特集2 頻尿・尿もれ 「近い」「もれてつらい」と感じたら
内科医と連携した治療が必要な場合も
内田潤二 大阪・コープおおさか病院 (泌尿器科) |
泌尿器科には、さまざまなおしっこの症状を持つ方が受診されます。「おしっこが出にくい」と言って受診される方も多いのですが、「おしっこが近い」「もれる」ということで受診される方も多くおられます。
さまざまなおしっこの症状
おしっこが近いと、外出していても常にトイレの場所を探す必要があったり、何かしていても手を 止めなければならなかったりします。がまんできずにもれてしまう場合もあるので、生活の質を落とす結果になってしまいます。ただ、命にかかわるようなこと はあまりないですし、泌尿器科に受診することが恥ずかしいと感じて、そのままにしてしまうケースも多いようです。
おしっこが近くなったりもれたりする原因としては、膀胱の働きの低下はもちろん、前立腺肥大、結石、細菌の感染や、ただ単に水分の摂りすぎの場合もあり ます。また、おしっこの通り道(尿路)と関係ない病気が原因になる場合もあります。「おしっこが近い」「もれてつらい」と感じたら、一度は泌尿器科を受診 していただいた方がいいでしょう。
正常な排尿とは
そもそも、正常な排尿とはどういうものでしょうか。なかなかほかの人と比べることもないので、自分が正常な状態なのかどうかわからない人も多いのではないでしょうか。
一般的に言われている正常な排尿は、1回の排尿量200~300ml程度で、大きめのコップ1杯ぐらいです。1日の排尿回数は6~8回が標準的とされ、 1日の尿量は1000~1500mlですが、水分量や季節により変わってきます。
1日の回数が10回以上になると「自分は頻尿だ」と感じる人が増えるでしょう。また、夜間寝ている間に1回でもおしっこのために目が覚めるようであれば 定義上は夜間頻尿になりますが、実際は2~3回以上起きるようになると、「つらいな」と感じるようになるでしょう。
受診されるときには、受診前数日間分の排尿時間(何時何分)と排尿量、できれば摂取された水分量を記録しておいていただけると、診察に役立ちます(図1)。
頻尿の原因と治療
頻尿を来たす代表的な疾患である過活動膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎、夜間頻尿についてお話しします。
■過活動膀胱
頻尿で受診された場合、もっとも多くつけられている病名です。 この病気の定義は、▼排尿が我慢しづらい状態があり、▼日中または夜間に排尿回数が多 い、という症状です。特別な検査は必要なく症状によって診断されますが、膀胱炎や結石、悪性腫瘍ではないことを確認する必要があります。
過活動膀胱の症状を持っている方は国内に800万人と推定されており、40歳以上の男女の8人に1人、80歳以上では4割近くの人に認められると言われています。
原因として、脳血管障害や脊髄損傷などの神経疾患がある神経因性と、前立腺肥大症や骨盤底障害、加齢などの非神経因性に分けられます。
正常な排尿は、神経からアセチルコリンが分泌されて膀胱が収縮することでおこなわれるのですが、アセチルコリンが過剰に分泌され、膀胱の筋肉にくっついて収縮しやすくなっているのが過活動膀胱です。
治療としては、このアセチルコリンの活動を抑える抗コリン薬を服用します(図2)。多くの方がこの薬で症状が改善しますが、便秘や口の渇きなどの副作用があります。頻尿で薬を飲んでいるのに、口が渇くからと水分を多く摂ってしまうという、悪循環を招くことがあります。
また、膀胱の収縮を弱めてしまうため、排尿困難や残尿の増加、ひどい場合は尿閉といってまったく尿が出なくなる副作用が出ることもあります。ただ、そう いった症状が現れる人はごく一部です。抗コリン薬は5種類ほどあるので、自分に合う薬を見つけていけばいいでしょう。
また、膀胱を弛緩させることで膀胱の容量を増大させる薬もあります。ただこの薬はまだ1種類しかなく、効果は抗コリン薬よりやや弱いか同程度です。不整 脈や生殖器に対する影響が指摘されていますが、副作用は比較的少ないようです。
そのほかの治療としては、行動療法があります。これは膀胱訓練と言って、おしっこを我慢する訓練です。排尿間隔を延ばせば、徐々に膀胱の容量は増えま す。「おしっこをがまんしていると膀胱炎になりやすい」などと言われますが、そのような因果関係は証明されていません。おしっこが近い方は、1日に何回か がまんしてみることをお勧めします。
■前立腺肥大症
前立腺は、男性にしかない生殖器です。精液の一部を作りますが、膀胱の出口にあり、尿道の周りを囲んでいます。前立腺は加齢とともに徐々に大きくなるの で、尿道が狭くなりおしっこが出にくい(排尿困難)状態になります。これが前立腺肥大症です。
また、「肥大した前立腺が膀胱を刺激しておしっこが近くなる」「おしっこが出にくいために残尿が増え、そのために膀胱の容量が少なくなりおしっこが近く なる」などの症状があります。排尿困難よりも頻尿の症状が強い場合もあるのです。
前立腺肥大症の場合は、先ほどの抗コリン薬を服用すると、排尿困難が悪化したり、残尿が増えたりするので、まず尿道を開く作用のあるα遮断薬を投与します(図3)。それでも頻尿が軽快しないようなら、過活動膀胱を合併している場合もありますので、抗コリン薬を併用し、治療します。これで多くの方の頻尿症状が軽快します。
■間質性膀胱炎
頻尿や尿意切迫感(おしっこをがまんしづらい感覚)があり、尿がたまると膀胱が痛くなるのが特徴です。膀胱深部の細菌によらない炎症とも言われますが、 まだ原因がわかっていません。膀胱内視鏡で特徴的な所見が見られることもありますが、わからない場合もあり、心因性と診断されてしまうケースも多い病気で す。効果的な治療薬もあまりなく、治療に難渋します。麻酔をして水を注入し、膀胱を膨らませる治療をおこなうこともあります。
■夜間頻尿
これは、病名ではなく症状の名前です。昼間はあまりトイレに行かないのに、夜間寝てから起きるまでに何回も目が覚めてトイレに行くので、寝不足になる状 態です。加齢とともにこのような状態になる方が増えています。さまざまな要因が重なっている場合もあるため、治療が難しいこともあります。
原因は(1)膀胱容量の減少、(2)睡眠障害、(3)夜間多尿に分けられます。
(1)の場合、過活動膀胱や前立腺肥大症などが原因となり、夜間にトイレに行っても思ったほど排尿量が多くない場合です。先ほどもお話ししたように抗コリン薬やα遮断薬の服用で治療します。
(2)の場合、眠りが浅いため、ちょっとした尿意で目が覚めてしまいます。睡眠状態をよくするため、生活リズムの改善や運動などの指導もおこないますが、睡眠剤の服用が必要になることもあります。
(3)の場合は、水分の摂りすぎや内科の病気が原因となります。水分を摂りすぎておられる方は意外に多く、また意識的にたくさんの水分を摂っておられる場合もあります。
テレビの健康番組などで、「寝る前にしっかり水分を摂ると脳梗塞や心筋梗塞の予防になると言っていた」という方もいらっしゃいます。水分を多く摂れば尿量が増えて、おしっこの回数が増えるのは当たり前です。
水分を多く摂れば血液がサラサラになる科学的根拠もないようです。夜間に何度もトイレに起きて、ある程度の量のおしっこが出る人は、明らかに水分の摂り すぎです。夜間頻尿の方には「水分は日中のうちにしっかり摂って、夜間は控えるぐらいに」とお話ししています。
糖尿病の方は、口が渇く感じがするためか、多飲多尿の症状があります。頻尿を主訴に泌尿器科を受診された方が、検尿で尿糖を認め、内科を受診すると糖尿病だった、ということもあります。
また、うっ血性心不全の方の場合は、末梢の血管にたまり、むくみの原因となっていた水分が、夜間横になることで心臓に戻ってくるので、心臓の負担を軽く するために利尿ホルモンが分泌され、夜間に尿量が増えるという状態になります。
高血圧や腎機能障害、睡眠時無呼吸症候群なども夜間多尿の原因になることがあります。これらは、もともとの病気の治療をおこなうと改善されるので、泌尿器科だけでなく内科医との連携が必要になります。
尿もれの原因と治療
尿もれ(尿失禁・表1)は、生活の質を損ない、気分もゆううつにさせてしまいます。尿失禁には4つのタイプがあります。
■切迫性尿失禁
尿意を感じてトイレに行こうとしても、間に合わずに漏れてしまう状態です。
これは過活動膀胱の方に見られる尿失禁です。膀胱が過敏になり、膀胱容量が小さくなって我慢できずに漏れる状態ですので、やはり抗コリン薬で治療します。
■腹圧性尿失禁
重いものを持ったときや、くしゃみや咳など、不意に腹部に力が入った時に漏れてしまう状態です。女性に多く、原因としては出産や加齢による骨盤底筋(骨盤の底の筋肉)の緩みが考えられます。
治療薬としては尿道を締める作用のあるβ刺激薬がありますが、効果はあまり強くないので、尿道や肛門の括約筋(締める筋肉)を鍛える骨盤底筋体操も併用しておこないます。
骨盤底筋体操(図4)は、いろんな体位で尿や便をがまんするように尿道や肛門や膣を縮める運動です。1回10分程度で終わります。できれば1日に何度か、気がついたときにおこないましょう。
尿もれの症状が強い場合、手術で改善しますので、ぜひ女性泌尿器科外来のある病院を受診してください。
■溢流性尿失禁
排尿困難で尿を出せなくなり、膀胱にたまった尿があふれ出てきてしまう状態です。前立腺肥大症などが原因疾患として考えられます。尿道を広げる薬でよくな る場合もありますが、前立腺肥大症の手術が必要になることもあります。
■機能性尿失禁
膀胱の機能に問題はなくても、身体的問題で行動が遅いとか、認知症などで排尿が自覚できなくなり失禁する状態です。膀胱の問題ではないので、泌尿器科としての治療はあまり効果がないことが多いようです。
以上のように、尿もれはそれぞれのタイプで治療法が変わってきます。また切迫性と腹圧性が混合したタイプもあり、問診や検査でどのタイプかを診断し、治 療法を考える必要があります。
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「泌尿器科を受診するのは恥ずかしい」と思っている方も多いと思います。しかし、泌尿器科はおしっこの病気でかかっていただく科です。待合室におられる方々は、皆さんがあなたのお仲間です。
おしっこでお悩みの方は、ぜひ泌尿器科を受診してください。
イラスト・井上ひいろ
いつでも元気 2014.6 No.272