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いつでも元気

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元気スペシャル 「見守って伸ばす」看護師育成 新卒離職率10年連続ゼロ 青森・健生病院

 二〇一二年度の日本看護協会の調査によると、全国の新卒看護師の七・九%が、入職した職場を一年以内に退職しています。学生時代に思い描いていた労働環境や教育制度の理想と現実のギャップが大きな理由と言われています。そんななか、青森県にある津軽保健生協・健生病院では一〇年間、新卒看護師の一年以内の離職者は一人も出ていません。その裏には、法人や職場全体で看護師を育てようとする工夫がありました。

みんなで育てる

患者さんに語りかける石岡さん(左)と太田さん

患者さんに語りかける石岡さん(左)と太田さん

 さくらまつりで有名な青森県弘前市を中心に活動している津軽保健生協。毎年三〇人ほどの新卒看護師が入職します。看護師教育には知識や技術の習熟度を六段階に分け、年数やレベルに合った教育を進めていく「ラダー制」を採用しています。
 入職一年目の看護師には「エルダー」(先輩)がマンツーマンで指導にあたります。エルダーは新人が配属される職場の三年目以降の先輩看護師が担当します。ときには親子ほど年の離れたエルダーがつくことも。
 同市内にある健生病院・看護部教育研修委員長の宮本亜希看護師は「エルダーになる人のキャラクターを生かせるように考えて担当を決めています。新卒の看護師がどんなカリキュラムで勉強してきて、どういったタイプの子が多いかなど、『今の若者像』についても学習している」と言います。
 「特定の担当者を決めてあげると、困ったことがあったときに相談しやすいんです」。こう話すのは、同病院救急外来看護長で教育研修委員の須藤尋顕さん。昨年まで一年目看護師の教育研修を担当していました。「毎年、入職してきた子たちの雰囲気に合わせた研修内容を考えている。看護学生担当とも連携しながら教育にあたっている」。
 同保健生協に入職する看護師のうち、約半数は青森県民医連の奨学生。「入職前に看護学生担当の職員が、“民医連は他の病院とは違うぞ”ということを教えてくれている。だから入ってからもギャップを感じることなく働ける」と須藤さん。同保健生協看護部・看護学生担当の荒川志穂さんも「(同保健生協は)昔から学生を大事にしている。それが地域の看護学校の教師に評価され、学生の間でも『ていねいに教育してくれる病院だ』と噂になっている」と。毎年多くの看護師が入職してくる理由になっているそうです。

同期の絆

 新卒の看護師は、健生病院と藤代健生病院(同じく弘前市内)に配属されます。配属されると、両病院の看護師が顔を合わせるのは、法人全体でおこなう研修のときぐらい。さらに夏以降は研修の回数も減るため、「同じ病院で働いていても他の職場の同期と話す機会がない」と助産師一年目の宇波由貴さん(健生病院)は言います。荒川さんは「夏が過ぎた頃は、職場にも慣れ、夜勤に入ってひとり立ちをする新卒看護師も出てくる時期で、悩みを抱えている子も多い。研修内容についていけず、出遅れた子が孤立してしまう時期でもある」と、一年目の看護師が抱える不安を話します。
 そこで、同保健生協では、毎年九月におこなわれる一年目看護師の一泊研修で、法人全体の同期会を結成することにしました。
 同期会は一年目看護師が主体的にとりくむことを目標としています。四?五人のグループで自分たちが興味を持ったテーマについて学習をし、一月の同期会で学んだ内容を発表します。「自分たちでテーマを設定し、どのように学習していくか考える。必要であれば企画書を作り、講師を呼んで学習会もする」と須藤さん。毎月第三土曜日の午前中に学習をすすめていきますが、発表が近づくとその時間だけでは準備が追いつかず、時間外にも自主的に集まるように。二〇一四年度の同期会会長・石岡麻美看護師は「仕事が終わってから集まることを、大変だとは思いませんでした。仕事以外の話もして、気持ちをリセットできたし、職場以外での集まりなのでリフレッシュの場になった」と言います。
 同期会は発表を終えても終わりにはなりません。石岡さんのエルダーを務める九年目の太田有紀子看護師は「同期とは今でもつながりがあります。結婚や出産で退職した同期とも定期的に集まっているんですよ」と、教えてくれました。健生病院では二〇〇五年に同期会を始めて以降、入職して一年以内に退職した看護師はいません。

2年目の不安

 職場・法人をあげて新卒看護師をサポートしていても、二年目には二年目の課題が待ち受けています。新人研修終了時に取ったアンケート(二〇一一年度)では、四一%が“二年目に不安があり、仕事を辞めたいと思ったことがある”と答えました。宮本さんは「二年目になるとエルダーもはずれ、急にほったらかしになることが多い。新人も入ってくるので、わからないことを聞きづらくなり、一人で悩みを抱えてしまいやすくなる」と話します。
 健生病院の研修委員会では「一年目のエルダーのように、二年目にも気軽に相談できる人を職場に配置しよう」と二〇一三年度から「サポーター制」を導入しました。「一年目で伸び悩んでいた子が二年目でぐんと伸びることもある。あせらせず、その子にあった教育をすすめていくことが大切。そのフォローをしてくれるのがサポーターだ」と宮本さん。

成長し続けられる職場づくり

 健生病院で働いた一年間を振り返り、宇波さんは「はじめてお産で赤ちゃんを取りあげたときは感動して泣いてしまいました。今までで一番嬉しかったのは『取りあげてくれたのがあなたでよかった』と言ってもらえたこと」と笑顔で語ります。石岡さんは訪問看護や在宅看護に興味を持って入職しましたが、「緩和ケアの勉強もしたいと思うようになった。患者さんの最期まで関わる看護師として、患者さんや家族の希望を聞けるようになりたい」と夢を話します。
 太田さんは同保健生協で働き続ける理由を次のように語ります。
 「人に恵まれた職場だから。いつも患者さんや家族の声に耳をかたむけ、どうしたらいいかを職場のみんなで考える。エルダーだけにまかせるのではなく、チームで新人たちの成長を見守っています。私もよい職場で働いていると実感しています」
 健生病院では現在、看護部だけでなく他職種の教育担当者とも意見を交わし、研修のすすめ方や教育方法を考えています。さらに、同保健生協では二〇一五年度から、年代ごとの看護師研修を増やそうと計画しています。荒川さんは「今の職場では必要なくても将来的に学んでおいたほうがいいこと、興味のあるものに参加してもらい、一人ひとりの看護師が津軽保健生協で働くためのビジョンをつくってほしい」と、語ってくれました。

文・寺田希望記者/写真・酒井 猛
いつでも元気 2015.04 No.282