認知症 Q&A 第2回 まずは、かかりつけ医に相談 受診拒否が強ければ往診も お答え 大場敏明さん(医師)
前回に続き、「もの忘れがひどいけれど、本人が受診したがらない」というケースについて、受診を促す方法についてお答えします。
ケース2 体調不良も絡む場合
認知症の原因や悪化の要因として、身体的要因が絡んでいる場合があります。高血圧や糖尿病、貧血、栄養不足、時には消化管疾患が背景に潜んでいることも。ご本人は体調不良に気づいていることが少なくありませんが、「もし、がんだったら」などの不安から、受診したがらないこともあります。
この場合は、体調不良ともの忘れの原因の両方を確かめるための受診を勧めてください。早く診断して適切に治療すれば、重症化せずに体調を回復し、その結果、もの忘れも改善する可能性があります。もの忘れについても諸検査を受けてください。身体と脳機能の両方から、適切な治療が必要かもしれません。
ケース3 周辺症状で拒否の場合
アルツハイマー中期やレビー小体病、ピック病の場合は、被害妄想などの周辺症状(BPSD)が出てきて受診を拒否する場合があります。家族への攻撃性が強くなると、受診への誘導は困難でしょう。ご本人は家に閉じこもり、来訪者を避けるようになります。家族にあたったり、暴力に訴えたりするので、ご家族は大変です。老々介護の家族が、健康を害したり寝込んだりすることもあります。また、独居の場合はゴミ屋敷状態などとなり、近所の方が異臭に気づいて民生委員や自治体に連絡が行き、地域包括支援センターが訪問することもあります。
家族だけで悩まない
周辺症状で受診を拒否している場合、説得はなかなか困難です。民生委員や地域包括支援センター、そしてご近所の方の協力で、半ば強引に受診させるしかないこともあります。措置入院、措置入所なども、検討せざるを得なくなるでしょう。
当院では周辺症状による受診拒否の場合、ご家族の希望があれば地域包括支援センターと連携しながら、往診(訪問診療)に伺います。強引な受診を避け、在宅での治療へとつなげる可能性を模索しながらの往診です。最初はいきなり認知症の診断とは言わず、本人や家族の健康診断と説明しています。
ただ、認知症の方への往診は、限られた診療所しかとりくんでいません。遠方の医療機関を探すより、まずはかかりつけの医師に訪問を依頼してみてはいかがでしょうか。私はかかりつけ医の馴染みを活かした訪問診療をおこない、そこから通所介護へつなげ、最終的に外来通院ができるようになった事例をいくつも経験しています。かかりつけ医の往診は認知症診療の入口として重要で、試す価値は大きいと思います。
受診を嫌がるケースは前回の「初期認知症の場合」と、今回の「体調不良の場合」「周辺症状の場合」の三つが考えられます。いずれにせよ家族だけで悩まず、かかりつけ医、もの忘れ外来、地域包括支援センター、認知症の人と家族の会(電話〇七五―八一一―八一九五)、行政の窓口などへ相談してみてください。
「夫がおかしいな」と気づいた時 大倉弥生(認知症の人と家族の会埼玉県支部・「三郷のちいさな集い」世話人)
私は認知症の夫を9年前に看取りました。「夫が何かおかしいな」と気づいた時、周囲はまだ認知症への理解が少ない頃でした。「もし認知症と分かったら、本人がショックを受けるだろう」と心配で、なかなか病院に行けませんでした。
でも少しずつ病は進みます。ようやく老人専門病院を見つけ、「誰でも歳をとると、どこかが悪くなる。一度診てもらおう」と夫を誘うと、すんなり行ってくれました。そこで初めて「アルツハイマー型認知症」と診断されましたが、医師からのアドバイスは一切ありませんでした。それから間もなく「もの忘れ外来」が話題になり、迷わず受診しました。その時も夫には「誰でも、もの忘れするでしょ」と話すと、抵抗はありませんでした。健康診断のように、さりげなく誘うのが良いかと思います。(続く)
いつでも元気 2016.2 No.292