安心して住み続けられるまちづくり(28) くらしを支える「あいちゃん」 地域丸ごとケアを形に大阪 けいはん医療生活協同組合
現在、介護保険にはさまざまな制約があり、高齢者が安心して利用できる制度とは言いがたいものになっています。けいはん医療生活協同組合(大阪)では三年前に「出あい・ふれあい・支えあいの会『あいちゃん』」(以下、あいちゃん)を立ち上げ、制度のすき間を埋める支援サービスを始めました。
「ヘルパーステーションで働いていた時、介護保険ではできないことが多くて、なんとかならないかと考えていました」と言うのは、あいちゃん事務局の藤井みち子さん。現在の介護保険制度では、ヘルパーの支援は「利用者本人の生活援助」に限られています。窓ガラスの内側は拭けても外側はできず、家族と同居していれば「共有スペースだから」という理由で、トイレやお風呂の掃除もできません。
ヘルパーステーションでは介護保険外のサービスも別料金でおこなっていましたが、保険の点数を基準に料金を設定していたため、安くはありませんでした。そこで、もう少し安くできないかと考えて誕生したのがあいちゃんです。
あいちゃんは一時間六〇〇円(最初の一時間はプラス事務費二〇〇円)で支援会員が日常生活の手伝いをします。病院の付き添いや掃除、おしゃべりの相手になることもあります。介護保険の被保険者でなくても、けいはん医療生協の組合員であれば誰でも利用することができ(利用会員の登録が必要)、若いお母さんの依頼で子守りをすることも。
高齢者の抱える孤独
利用会員と支援会員をつなぐコーディネーターとして活躍している濱田幸子さんは「あいちゃんの活動をするようになって、地域とのつながりが増えた。話を聞くと、ひとり暮らしの人は、みんなさみしがっています」と言います。ある利用会員から「一人で通院できないから、タクシーでいっしょに行ってほしい」と依頼がありました。しかし、よく話を聞いてみると、話し相手がほしいとのこと。支援会員が自宅に伺い一時間おしゃべりをしたら元気になり、翌日は一人で通院できたそうです。
あいちゃんの会長でコーディネーターの野路郁子さんは「本来は元気な人でも、気持ちが落ち込むと動けなくなってしまう。『さみしくて涙が出るのよ』と電話がかかってきたこともある」と言います。あいちゃんは地域での孤立を防ぎ、つながりづくりにも一役かっています。
住みやすいまちづくりを
宮地恒子さん(八一歳)はあいちゃんを設立当初から利用しています。きっかけは自身が腹膜炎で入退院を繰り返していた時。自宅に帰っても体力が戻らず、介護保険制度の支援だけでは不十分でした。「息子は離れて暮らしているから、すぐには来られない。近くにいるあいちゃんは頼りになる存在です」と宮地さん。週に一回、掃除などを依頼しており、毎週必ず人が来てくれる安心感もあるといいます。
けいはん医療生協理事の大植史朗さんは「あいちゃんのやっていることを事業としてやろうとしたら利用者の負担が大きくなるが、無償のボランティアでは何度も頼むのは気が引ける。支援会員に若干のお礼を払うことでお互い気持ちよく利用できるあいちゃんは、これからより必要になっていくサービス」と、可能性に期待しています。あいちゃんでは現在、ヘルパーの支援会員登録がすすんでいます。利用者宅で介護保険内の仕事が終わってから、あいちゃんの支援もしてくれます。ケアマネジャーからの依頼も増え、地域でも必要な存在となっています。
最後に藤井さんは「あいちゃんを通じて組合員になってもらい、私たちがめざす『住みやすいまちづくり』を一人でも多くの人に理解してもらいたい。そして困った時には住民同士が助け合えるつながりをつくっていく。それが私たちの『地域丸ごとケア』(地域包括ケア)につながっていく」と話してくれました。
文・寺田希望(編集部)/写真・豆塚猛
【あいちゃんのしくみ】
支援を受ける利用会員と、支援をする支援会員は、それぞれあいちゃんに会員登録をする。どちらの会員もけいはん医療生協の組合員であることが条件。
利用会員から支援依頼があると、コーディネーターが依頼内容にマッチする支援会員を選ぶ。利用会員は支援会員に利用料を支払い、支援会員はそのうち200円を事務費として事務局に納付する。
いつでも元気 2016.4 No.294