特集2 C型肝炎 新しい治療法が登場
内服薬だけでウイルス排除が可能に
現在、肝がんによって死亡する方は毎年約3万人で、肝がんの約7割はC型肝炎が原因です(図1)。したがって肝がんを予防するためには、C型肝炎の治療が重要になります。
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が血液を介して感染して広まる病気です。過去の輸血や予防接種、消毒が十分でない医療行為などにより、日本には150~200万人の患者さんが存在すると言われています。なかには何十年も前に感染したまま自覚症状もなく、治療も受けていない患者さんも多くみられます。
肝臓病の症状としてよく倦怠感や黄疸などが言われますが、C型肝炎でこのような症状が見られるのはかなり病状が悪化した場合であり、それまではまったく自覚症状はありません。肝臓が「沈黙の臓器」といわれるゆえんです。
そうして20~30年、あるいはさらに長い期間をかけて、慢性肝炎から肝硬変、肝がんへと進行していきます。
診断方法
C型肝炎は、血液検査で診断することができます。現在、全国的に肝炎ウイルス検診がおこなわれており、自治体によって異なりますが、住民検診や保健所で検査することができます。私が勤める病院がある東京都板橋区では、これまでに約19万人が肝炎検診を受けています。
2013年度の受診者のうち、C型肝炎だった方の割合(陽性率)を年齢階層別に見てみると高齢者での陽性率が高くなっています(図2)。
C型肝炎の診断にあたって、まずおこなうのはHCV抗体という血液検査です。この検査で陽性と判定されると一般的にC型肝炎といわれます。ただ、このHCV抗体は「現在、C型肝炎に感染している」という場合だけでなく「過去に感染していたがインターフェロン(IFN)治療により治った、あるいは自然の経過で治った」という場合でも陽性になります。したがって、さらに詳しいHCV─RNAという血液検査をして診断する必要があります。
HCV─RNAが陽性の場合のみ、「現在C型肝炎に感染している」と判定します。
肝がんの早期発見のために
HCV─RNAが陽性だった方は、さらに詳しく調べるために血液検査と画像診断を受ける必要があります。
血液検査では、AST(GOT)とALT(GPT)の数値を調べます。どちらも肝細胞が障害をうけると血液中に漏れ出す酵素で、これらの数値で肝臓の状態を把握することができます。
ALTは検査センターによって正常値(基準値)が少し異なりますが、およそ40以下であれば正常とされています。しかし人間ドックの結果などの検討から、健康な方はおよそ20以下です。C型肝炎の場合、30を超えていたら「肝臓に慢性の炎症が起きている」と考えます。
もう一つ重要な血液検査は、血小板です。C型肝炎によって長い間肝臓に炎症が続いた結果、血液中の血小板が減少します。血小板数が15万未満に減少していたら「慢性肝炎が中等度に進行している」と考えられ、10万未満になれば「肝硬変に進行している」という可能性があります。C型肝炎の方は自分のALTや血小板の数値を確認してください。ALTが30を超えていたら、あるいは血小板が15万未満に減少していたら積極的な治療を検討する必要があります。
画像診断では腹部超音波検査をおこないます。この検査では、主に肝がんの有無を診断します。肝がんになっても自覚症状はまずありませんから、C型肝炎の患者さんは定期的に腹部超音波検査をうけて、早期発見を心がけることが大切です。
もう一つ、年齢も大きく関係しています。C型肝炎の方は高齢になるほど肝がんになる危険性が高くなります。高齢者では、慢性肝炎の状態やAST・ALTが正常値でも、肝がんを発症することがあります。肝臓学会では「66歳以上を高齢者」と定義し、年齢と血小板数によって肝がんの発がんリスク(発症する危険性)を分類しています(図3)。
治療
C型肝炎の治療には大きく分けて肝庇護療法と抗ウイルス療法があります。
肝庇護療法は30年以上前からある治療法です。主に内服薬(ウルソデオキシコール酸)や注射(強力ネオミノファーゲンシー)を投与します。これらの治療によりALTを改善させて、肝炎の進行を遅らせることができます。しかしこれらはC型肝炎ウイルスには作用しないので、C型肝炎ウイルスを減らしたり排除したりすることはできません。
一方、抗ウイルス療法は体内からウイルスを排除する根本的な治療です。この治療として有名なのがインターフェロン(IFN)療法です。
この治療は1992年に始まりました。画期的な治療として期待されたのですが、ウイルスが完全に消える割合(著効率)はそれほど高くありませんでした。血小板や白血球が減少している方、貧血のある方、肝硬変にまで進行している方、高齢の方にはこの治療は困難で、発熱や倦怠感などの副作用も多くみられました。2000年代に入ってからIFNの改良がおこなわれ、現在では内服薬(リバビリンやシメプレビルなど)との併用によって多くの患者さんに効果があらわれています。
新しい治療とは
「いま、世界的にC型肝炎の撲滅が可能な時代になった」と海外の医学雑誌にもとりあげられている最新治療をご紹介します。
C型肝炎の新しい治療法は、IFNを使わない抗ウイルス療法で、「直接作用抗ウイルス薬」といわれる内服薬のみでの治療です。
12週間あるいは24週間の内服でC型肝炎ウイルスを排除でき、今までのIFN療法で効果がなかった方、副作用などのためIFNが使用できない方、肝硬変の方、高齢の方にも効果が期待できます。
内服する薬は、C型肝炎のウイルスが「1b型」か「2型」かによって異なります(ウイルスの型は血液検査によって判定できます)。
1b型の治療法と副作用
昨年9月から保険適用となり今年3月から適用条件が拡大され、この治療を多くの患者さんがうけられるようになりました。
治療法は2種類の内服薬(ダクラタスビルとアスナプレビル)を24週間服用します。慢性肝炎だけでなく、腹水などがない代償性肝硬変の患者さんにも使用することができます。IFN療法が効きにくいとされたウイルス量が多い方や高齢の方でも、高い治療効果が期待できます。
副作用は発熱や頭痛などがありますが、従来のIFN療法と比較すると軽度の方が多いようです。そのほかには、次の点に注意が必要です。
■肝機能障害を起こしやすい
治療中は2週間に1度、血液検査で肝臓の数値を確かめておく必要があります。
■耐性変異の問題
C型肝炎ウイルスは、自然の経過あるいは治療の影響で、ウイルスの遺伝子が部分的に変異してしまうことがあります(耐性変異)。この遺伝子の変異の有無によって、治療の効果に大きな差があることがわかっています。
たとえば、ウイルスのY93という部位に変異があると、治療の効果は半分以下になってしまいます。しかもこのような変異を持っている方に治療をおこなうと、新たな薬も効かない多剤耐性ウイルスになる危険性も指摘されています。
そこで肝臓学会では、この治療の開始に先立って、血液検査で耐性変異の有無を調べることを推奨しています。ただ、この検査は保険適用ではなく、全額自己負担でおこなわなければなりません。
■併用できない薬の確認を
この治療法をおこなっているときに服用できない薬や成分があります。抗生剤、抗てんかん薬、不整脈治療薬のほか、一部の健康食品に含まれる成分など多数あり、注意が必要です。
(なお、年内には、12週の内服で効果のある新薬が保険適用になる予定です)
2型の治療法
2型の方の大半はこれまでのIFN療法が有効な方が多かったのですが、今年5月から内服薬(ソホスブビルとリバビリン)のみでの治療も可能になりました。
2種類の薬を12週間内服することで、大多数の患者さんでウイルスを排除できるといわれています。慢性肝炎の患者さんだけでなく代償性肝硬変の患者さんにも使用できます。次の点に注意が必要です。
■貧血
重大な副作用として貧血が報告されています。特に高齢者は十分な注意が必要です。
■併用できない薬の確認を
やはりこの内服薬にも併用できない薬があります。
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これらの治療法は「内服薬のみで治療できる」と言っても、注意しなければならないことが多くあります。また、新しい薬ですから今後予期せぬ副作用が出現する可能性もあります。薬剤の添付文書にも「ウイルス性肝疾患に十分な知識、経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される患者に対してのみ投与すること」と記載されています。
ウイルス性肝炎医療費助成制度の利用を
今回の新たな治療の内服薬は、大変高額です。たとえばダクラタスビルは1錠9186円、アスナプレビルは1カプセル3280円です。治療期間(24週間)の薬代は約265万円となります。自己負担3割の方で、薬代だけで約80万円、1割の方で約26万円です。これは薬代だけなので、これ以外に調剤の費用や医療機関での診察や検査にも費用がかかります。なお、2型に対するソホスブビルは1錠6万1799円と、さらに高額です。
肝臓病患者会の運動の成果により、今回の治療についてもウイルス性肝炎医療費助成制度が適用されます。治療に先立って保健所などに申請することで、医療費の自己負担は月額1万円もしくは2万円(所得に応じて)になりますので、ぜひ利用してください。
ウイルスが消失しても油断しないで
そもそもC型肝炎をなぜ治療するかといえば、はじめにもお話ししたように、C型肝炎によって引き起こされる肝がん、肝不全などを防止することにあります。そのためにはIFNや今回紹介した治療により肝炎ウイルスを排除することが重要ですが、この治療は始まったばかりで治療後の長期の経過はまだわかっていません。
この治療によってウイルスが排除されても、特に高齢の方は肝がんの発症には厳重に注意しなければなりません。これはIFNによりウイルスが排除された方についても同様です。
治療が終わった後も、定期的な血液検査や画像診断は忘れず受けるようにしてください。
いつでも元気 2015.07 No.285