いきいきシニアライフ(8) 相続 その1 “争続”にしない準備を「法定相続人」とは
必ず発生する相続
故人の納骨を終えると相続が待っています。戦後は民法が変わり、長男が優遇されていた戦前に比べ、子は平等に相続できる権利が認められました。ところが、遺族間で遺産分割の話し合いがまとまらないことも多く、ある調査では相続のうち約一五%が“骨肉の争い”になっています。残り八五%の中でも、「今後、争いになる可能性がある」と答えた方が四七%と約半数もいました。
相続というと、「資産家の問題」「私には関係ない」と思う方もいるかもしれません。しかし、たとえ財産が少なく相続税はかからなくても相続は必ず発生します。遺産が少ないからこそ、奪い合う確率も高いといえます。
親は子どもたちが仲良く助け合って生きてほしいと願います。だからこそ「“争続”にならない相続の準備」が必要なのです。
遺言書を確認
相続全体の流れを説明しましょう。相続の手続きや相続税の計算において、亡くなった人を「被相続人」、財産を受け取る人を「相続人」と呼び、民法で定められた相続人のことを「法定相続人」と呼びます。
相続の手続き開始の日は、相続人が被相続人の死を知った日になります。表1のとおり、まず遺言書の有無を確認します。遺言書がある場合は、法定相続の規定(例・子が二分の一を相続など)より、遺言書の内容が優先されます。
遺言書は勝手に開封してはいけません。公正証書以外は、家庭裁判所で開封の手続き(検認)が必要です。勝手に開封すると、罰せられます。
財産の確認と申告
続いて、相続人と相続財産(債務を含む)の調査を開始します。債務が相続財産を超過していれば「相続の放棄」をすることもできます。
また、「被相続人が保証人になっていたようだ」など債務の金額が不明な時は、「限定承認」という方法をとることもできます。限定承認は相続財産より債務が超過していた場合は、超過分の債務に責任を負わず、財産が残れば相続することができる方法です。
相続の放棄か限定承認かを相続人全員で合意し、三カ月以内に家庭裁判所に申し立てます。期限が過ぎれば債務を含め全財産を相続することになります。
「故人が債務保証をしていたことを知らずに相続。三カ月を過ぎてから、債権者から返済を迫られ全財産を失った」という事例もあり、注意が必要です。
また、亡くなった年の一月一日から、被相続人の死亡までの期間に被相続人に所得があった場合は、亡くなった日から四カ月以内に所得税の申告をしなければなりません。
その後、相続人と相続財産を確定し、一〇カ月以内に相続税の申告と納税をします。最後に、相続財産の名義を変更して完了です。
相続人の確定
相続人は遺言書の内容が優先されます。遺言書がない場合は、被相続人の戸籍謄本を出生から死亡まで切れ目なく調査し、法定相続人を確定します。
配偶者(妻または夫)は常に法定相続人になります。被相続人に子がいる場合は、子が法定相続人の第一順位です。子が無く父母がいる場合は、父母が第二順位となり、子も父母もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が第三順位となります(イラスト)。
第一順位の法定相続人がいる場合は、第二順位以降の人に相続の権利はありません。第二順位の法定相続人がいる場合は、第三順位の人に相続の権利はありません。
分割割合は、第一順位は配偶者と子が二分の一ずつ(子が二人の場合は四分の一ずつ)。第二順位は配偶者が三分の二、父母は残りの三分の一を分けます。第三順位は配偶者が四分の三、兄弟姉妹が残り四分の一を人数分で分けます。なお、配偶者がいない場合は、法定相続人の人数分で均等に割ります(表2)。
被相続人の子が亡くなっている場合は、その子(被相続人にとって孫)に権利が移ります。これを「代襲相続」といいます。また、相続人が未成年であれば「代理人」を、認知症や知的障害の場合は「成年後見人」を選任します。
次回は相続財産について、詳しく説明します。
いつでも元気 2016.8 No.298
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