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いつでも元気

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特集2/副鼻腔炎/重大な合併症を引き起こすことも

消難治性・アレルギー性の症状が増えている

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飯塚 譲
山梨・甲府共立診療所所長
(耳鼻咽喉科)

 風邪を引いた後に、こんな症状を経験したことはありませんか。
 ▽鼻づまりが続く。濃いネバネバした鼻水が出てきて、のどに落ちてくる。
 ▽なんとなく頭がボーッとしたり、頭痛がする。顔を動かすと頬の奥が痛い。
 これらの症状は副鼻腔炎かもしれません。日本人に多いと言われる副鼻腔炎とは、どんな病気でしょうか。

副鼻腔とは

 私たちの顔の真ん中についているのが、鼻です。顔の中でも一番目立つ鼻、その穴の中のことを解剖学的には「固有鼻腔」と言います。
 この固有鼻腔の周囲にはいくつかの部屋があり、それぞれの部屋は骨で囲まれています。これらの部屋のことを「副鼻腔」と言います。「腔」とは、人間の体 の中で空洞になっているところという意味です。「こう」としか読めないのですが、医学上、特に顔にある腔はなぜか「くう」と呼ばれています。
 副鼻腔は、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の4つに分かれています。上顎洞は左右の頬の内側、篩骨洞は左右の目の間の奥、その上に前頭洞があり、篩骨洞の奥の方に蝶形骨洞があります(図1)。
 それぞれの内部は空洞で、空気が入っており、薄い粘膜がついた骨に囲まれています。ゆで卵を作ると卵の殻の内側に薄い膜がついていますね。あんな風についていると思ってください。
 この粘膜にはごく小さな毛(せん毛)が生えています。せん毛は一定の方向に並んでおり、外から入ってきた異物などを分泌物でからめとって、副鼻腔から固有鼻腔へ排泄する働きをしています。
 また、左右4つずつ、合計8つの副鼻腔は奥で脳や目に隣接しているとともに、いずれも固有鼻腔と一部でつながっています。

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副鼻腔炎はなぜ起こる?

 この固有鼻腔とつながっている場所は「自然口」と呼ばれます。この自然口が炎症で腫れるなどしてふさがると、副鼻腔が換気不全を起こします。換気がさま たげられると副鼻腔内で細菌が増殖し、粘膜の炎症がますます強くなります。炎症が強くなると粘膜のせん毛の動きが阻害されて、分泌物が固有鼻腔に排泄され なくなります。これが副鼻腔炎の正体です。

炎症の原因は

 炎症の原因は、ウイルスや細菌の感染、近年ではアレルギーによるものも多くなっています。
 一般的にはまず、ウイルスによる感染が起こり、その数日後に細菌感染が起こってそれぞれの症状を引き起こすと言われています。
 ちなみに、ウイルス感染と細菌感染のちがいについてお話しします。 簡単に言ってしまえば「ウイルスには抗生剤が効かないが、細菌には抗生剤が有効であ る」ということです。なぜかというと、抗生剤は一部の細菌に対して、細胞を破壊することで効果を発揮します。ウイルスには細胞がないため、効果を発揮でき ません。たとえば風邪はそのほとんどがウイルスによって引き起こされます。
 したがって風邪に効く抗生剤はないのです。

急性と慢性のちがい

 次に、急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎についてお話しします。

急性副鼻腔炎

 ウイルスの感染が起こり、数日後、細菌に感染することで発症します。鼻づまり、鼻水、濃い鼻水がのどに回る(後鼻漏)、咳が出る、頭痛、顔面痛などの症状が急に現われます。おおむね1カ月くらいで自然に軽快していきます。

慢性副鼻腔炎

 急性副鼻腔炎の症状が3カ月以上続くものを慢性副鼻腔炎と言います。
 急性副鼻腔炎が長期化することで、せん毛が働かなくなったり、排泄口である自然口がふさがって、なかに膿が溜まってしまいます。ここまで長引くと、細菌 感染の影響はもう少なくなっています。副鼻腔炎の昔からの呼び名である「蓄膿症」は、このような状態を指した言葉です。

診断と治療

 症状だけではなかなか自分で診断しにくい病気です。副鼻腔炎を疑ったら、まず耳鼻咽喉科を受診してください。副鼻腔炎と診断されたら、次は急性か慢性か、どの程度のものなのかを評価する重症度判定が必要になります。
 重症度は症状だけでなく、固有鼻腔の状態を耳鼻咽喉科医が診て、総合的に判断する必要があります。重症度判定の結果に応じて治療法は異なります。

■重症度判定

 重症度判定に一番有効な診察法は、鼻腔内視鏡です。耳鼻咽喉科医は内視鏡によって自然口があいているところなどを観察します。
 膿の出方や周囲の粘膜の腫れ具合、後鼻漏の状態などを観察して判定をします。
 X線検査やCT(X線による断面撮影)も有効な検査ですが、すべての患者さんに実施する検査ではありません。また、病状の進行状況によっては、鼻腔から直接綿棒を入れて細菌検査をすることもあります。
 この診察で判断できたら、それぞれ次のように治療します。

急性副鼻腔炎の治療

 ウイルス感染から数日たって細菌感染に移行することがほとんどです。症状が出始めたばかりであれば、まだウイルスに感染している時期と考えられます。そのまま細菌感染に移行せずに治ることも多いため、ごく初期であれば数日間何も薬を使わずに様子を見ます。
 症状が悪化し、細菌感染が疑われるようになれば、抗生剤を処方します。だいたい7~10日くらいの内服で改善していきます。

慢性副鼻腔炎の治療

 細菌の感染によって引き起こされた粘膜や自然口の炎症の治療が必要です。痰や鼻水を出しやすくする気道粘液修復剤や気道粘膜溶解剤の服用が治療の中心になります。

治らない場合は手術療法も

■正常の場合(X線画像)
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両側の上顎洞には空気が入っているため、黒く写っている
■慢性副鼻腔炎の場合
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両側の上顎洞は真白く写っている

 急性・慢性ともにこれらの薬物療法と合わせて、鼻腔内をきれいに吸引・清掃したり、ネブライザー(水や薬剤などを霧状にする器械)などで薬液を鼻腔から吸い込む治療がおこなわれます。
 それでも改善しない場合には、手術療法があります。患者さんの中には、経験者から「副鼻腔炎の手術は痛い」と聞かされている方も多いかもしれません。
 少し前の副鼻腔炎の手術は、上あごの歯肉のところから切って骨を削り、副鼻腔に到達するものが一般的でした。この手術は副鼻腔内の病的な粘膜を広範囲にわたって摘出していました。
 しかし最近は、鼻腔から内視鏡を挿入する手術が主流です。内視鏡で自然口を広げ、その周辺の病的粘膜だけを摘出します。基本は副鼻腔と固有鼻腔の通り道 を十分に広げるという考え方です。以前の手術法と比べて摘出する範囲も少ないため、患者さんの負担はずいぶんと軽くなりました。

増えている好酸球性副鼻腔炎

 近年、これまでご紹介した治療法を組み合わせてもなかなか治らない、難治性の副鼻腔炎も増えてきました。アレルギーが原因となっている「好酸球性副鼻腔 炎」です。気管支ぜん息をともなう副鼻腔炎で、成人が発症します。副鼻腔の中が白血球の一種である好酸球で充満し、鼻腔内にできもの(ポリープ)が多発し やすくなります。手術してもすぐに再発してしまう厄介なタイプです。
 鼻腔ポリープによって、においもわからなくなることも多々あります。
 この病気は今までの副鼻腔炎とはまったく違うもので、抗生剤や気道粘液修復剤など、通常使用する薬は効きません。ステロイド剤しか効果がみられないので す。なかには進行性の好酸球性中耳炎をともない、難聴がみられることもあります。

気をつけたい合併症

 診断がつき、重症度判定ができれば、副鼻腔炎の治療方針はだいたい確立しています。治療の中心は、不快な症状を取り除くことと言っていいでしょう。
 では、病院に行く時間がないからと、不快な症状を我慢し、治療をしないとどうなるのか。もちろんそのまま自然の治癒力で治っていくものも多いのです。
 しかし、なかには怖いものもあります。最初にお話ししたように、副鼻腔は脳や目に近いところにあります。そのため、副鼻腔の炎症が直接目や脳に波及し て、重大な合併症を引き起こす場合があるのです。視力障害が起こることもありますし、特に脳に波及すると髄膜炎(脳や脊髄などを覆う粘膜に炎症が起こる) や脳膿瘍など、死に至るケースもあります。
 ごくまれとはいえ、このような怖い合併症もある病気です。しっかりと耳鼻咽喉科にかかることをおすすめします。

イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2014.7 No.273