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いつでも元気

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特集2/若い人の2型糖尿病/仕事や食事などが大きく影響/全日本民医連医療部 「暮らし、仕事と40歳以下 2型糖尿病についての研究」研究班

社会経済的状態に着目した支援が必要

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熊本・くわみず病院
松本 久
(内科)

 全日本民医連の学術委員会では、「若い世代の実態把握は、治療や今後の日本における糖尿病の動 向を予測する上でも重要である」と考え、20歳以上40歳以下の2型糖尿病(主に生活習慣が原因で起こる糖尿病)患者さんの全国調査を提起、実施しまし た。本調査・研究について報告します。

なぜ調査を実施したか

 2010年、全日本民医連の学術委員会で「若い糖尿病患者さんのなかに、血糖値を適正に保つことができず網膜症や腎症も合併している人が増加しているよ うに思う」という問題意識が出されました。この問題意識を表明した莇也寸志医師(石川・城北病院)は「肥満や生活や雇用状態などが背景にありそうだ」と指 摘しました。
 私も最近、印象的なケースを2例診ました。
 1人は30代男性。糖尿病で肥満がありますが、仕事が忙しくて定期受診できず、受診する曜日も毎回違うので、主治医にほとんど診てもらっていません。HbA1C(注)は10%前後と高い数値。長期出張が頻繁にあり、服薬もきちんとできていません。もちろん食事は不規則。本人も「非正規の人も大変だけど、正規も大変。過労死寸前」と話していました。
 もう1人はタクシー運転手です。国民健康保険証を持っていました。血糖値が500mg/dlを超えており、入院が必要な状態でしたが「自分が働かないと 家賃も払えない」と拒否。支払いの遅れていた国保料を納めるためのお金を封筒に入れて持っていました。
 この20年、非正規労働者の増加や未婚率の増加、相対的貧困率の増加など、若い世代の職業・労働時間・所得などの社会経済的状態 (Socioeconomic status:以下、SES)の悪化はきびしいものがあります。つまり、職業や労働時間、食事をとる時間、運動の有無、睡眠時間、健診・受診の有無が、健 康状態に大きく影響しているのです。


(注)ヘモグロビンエーワンシー:血中ヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結びついたヘモグロビンの割合のことで、過去1カ月間の血糖が高いほど数値が高くなる。

調査内容

 今回の調査では、全日本民医連加盟の96施設の協力で782人の事例が寄せられました。
2012年6~7月の診療録(カルテ)をもとに、(1)初診時と調査時のHbA1C、(2)受診動機、(3)合併症の有無、(4)治療法、(5)健康保険 の種類、(6)肥満度(BMI)、(7)家族歴、(8)定期受診の有無、(9)運動習慣、(10)食習慣、(11)睡眠、(12)労働、(13)嗜好、 (14)家族に糖尿病患者がいるか、(15)学歴、(16)経済状況などを聞きました。また、1年後にも診療録の調査を実施。全日本民医連にとっても、大 規模な学術調査は久しぶりの実践でした。

調査でわかったこと

 調査では多くのことがわかりました。特に重要な5点をまとめておきます。

(1)若い時からの著明な肥満
 今回の調査対象者は、20歳のときからすでに肥満状態で、その後さらに肥満が進行し、調査時点でも高度の肥満状態にあるという傾向が顕著でした。調査時 までの最大BMIが30以上だった人は、男性74・1%、女性73・8%でした(図1)。
 『2011(平成23)年度国民健康・栄養調査報告』によればBMI30%以上は20~29歳で4・4%、30~39歳で5・4%であり、本調査対象者は明らかに肥満でした。

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(2)若くして合併症が進行
 40歳以下ですでに網膜症を合併している人が22%、腎症を併発している人が15・9%と高率でした(図2)。しかも、就学年数が短かかったり、非正規雇用、生活保護受給、未婚または離婚のひとり暮らしの人ほど、合併症が多い傾向にありました(図3)。

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(3)収入が低い
 平均世帯収入が低いこともわかりました。世帯収入600万円以上は10・6%で、『2010(平成22)年度国民健康・栄養調査』の平均世帯収入15・4%と比較すると、低い世帯が多い結果でした。

(4)定期的に受診できないとリスクが増大
 受診(初診)後、血糖値が正常値を維持できるかどうかを調べた結果、「定期的に受診できているかどうか」が大きな影響をおよぼしていることがわかりました。
 診断年齢が若く現在の年齢が高いほど、また家族に糖尿病患者がいる人ほど、血糖コントロール不良の傾向にありました。1日の睡眠時間が短かかったり、 22時以降に食事をとる生活をしていることも、コントロール不良の要因でした。
 定期的に受診できていない原因については、「多忙」「診療時間に仕事がある」「経済的問題」があわせて80%を占めました(図4)。治療費の負担が重いと感じていることも、血糖値を適切に維持できない要因でした。

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(5)健康を改善する計画を立てて実行できるかどうか
 「健康に関する情報(病気や検査結果、食事・運動・薬の役割など)を理解し、自分の治療計画を立てて実行する力」を「ヘルスリテラシー」と言います。今 回の調査では、最終学歴によるヘルスリテラシーの差が見られました(図5)。

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考察─今後何が必要か

(1)若い時からの肥満対策
 ─若い人への健康診断が必要

 今回の調査は、日本の若年層の2型糖尿病患者は20歳のときからすでに肥満状態で、その後さらに肥満が進行、調査時点で高度の肥満状態にあることを示しました。
 60歳以上の2型糖尿病患者は、肥満が著明ではなく、インスリン分泌が低いことが特徴です。それに比べて、今回の調査対象者に明らかな肥満が認められた ことは、従来の2型糖尿病と大きな違いがあることを示しています。
 ハワイやワシントン、シアトルに在住する日系アメリカ人の2型糖尿病患者は、インスリン分泌が高い欧米人に類似しており、「人種差ではなく、欧米型の食 事をはじめとする生活習慣の影響が大きい」と報告されています。同様に、今回の調査対象者も「欧米化した食生活の影響をうけてインスリン分泌が活発とな り、糖尿病を発病している」ことが推測されます。
 また、日本政府による健康推進計画「健康日本21」では、「肥満者の割合について性・年齢階級別にみると、有意に増加しているのは30~50歳代男性で あり、特に2009年(平成21)の肥満者の割合を10年前の該当世代と比較すると、現在の30歳代男性の増加割合が最も大きいため、20歳代から30歳 代にかけて体重を増やさないためのアプローチが必要である」と結論づけています。
 若いときからの肥満対策と、早期発見のためにも健康診断が必要です。

(2)雇用の改善、教育の充実、安心して結婚できる社会環境改善が重要
 糖尿病と肥満、SESとの関係について、海外では一般的に「職業・所得・学歴などが低い階層に2型糖尿病や肥満の有病率が高い」と報告されています。しかし、日本では同様の大規模な調査はおこなわれていません。
 今回の調査では対象患者全体の平均世帯収入が低く、無職・非正規雇用が多かったことや最終学歴が低い傾向にあったことなどから、日本でもSESの低さが 糖尿病の発症やコントロールへ影響している可能性が高いことがわかりました。
 さらに学歴・雇用状態・配偶者の有無などのSESが低いほど、網膜症と腎症の合併症が高い傾向があったことから、雇用状況の改善、教育の充実、安心して結婚できる社会環境の整備などが重要です。

(3)受診を保障する労働環境の整備が重要
 定期的な受診を妨げる要因のかなりの部分が「多忙」「診療時間に仕事がある」「経済的問題」であったことから、労働環境の改善が必要です。
 長時間労働を厳しく制限し、通院時間を保障する制度が必要です。非正規労働者が増えると、通院時間の確保や治療も個人任せの傾向が強くなります。非正規 雇用をなくし、正規雇用を増やすことが、日本人全体の健康維持にもよい影響をあたえます。
 今回の調査で、糖尿病が本人の責任のみならず、SESとの関連が強いことがわかりました。通院を含めた健康を守る権利(健康権)は、基本的人権として保障されるべきと言えます。

(4)健康改善に向かう意欲を高める教育・指導が重要
 患者さんがヘルスリテラシーを身につけるためには、医療者と患者の情報の共有や療養指導の改善が重要です。貧困による健康格差をなくすとりくみと同時 に、患者さんの治療に対する姿勢・積極性を高めるためにどんな工夫ができるのか、医療現場に検討が求められます。

雇用破壊・貧困広がるなかで

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調査報告書は10月15日に発行予定

 近年、雇用状態の悪化や貧困の広がりが問題視されてきました。産業別常用労働者賃金指数(現金 給与総額)はこの15年間減り続け、非正規雇用者比率は20%(1990年)から37・9%(2014年)へと大きく上昇しました。いまや3人に1人以上 は非正規労働者となっています。
 相対的貧困率や子どもの貧困率も上昇しています。男性は非正規労働者の未婚割合が高く(低賃金により家族を養えないため)、女性は正規労働者の未婚割合 が高く(働きながらの子育てが困難であるため)なっています。特に30歳代は、男性の正規労働者の未婚割合が30・7%であるのに対し非正規労働者は 75・6%、女性は正規労働者の未婚割合が46・5%であるのに対し非正規労働者は22・4%となっています。結婚をすることも、子どもを生み育てること も極めて厳しい状況です。
 また、学歴と親の世帯収入にも関連があると言われています。貧困が世代を超えて引き継がれる傾向にあることも指摘されており、当然、学歴にも影響することが想像できます。
 今回の調査対象者である20歳以上40歳以下という世代は、まさにこの20年間の日本の社会経済的変化の大きな影響を受けてきた世代です。その影響が、 糖尿病の発症や合併症、血糖値を正常に維持できているかどうかと大きく関連することを、今回の調査は示しました。この結果は海外の多くの報告と一致するも ので、日本でも“SESと糖尿病が関連する”ことが示されたと言えます。

社会的支援や政策を

 糖尿病対策においては、個人の生活習慣だけでなく、社会経済的要因に着目した支援や政策が必要であると言えるでしょう。

いつでも元気 2014.11 No.277