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いつでも元気

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元気スペシャル 「国民が財産」の息吹 全日本民医連第5回キューバ医療視察 視察団長・増田 剛(全日本民医連副会長・医師)

 三月一~八日、全日本民医連は第五回キューバ医療視察をおこないました。今回は二回目の参加となる本田宏医師(済生会栗橋病院院長補佐=当時)にコーディネーターをお願いしました。
 医師一一人(初期研修医四人)・医学生七人をはじめとする合計二四人の視察団で、民医連外からの参加もありました。
  私にとってキューバは「革命をなしとげ継続している」憧れの国です。長年のアメリカによる経済封鎖で、経済的には貧しいにもかかわらず、医療も教育も無償。高い健康到達度と世界一の識字率を誇り、教育は国のすみずみにまで普及しています。初日に訪れた革命広場ではこの国の歴史を肌で感じ、身震いしました。世界文化遺産のハバナ旧市街は、歴史的な建造物が建ちならぶ魅力的景観で、美しいカリブ海とあわせて観光面でもすばらしい国だと感じました。

医療と教育の成果を目の当たりに

世界遺産のモロ要塞。キューバ革命時にはスペインからキューバを守る砦になった(写真=西澤淳・全日本民医連事務局次長)

世界遺産のモロ要塞。キューバ革命時にはスペインからキューバを守る砦になった(写真=西澤淳・全日本民医連事務局次長)

 キューバで暮らす人々のようすは、日本とはまったく違いました。使えるものはとことん大切にする。そして経済的には大変貧しいという現実がありながら「国民一人ひとりが財産」と主張するかのように、医療と教育をもっとも大切なものとして国が保障し続けてきた結果を、私たちはさまざまな場面で目にすることになりました。
 あらゆる分野で活躍する女性幹部。高齢者や障害者を、社会の一員としてきちんととらえ、尊重する思考。滞在中、ホームレスを一人もみかけませんでした。
 そして、あちらこちらから聞こえる陽気な歌声と歓声。人間が生きる価値は、所有する財産の多寡ではないというごくあたり前のことを、国全体が堂々と主張しているような空気を感じたのでした。

人生を国の未来に重ねて

 さらに私たちが心底驚いたのは、キューバの若者たちが、自身の人生設計を国の未来像に重ね合わせて、積極的に前向きに生きようとしている姿でした。
 キューバが医師・歯科医師を積極的に養成し、ラテンアメリカやアフリカなど、世界各国の医療困難地域に派遣していることは、世界的に有名な話です。最近ではエボラ出血熱で困難に瀕している西アフリカ地域にも数多くの医師派遣をおこなっています。これについてキューバ保健省のポルティージャ医師は「強制ではなく、すべて自覚的ボランティアだ」と述べ、自身も青年医師時代、コンゴに派遣されたことをお話しされました。
 「自覚的だなんて、本当だろうか」。疑り深い私たちでしたが、ハバナ医科大学で出会った医学生・歯学生に、完全に打ちのめされることになりました。
 「エボラ出血熱が発生している地域への支援に行きたくない人もいるのでは」と問う私たちに、学生たちは「なぜそんなことを聞くのか?」と不思議そうな顔をしています。
 「そんな学生は一人もいないよ。私の母親も最近までアンゴラに行っていた」「困った人がいるなら、そこに行って働くのがあたり前」などの言葉が次々。周りの学生も、当然だという表情で聞いています。
 高校でも、私たちは同じ目にあいました。視察団から「お金もうけもしてみたくないか?」という質問が出ましたが、高校生たちに「興味がないわけではないが、国のために何ができるのかが大事」と一蹴されました。
 今回の視察ではキューバの医療成功の秘密が教育にもあると感じ、医学生・高校生との交流を重視しましたが、彼らから語られる言葉は感動の連続でした。

「困った人のために働くのは当然」

 キューバでは、全国すみずみまで全住民の健康を記録し管理するファミリードクターが配置され、それをポリクリニコと呼ばれる診療所が統括しています。
 また、キューバはワクチン開発や移植医療などにも積極的で、平均寿命や乳幼児死亡率で先進国に比肩する実績をあげています。
 専門医と話す機会を得ましたが、地域のなかに深く入りこんでいるファミリードクターを尊重・尊敬していることがよくわかりました。住民一人ひとりに寄り添い、生活環境を把握したファミリードクターがいてこそのキューバ医療で、この制度を国民全体で守り育てようとしているのだと理解しました。
 キューバ革命を主導したチェ・ゲバラの娘で、小児科医のアレイダ・ゲバラさんが懇談で語ったことが印象的です。
 「時代が変わっても人間に必要なものは基本的には変わらないものです。医師になるのは個人の自由ですが、医師になったからには責任があると思います。キューバの医師は、困った人のために働くのは当然だと思っているのです」
 給料は一般労働者とくらべて高くはなく、待遇もよいとは言えませんが、医師という職業が国民から信頼され、尊敬されている理由がわかった気がしました。

医療の存在意義を問い直す

 視察出発前、私は団長として「生命をないがしろにする施策がすすめられ、金持ちが『勝ち組』『偉い人』のように描かれるようになってきた日本が、どこかに置き忘れてきた大切なものに出会えるかもしれない。そんな期待を持ってキューバに行こう」とあいさつしましたが、期待以上の大切なものに出会うことができたと思います。
 医療は何のために存在するのかという根源的な問いに正面から応えようとする姿勢が、日本のすべての医療人に求められていると痛感しました。

写真・長瀬文雄(全日本民医連副会長)


若人につなげたいバトン

本田 宏
医療制度研究会副理事長
(元済生会栗橋病院院長補佐)

 人口あたり医師数が先進国最低の日本、なかでも一番医師不足の埼玉で、二六年間外科医として勤務してきました。初めは夢中でしたが、三六五日二四時間対応が常態では、医療の質と患者の安全を担保することは容易ではありません。
 私は一九九八年、橋本内閣が「将来の高齢化に対応するため」と医療制度「改革」(≒医療費抑制策)を打ち出したころ、医療制度を学ぶためにできた医療制度研究会に参加し、増大が問題とされてきた日本の医療費は先進国最低と知りました。逆に患者窓口負担は先進国最高。その背景には、一九八一年に政府の第二次臨時行政調査会の土光敏夫会長(元経団連会長)が「米・国鉄・健康保険が日本経済発展の足を引っ張る3K」と答申し、一九八三年に厚生省保険局長が「医療費亡国論」を唱えるという、経済界と官僚の″鉄の合意”があったのです。
 私は「この理不尽な実態を伝えれば、医療費増や医師増員は夢ではない」と、一〇数年前から新聞投稿・テレビ出演・講演等での情報発信に力を注いできましたが、現実は甘くありません。政治はあくまで経済最優先&医療費抑制、大手メディアも政府の意向最優先。医療界のリーダー(医師会や大学病院・大病院など)も正面切って異を唱えようとしません。
 「一勤務医がどうあがいても無理」とあきらめかけていましたが、一昨年一一月、民医連主催の視察に参加して見たキューバの医療は、目から鱗でした。
 革命以来五五年の過酷な米国の経済制裁にもかかわらず、日本とは真逆、あくまでもキューバでは国民第一の政策がつらぬかれていました。「強きを助け弱きを挫く」日本に対し、「弱きを助け強きを挫く」のがキューバだったのです。
 東日本大震災と福島第一原発事故後、国民の医療崩壊に対する関心は薄れ、私への講演依頼も激減。さらに特定秘密保護法や集団的自衛権等で軍事利権まで拡大。このままでは、先進国最低に抑制された医療や社会保障予算がさらに削減されることは間違いないでしょう。
 昨年還暦を迎えた私ですが、集団的自衛権反対の市民活動に参加して、医療崩壊の深層に「構造的暴力」があることを知りました。もう「二足のわらじ」は無理、三月で外科医を引退して医療再生のために全力を尽くすことを決めました。
 引退直前にキューバで医学生や若手医師のみなさんとごいっしょできて幸せでした。彼らがキューバで何を感じ、将来にどう活かしてくれるのか、心から楽しみにしています。

参加者の感想から

■何十年も前のアメリカ車が街中を走っていたり、何十年も同じ家電製品を使っていたり、建物や家具も古い。医療設備も日本に比べれば格段に劣っている。それなのにみんな明るくフレンドリーで人なつっこく、夜に出歩けるくらい治安がよく、どこにいても音楽がある。キューバ人の強さを感じました。

(医学部三年=当時)

■社会制度において医療と教育に非常に力を入れていることに感動しました。経済は発展途上ですが、それを優先させず「人の命・健康を守る」ということを第一として憲法に記載されているのは、とてもすばらしいことだと思いました。

(医学部四年=当時)

■医師や医学生の「医療者とは人のために尽くしたい人がなるもの」という姿勢や、政府の「国民の幸せと健康を守るためになすべきこと」に対しての施策などはどれも本質であり、強く心に響いた。
 キューバ視察に参加して、「皆が幸せに生きるために、何が必要であるかをシンプルに考え、連帯して行動する」ことが大切であることを感じた。地域の人々の幸せのために尽くしたいと思う。

(山梨・医師)

いつでも元気 2015.06 No.284