けんこう教室 ぜん息 全国ぜん息等患者アンケートから 定期受診できるよう医療費の助成を
ぜん息は、気道が炎症を起こして狭くなったために、空気が通りにくくなっている状態で起こります。このとき気道はとても敏感になっているため、わずかな刺激でも発作を起こします。
ぜん息の患者数は約90万人(小児の5~7%、成人の3~5%)と言われていますが「症状が軽いため受診していない」「ぜん息だと気づいていない」という方もいらっしゃるでしょう。患者数は年々増えています(表1)。
原因
発作を起こす要因は、アレルギー性と非アレルギー性の2つにわけられます。
●アレルギー性
カビ、ダニ、ハウスダスト、花粉、動物の毛などが原因となる
●非アレルギー性
薬、天候、体調、たばこ、ストレス、排気ガスなどが原因となる
症状
ぜん息の症状は、呼吸が苦しい、せきが出る、たんが出る、などです。呼吸をするとヒューヒューと音がする(喘鳴)ことが特徴ですが、症状
が重くなると喘鳴が聞こえなくなり、身体を動かすだけで苦しいという状態になります。
また、風邪が治ったあとに咳が続く場合はぜん息の可能性もあります。なるべく早く受診されることをおすすめします。
診断・治療
診断には、聴診と、呼吸機能の検査や血液検査をおこないます。また、ぜん息と似た症状を持つ他の病気(慢性気管支炎や肺気腫、咳ぜん息や慢性閉塞性肺疾患など)ではないことを調べるため、胸部レントゲン検査もおこないます。
治療は予防が中心で、吸入ステロイド剤を使って、気道の炎症を抑えます。また気管支拡張薬(服用または吸入)を併用します。
吸入ステロイド剤にはさまざまな種類があります。以前に比べて薬が改良され、夜間に呼吸が苦しくなり、救急車で来院して注射や点滴をおこなうという患者さんは少なくなりました。また、ぜん息で亡くなる方も、減少しています(表2)。
とはいえ、なかなか治りにくい難治性の患者さんや、ステロイドの吸入だけでなくステロイドの内服薬が必要な患者さんもいらっしゃいます。また、花粉症の時期には、発作を起こす方が増える傾向にあります。
大気汚染との関連
1996年から約10年、東京のぜん息患者633人が東京大気汚染公害裁判をたたかいました。私は医師団長として関わり、モルモット実験で「アレルギーの原因となる物質とディーゼル排気微粒子の両者の複合によりぜん息様の病態が顕著に現れる」ことを証明した研究(国立環境研究所・嵯峨井勝氏)を証拠として、意見書を作成しました。
裁判では、ぜん息と大気汚染の関連が認められ、(1)ぜん息医療費救済制度の創設、(2)国・東京都が新たな公害防止対策を実施する、などを勝ち取りました。裁判後、東京都は排ガス対策をしていないディーゼル車の走行を禁止するなど大気汚染対策にとりくみました。
しかし最近では、PM2・5(別項)が環境基準値を超えています。PM2・5によって、「ぜん息などの呼吸器系疾患や循環器系疾患が増える、健康被害が増える」というのが環境省の見解です。環境基準を守るために、今後の対策強化が求められます。
医療費助成の拡充を
裁判終了後、国・東京都・ディーゼル車メーカー7社による大気汚染医療費助成制度が創設され、東京都在住のぜん息患者の医療費全額助成が実施されました(表3)。
しかし、都は財源不足を理由に2018年度以降の打ち切りを決定。「月額6000円を超えた金額を支給する」という制度に改悪する方針です。
ぜん息患者の実態は
昨年、全国の大気汚染公害裁判にとりくむ患者会と弁護団の連絡会(大気全国連)は、患者さんを対象にした全国調査を実施しました。
これは、「ぜん息などの病気に苦しむ患者さんの生活実態や、病気がもたらす生活破壊の状況を把握する」ことを目的としたものです。民医連やそのほか全国の医療機関を通じて患者さんにアンケート用紙を配布し、3005人から回答が寄せられました(別項)。
アンケートからは、医療費負担を減らすために症状を我慢した人や、薬を節約した人など、医療費の負担が重いために、適切な受診・治療を受けられていない患者さんがまだまだ多いことがわかりました。1カ月に通院する回数は2・51回で、窓口での一部負担金は2871・9円、薬局での一部負担金は4561・0円でした(いずれも平均)。
ぜん息は、病状を悪化させないために定期的な受診と薬の服用・吸入が欠かせません。東京都では現行制度の継続を、全国的には汚染地域での医療費の救済制度の創設が必要だと考えます。
患者さんの実態を知ってほしい
全国公害患者の会連合会・事務局長 大場 泉太郎
ぜん息は、治ることが難しく一生つきあっていく病気です。それが大きな壁となって、病気と治療費の経済的な苦しみに加え、生活や就職、結婚などに影響をあたえます。
ぜん息の要因の一つは、大気汚染です。以前はイオウ酸化物(SOx)など工場が原因でしたが、一九七〇年代以降は自動車排ガス(NO2、PM2・5)へと変化をしています。このことは、大阪・西淀川、川崎、尼崎、名古屋、東京の5つの大気汚染公害裁判の判決から明らかです。
特に、尼崎、名古屋の判決では、「(自動車走行の)差し止め」まで勝ちとりました。これは、「自動車を走らせてはダメだ」ということです。しかし、日常生活に大きな影響がでます。実際には、「差し止める」ことはしませんでした。
ぜん息は社会が作り出した病気
自動車排出ガス汚染がひどくなる原因は、(1)自動車走行台数の多さ、(2)大型車の混入率の高さ、(3)首都圏にあるような2階建て・3階建て構造の道路、沿道のビルなどによって汚い空気がよどむ、(4)首都近郊では谷間・湿地や盆地状の地形に、気象的条件(接地逆転層等)が重なること、などにより起こります。現在では、PM2・5を減らす対策が喫緊の課題となっています。
国と自動車メーカーが対策を講じていれば、ぜん息で苦しむ患者が、これほど増え続けることはありませんでした。ぜん息は、社会が作り出した病気です。ですから、国と自動車メーカーの責任(財源拠出等)において、医療費助成などの社会的な救済をおこなうのは当然ではないでしょうか。
公害根絶の抜本的対策を
1988年、財界と国は、「公害は終わった」として全国41の公害指定地域を解除して、新たなぜん息患者の救済の道を閉ざしました。当時の中曽根首相は、「科学的調査をやり、その結果事態が著しく悪化した場合、再指定をおこなう」(1987年9月18日)と答弁。その後、国によって二つの調査がおこなわれました。
その結果、「SORA(そら)プロジェクト」調査では「自動車排ガスによって、ぜん息を発症する」、毎年発表される3歳児と6歳児(定期検診での調査)の「サーベイランス調査」では、NO2によってぜん息が発症することが明らかとなりました。
今年6月1日、第41回全国公害被害者総行動の環境大臣交渉で、私たちは「新たな大気汚染公害被害者の救済制度の創設」「PM2・5などの測定体制の強化と成分分析を急ぎ、抜本的な対策を強化する」ことを要求しました。
全国公害患者の会連合会では、「新たな公害被害者の救済制度の創設」を求める署名、(秋頃から)国会議員との懇談、ぜん息患者の実態を理解してもらうためのパンフづくり等をおこなっていきます。
みなさんにも、患者の切実な声に耳を傾け、実態を知っていただき、署名運動にぜひご協力ください。
いつでも元気 2016.8 No.298