いきいきシニアライフ(5) 現代お墓事情 その1 購入が難しい公営墓地 増えてきた「永代供養墓」
あわただしく葬儀と初七日が終了すると、悲しみや寂しさがひしひしと迫ってきます。仏教では死から新しい生に生まれ変わる日、遺族がようやく故人とのお別れができる日を「四九日」としました。この間は遺族が喪に服すのが慣わしでしたが、今は単に納骨をする日になっています。
葬儀が終わると、次に納骨が待っています。お骨は墓地に埋葬するのが一般的です。今号から二回に分けて、お墓について解説しましょう。
お墓の歴史
愛しい人が亡くなった時、その死を悼むのは人類特有の自然な行為です。縄文時代にも、穴を掘って埋葬し石を置くなど墓らしい形跡が残っています。
飛鳥時代以降は、貴族や武士が記念碑や先祖祭祀の墓を建立。墓は長らく庶民には無縁でしたが、江戸時代になると個人墓や夫婦墓が普及しました。とはいえ、一族の同族総墓や一村総墓、浄土真宗は寺院総墓など、個人では墓を持たない地域も多く、歴史的にみても墓は必ずしも建てる必要のないものでした。
明治時代以降は政府が重視した家制度の影響を受け、墓は先祖祭祀の意味も持つようになります。二月号で述べましたが、墓の下に遺骨を埋葬するようになったのは、疫病の蔓延を避けるという衛生上の理由から、明治政府が法律で火葬を強制して始まったものです。
戦後、新憲法で家制度が否定され、墓を建てる動機は、人間本来の故人を悼む「死者の追善供養」になってきました。最近は核家族化の進行でお墓の需要が増す一方、墓地が不足したり、墓を継ぐ人がいないため無縁墓も増えています。
現代のお墓
現代のお墓には、次のような種類があります。
(1)公営墓地―地方公共団体が経営し、最も数が多くあります。環境や設備、管理面で優れています。宗派を問わずに利用できますが、民間と比べて低価格で競争が激しく、なかなか購入できないのが現実です。
(2)寺院墓地―お寺が経営し、公営墓地に続いて多くあります。先祖供養も永代供養もするのが一般的です。ただし檀家になることが条件で、お布施や寄付を求められることもあります。また、他宗派の儀式は禁じられ、途中で改宗すると契約解除となり揉めることもあります。費用は高額なところが多く、一部では不信感も広がっています。
(3)民営墓地―公益法人が経営し、「公園墓地」「〇〇霊園」などの名称を使っています。宗派は問いません。民間の経営ですから経営破綻の心配や、管理面で不安が残るところもあります。寺院より低価格であることを売り物にしている業者が多いようです。例外的に、農村地域では共用墓地や個人墓地が認められています。
永代供養とは
皆さんはお盆やお彼岸に墓参りをしていますか? 最近は「実家の墓は遠くて通えない」「お墓を継ぐ人がいない」などの理由から、「永代供養」に切り替える人も出てきました。
誤解のないように説明しますが、寺院のお墓は永代供養が基本です。ここでいう「永代供養」は、家族がお墓参りをできなくても、寺院などの管理者が将来にわたって供養と管理に責任を持つことです。
永代供養に切り替えるには、檀家になっている寺院が認めていなければできません。宗派や寺院によって考え方はさまざまなので、直接、問い合わせてみてください。
永代供養を申請すると、墓の管理者が墓石を撤去し共同墓に遺骨を移します。管理料は一括払いが多く、お盆やお彼岸のたびに支払うことはなくなります。
新しいお墓のスタイル
途中から永代供養に切り替えるケースとは別に、最近は永代供養を前提にしたお墓も登場しています。
これまでの寺院のお墓は、血縁中心の檀家制度でした。ところが、子どものいない夫婦や単身世帯など、従来の制度では墓を建てるのが難しい人も増えてきました。
核家族化の進行に対応して、誰でもお墓を手に入れられるように、寺院やNPО団体、流通業のイオンなどが「永代供養墓」の募集を新たに始めました。
永代供養墓のうち、「単独墓」は一~五人の遺骨を納められる墓で、「集合墓」は個人や家族、グループで共同利用ができます。
集合墓は個別に遺骨を納骨したり、遺骨を分けずに納骨するなど、寺院によってさまざまです。費用はお寺や事業者、人数や墓の形式によって分かれており、管理料は一括払いで三万円から八〇万円と幅があります。いったん管理料を払えば、追加費用は発生しません。
個人や家族、兄弟、グループの区別なく、また、継承者の有無にかかわらず建てることができる永代供養墓は、現代に見合った新しいお墓といえます。
次回はお墓の費用などについて説明します。
読者はがきから
質問 「エンディングノート」の書き方を教えてください。
答え 特別な書き方があるわけではありません。これまで私が述べてきたことについて、ご自身の考えをまとめればいいだけです。使用するノートも、エンディングノート専用の書式はありますが、市販のノートで構いません。
2~4月号で葬儀について述べました。注意点を参考に、自分が望む葬儀のあり方や会葬案内を送る対象者を書いておきましょう。
また、終の棲家や終末期医療の選択、相続も書いてみてください。今後は高齢期の生活費についても掲載します。連載でふれた課題について、その都度、ご自身の考えをまとめてみてください。
いつでも元気 2016.5 No.295