新 いきいきシニアライフ 元気に自分らしく終活の現代的意味
消えた地縁・血縁・社縁
近年、終活がブームのようになりました。就活に始まり婚活、妊活など、なんでも「活」をつけるようになっています。これまでは、就職・結婚・葬儀など、人生の節目には血縁・地縁・社縁(企業縁)など、それぞれの関係者が世話を焼いて何とかうまくいっていたものです。
近年こうした縁者の関係が薄れ、「よほど本人が力を入れて準備しなくては上手に乗り越えられなくなってきたからではないか」と「就活」の言葉を考えた作者が話しています。
戦後、地方から若者を集めて企業が社縁で囲い込み、その結果、地縁社会が壊されました。一九八〇年代になると、企業自身も福利厚生制度を削減し終身雇用を廃止。競争原理を導入して社内での人間関係を切り捨てました。
先日、「戦後初めて非正規労働者が労働者全体の四割に達した」との調査結果が発表されました。非正規労働者の多くは賃金が低く、暮らしは不安定で結婚できない、結婚を望まない若者が増えています。企業の身勝手な戦略の結果、最後の家族の“縁”までもが心もとないものになっています。
他者との交流や助け合いがなくては生きていけないのが人間です。超高齢社会のただ中にある私たちが、元気に自分らしく生きていくには、しがらみのない新しい助け合いの人間関係を、家族で地域でどのように築いていくかが問われています。
考え方も多様な家族
私はさいたまコープの元職員です。定年後にファイナンシャルプランナーの資格を取り、生協や労働組合、市民団体で老後の人生設計や年金、保険などをテーマに講座を開いてきました。また、個人や団体の生活相談にも応じています。私が受けた相談の一部を次ページの表にまとめました。
多くの相談事例から分かるとおり、地縁・社縁が崩れ、血縁関係も薄まり、最後の砦である夫婦・親子関係までもが心もとなくなっています。情報開示が少ない医療機関や介護施設、葬儀社への不信感も広がっています。
さらに、世間の終末期や死に対する考え方が大きく変化しています。夫婦・子ども・親戚の間でも考え方が異なり、家族としての意見がまとまらないなど、さまざまな問題が複雑に絡み、人生の終末期に不安を感じる高齢者が激増しています。
エンディングノートの現代的意味
西欧では七〇~八〇年という長い歳月をかけて高齢化が進んだ一方、日本では約三〇年という短期間で高齢化が急速に進展しました。終末期を上手に生き抜いた高齢者の情報や、考え方に身近にふれることが少なく、定年で激変する暮らしへの対応が不十分で戸惑い狼狽しているといえます。
私は生活講座で、高齢者に「エンディングノート」を書くことをおすすめしています。高齢者自らが先人の生き方や社会の変化、社会制度などを学び続け、自分らしい生き方を選択したり終末期に対する意思をエンディングノートに書き残して自己主張することは民主主義の基本であり、同時に以下のような現代的意味があるといえます。
一、激変する社会や新しい考え方を生涯にわたって学び続け、自分の生き方を見つめ直すことができる。
二、人間としての尊厳を守り、いきいきと元気な生き方の選択(基本的人権)を主張する大切さを実感できる。
三、自分の意志を明確に告げることで、家族に生き方や考え方を伝えたり、意見の異なる家族をまとめたりできる。
四、エンディングノートは社会的な意味で発信する力を持っており、高齢期にありがちなさまざまなトラブルを防ぐことができる。また、医療機関や介護施設、葬儀社、地方自治体、国政への提言にもつながる。
次回はエンディングノートの書き方について説明します。
高齢期を元気に過ごすための知恵袋、「いきいきシニアライフ」を始めます。ご質問を編集部へお寄せ下さい。
徳田 五十六(とくだ・いそろく)
石川県金沢市生まれ、72歳。埼玉大学経済学部卒。さいたまコープ職員、働くもののいのちと健康を守る埼玉センター理事、埼玉大学講師を経て、ライフデザイン社会保障研究会代表。高齢者の生活設計や年金、保険など、これまで3000件以上の相談を受けている。
相談事例から
・定年後、テレビの前に1日中座って何もしない夫。妻が突然、離婚を申し出て夫が当惑している。
・名門女子大を卒業したものの、就職活動に失敗した娘。大企業で働いていた父に「あんたたちの育て方が悪かったから」と暴言を吐き、母には暴力を振るうようになった。
・認知症の母を施設に入所させたところ、兄が母の財産を使ってしまった。母が亡くなったら、兄弟姉妹がばらばらになりかねない。
・日ごろ、「何かあった時は延命措置をしないで」と言っていた夫。脳梗塞で昏睡状態になった時、夫の意思を伝えたものの、子どもたちの反対で胃瘻をすることに。その後、老々介護が10年も続いている。
・ある有名な有料老人ホーム。入居金760万円を支払い、終身契約だから最後まで面倒をみてくれると思っていた。ところが、病気になったとたんに入院となり、結局、その老人ホームは退去させられた。
・夫の死に動転。長男を中心に葬式の段取りを進めていたが、叔父が「こんな祭壇では可哀想だ」と言い出した。葬儀社の言われるままに葬式を済ませたものの、後から高額な請求が来て後悔。
・遺産は自宅のみ。生活に困った息子が、「家を売ったお金が欲しい」と言い張る。自宅を売却すれば母の住む所がなくなり、合意できずに困っている。
いつでも元気 2016.1 No.291