特集 世界が見た“平和ブランド” 紛争地から九条を語る
戦後70年かけて築いてきた日本の“平和ブランド”がいま、大きく揺らいでいます。2015年9月、安全保障関連法が強行され、自衛隊が海外で武力を行使できるようになりました。世界の紛争地の人々は、日本の今をどのように見ているのでしょうか。「日本国際ボランティアセンター」(JVC)を通じて4カ国からコメントを寄せてもらいました。
JVC(日本国際ボランティアセンター) 1980年にインドシナ難民の救援を機に発足。現在、アジア、アフリカ、中東、そして日本の震災被災地で活動している国際協力NGO。紛争地で医療をはじめとした人道支援や、環境保全型の農業を通した暮らしの改善に協力する。現場の声を政府や社会に届ける政策提言活動にも力を入れる。
ホームページ:http://www.ngo-jvc.net/
アフガニスタン 「誇りをもって」
サビルラ・メムラワル(JVCアフガニスタン総務・安全管理担当)
日本は超大国でありながら平和ブランドを持つ希有な国です。この70年間、平和国家としてふるまい、世界に信用を築いてきた結果です。そのことに誇りをもってください。
アフガニスタンの人々は日本をとても尊敬しています。日本が軍事ではなく、民間人への人道支援で復興に貢献しているからであり、世界の他の国々と大きく異なります。
2004年からJVCで働いていますが、アフガニスタンに軍隊を派遣している国と、そうではない国の違いがよくわかります。NGO職員の犠牲者の9割が、軍隊を派遣している国の人です。もちろん許されることではありませんが、NGOが属する“国”のイメージが決定的な影響を与えてしまっています。タリバンは「アフガニスタンに軍隊を送り込んでいる国のNGOは信用しない」と言っています。
JVCはこの13年間、一度も襲われるような事件は起きていません。その根本には、憲法第九条を持ち、平和で中立的で人道的な日本のイメージがあります。
イラク 「紛争を解決するのは、戦争ではなく対話」
アリー・ジャバリ(JVC現地パートナー団体「INSAN」代表)
イラクから日本の皆さんへ。JVCがINSANといっしょに活動しているイラク中北部の都市キルクークは、平和のためにあなたの協力が必要です。
日本人の皆さんは、これまで戦争という、最大の危機をくぐり抜けてきました。だから、戦争が何を意味するかということを知っているべきです! イラク人というより私は人権活動家として、そして国際的なピースビルダーとして、日本が九条を守り続けるべきであるということを訴えたいと思います。
どうか、世界中の紛争を解決するのは戦争ではなく、対話であるということを信じてください。そして、あなたの憲法九条を改正することはどうか止めてください。日本がこれまでおこなってきたような平和的な方法で、世界に平和を構築してください。
パレスチナ 「武力に頼らず平和を創る努力を」
アマル・アルマスリー(JVC現地パートナー団体「人間の大地(AEI)」プログラムコーディネーター)
日本には平和なイメージがあります。戦争で原爆を落とされ悲惨な経験をしていますが、大変な努力を重ねて経済大国になり、中立を保つことで平和を維持してきたからです。その日本が、仮にめまぐるしく変わる世界情勢の中で軍事力を強化することを決めたとしても、その健全な管理のため民主主義や平和について市民が学び、議論し、武力に頼らない平和を創る努力が常に必要ではないでしょうか。武器を持つならば、正しくそれを管理できるかどうかも、議論を分けて深めるべきだと思います。
また、私たちAEIが協働するJVCは非暴力を推進する団体ですが、この大切な理念を共有する団体や活動が増えれば、世界の平和も増えるはずです。そして、武器を使うのはあくまで最終手段であるべきです。
パレスチナの人々は一般的に、政治と個人の活動を分けて考えます。海外で働く日本の市民と、日本政府の意向は別個のもので、政府のやり方が個人の価値を決めるわけではないと信じています。
スーダン 「軍隊ではなく、高い技術力を生かした支援を」
モナ・ハッサン(JVCスーダン現地代表補佐)
日本が海外での軍事活動を始めるという報道を聞き、驚きました。
スーダンはアメリカから「テロ支援国家」として制裁を受けており、1990年代には空軍機による攻撃も受けました。ここは中東に近く、人々はアメリカをはじめとする欧米諸国が中東への介入を続けてきたことを良く知っており、反感を抱く人は大勢います。日本はそうした介入をしない国だと思われています。軍事ではなく経済で戦後の復興を成し遂げ、自動車をはじめ高い技術力を持つ国として、スーダンの人たちは日本を尊敬しています。
日本が具体的にどんな軍事活動をするのかわかりませんが、これまで他国に軍事介入してきた国々と同じように反感を持たれるのではないかと心配です。どうして、日本はその特色を生かして技術支援など人々の役に立つ支援を増やさないのか不思議です。
いつでも元気 2016.1 No.291