認知症Q&A 第6回 “徘徊”に備えるには? 適切なケアと環境調整を お答え 大場敏明さん(医師)
認知症高齢者の増加とともに、“徘徊”対策の必要性が強調されています。私はそもそも“徘徊”との表現は適切でなく、「対策」も“社会の厄介者”のような扱いがされ、疑問を持ってきました。
とはいえ、切実な悩みを持つ家族の支援は必要です。支援の目的は(1)“徘徊”行動を分析し、家庭と介護事業所で適切なケアや予防策を立てる(2)地域で暮らす認知症高齢者を地域ぐるみで見守る、の二点です。“徘徊”と認知症への偏見を解消し、認知症の人とともに暮らせる社会づくりをすすめましょう。
家族の備え
現に“徘徊”で困っている家族は、主治医やケアマネジャーに病状と原因を確認し、適切な対応を相談してください。
レビー小体型認知症やピック病には医療の関わりが必要です。一人外出や迷子、帰宅願望には、適切なケアとともに環境調整を図ります。
家族の気持ちの持ち方も大切です。“徘徊”は迷惑視されがちですが、外出と捉えて健康のための運動と考えてみてはいかがでしょうか。外出時に同行すれば、原因や目的を見出せるかもしれません。
“徘徊”を無理に制止することは逆効果です。たとえば、こんな声かけはいかがですか?
「家に帰る」と言う方には「お茶を入れました。飲みましょう」「今日は遅いので、お泊まり下さい」。また、「会社に行く」と言う方には、「今日はお休みとの連絡ありました」といった声かけで、本人の気持ちが落ち着くこともあります。
近所やお店の協力も
心地よい住空間は“徘徊”を予防します。また本人の外出気分に共感し、優しく声をかけ、その気持ちを探りましょう。デイサービスの利用も検討してみてください。
外出対策には、玄関の鍵を工夫したり、名札を服につけ連絡先のメモをバッグなどに入れてみてください。GPS機能付きアクセサリーも有効ですが、本人のプライドに配慮しましょう。
あらかじめ、地域や行政への協力も依頼しておきます。近所やお店の人に、一人歩きを見かけたら連絡をお願いしておく。本人を同伴するか本人の顔写真を持参して、最寄りの警察署へ依頼しておく。行政に「SOSネットワーク」があれば登録しておく、などです。
地域ぐるみで見守る
今後は“徘徊”行動も増えると予想されます。民生委員の見守りパトロールなど、認知症高齢者を地域ぐるみで見守る仕組みづくりを急ぐ必要があります。
しかし、監視を強化するといった“徘徊”と認知症への偏見を前提とした対策では、かえって本人と家族の不安を強くするだけです。
認知症への先進的なとりくみで知られる福岡県大牟田市は、「認知症の人とともに暮らすまちづくり宣言」を発表し、多くの市民参加で成果をあげています。全国的に普及したいですね。
本人の行動に寄り添う
小規模多機能型居宅介護えがお(埼玉県三郷市)
ケアマネジャー 寺田 慎
いわゆる徘徊の支援をするうえで、理由や原因からアプローチをすることで、本人が行動する前に不安や混乱等を起こさずに過ごせることがあります。未然に防げるのが良いのですが、行動に移ってしまった本人をどう支援するのかも重要です。
本人の行動を制止したり制限するのは逆効果です。混乱や不安、怒りを助長することもあります。本人の思う目的を果たせるのであれば、それが一番混乱や不安を軽減します。目的を果たせない場合でも、説得するのでなく、本人が納得することが重要です。納得するために、本人の行動に寄り添いいっしょに歩くなどが有効なこともあります。
認知症の方々の支援をする時には、本人のペースに合わせた支援をしていくことで、混乱や不安を防ぐだけでなく、安心感を与えることにもつながっていくのだと思います。
いつでも元気 2016.6 No.296
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