯油がなく、寒さで凍えています。毛布も足りません。ひどい場合、10人に1枚以下という割合です。それでも、不十分ながらも支援が受けられるキャンプに入れた人びとは、まだまし。国連などが運営するキャンプに入れるのは避難民の2割程度です。ほかは、民家やホテルにぎゅうぎゅう詰めで暮らしたり、建設途中の建物や、ガレージなどに住んでいたりします」。 

情勢は日々厳しく

 避難民の多くは、避難先で再就職できなかったり、あるいは一家の大黒柱である男性が殺されていたりして、経済的に困窮。日々食べるものにも困る状況だ。高遠さんは避難民自身がつくったNGOと協力し、アルビルとその北東の町シャクラーワで食料配布をおこなった。
 「今回は117家族に、4・7トン分の食料を届けました。豆4種、栄養粉ミルク、食料油6本、紅茶の詰め合わせと米25キロのセットを配りました。でも、正直なところ全然足りません。もっと予算があるといいのですが…」。
 支援は全て高遠さんが集めたカンパによって賄われている。日本で講演などをおこない、カンパを募り、その資金を持ってイラク北部や隣国ヨルダンへ渡り、支援物資を人びとに送る。そうした活動を米軍がイラクの占領を開始した2003年5月から13年も続けている。「まるで、砂漠に水を撒くようだ」と高遠さん。
 「私は国連や大手NGOの支援の届かない『隙間』の部分を支援してきたつもりでした。しかし、ISの台頭と、それに対するイラク政府軍の掃討作戦で、避難者は増える一方。いつのまにか『隙間』が広がり、大きくなってしまったのです」。
 筆者が帰国してからも、イラク情勢は厳しさを増していく。今年5月には、IS支配下の都市・ファルージャの奪還作戦がイラク軍によって開始された。しかし5万人以上の一般市民が取り残されたまま空爆がおこなわれ、病院も攻撃されるなど、多くの市民が巻き添えになった。また、ISの戦闘員になることを拒否した男性や少年が処刑されるなど、ISもまた深刻な脅威として、ファルージャの人びとを苦しめた。

新たな避難民を生む背景

 今年6月、イラク政府は「ファルージャを奪還した」と発表したが、「ファルージャ周辺にはまだISがおり、根絶やしになったわけではない。そのうえ不発弾や仕掛け爆弾だらけの同市に、避難した人びとがすぐに戻れるわけではありません」と高遠さんは言う。
 8万人とも言われるファルージャ奪還作戦で生まれた避難民のため、高遠さんは今年7月、現地の友人たちの協力のもと、4万2000本の水と1袋10枚入りのパン4000袋、食料セット500個といった支援物資を2000家族に配布した。
 イラク情勢の混乱の背景には、米軍のイラク統治の失敗と、戦争後に新たに発足したイラク政府がイスラム教スンニ派を冷遇し、弾圧してきたことがある。そうしたことが、ISの支配領域が広がった大きな要因の1つとなった。
 高遠さんは、国連の人権にかかわる会議に参加でき発言権をもつNGO「ヒューマンライツ・ナウ」と共に、イラクの人権状況について度々声明を出しており、ファルージャ奪還作戦についても声明を出している。人道支援とは、アリバイ的に軍隊を派遣することではない。高遠さんのような活動こそ評価され、またより多くの人びとが参加していくべきだろう。

■高遠さんへのカンパ振込先
郵便振替口座番号:02750-3-62668
加入者名:イラク支援ボランティア
     高遠菜穂子

いつでも元気 2016.9 No.299