高福祉の国 デンマーク 全日本民医連が視察 文・山田 智(全日本民医連副会長)
全日本民医連は創立六〇周年事業として、デンマークの医療・福祉・社会政策の視察をおこないました。以前からぜひ行ってみたいと思っていた、“福祉の国”デンマーク。今回その願いをかなえることができました。
八月二五日、総勢一六人でコペンハーゲンへと旅立ちました。
デンマークでは、一九七六年に「社会支援法」が施行され、医療制度と福祉制度が一体化された一つの制度となっています。一九八二年には高齢者の在宅ケア の三つの原則((1)〈継続性〉これまで暮らしてきた生活を断ち切らず、継続性を持って暮らす、(2)〈自己決定〉高齢者自身の自己決定を尊重し、まわり はこれを支える、(3)〈自己資源の活用〉今ある能力に着目して自立を支援する)を掲げました。
第1日目 国会で女性が活躍
第一日目、通訳を務めるデンマーク在住三〇年の宮下智美さんが、大型バスを準備して空港で迎えてくれました。まずは首都コペンハーゲン市内の見学です。
デンマーク市庁舎は、一九〇五年建造。ルネッサンス様式を取り入れた威風堂々の建物でした。デンマーク出身の世界的な童話作家アンデルセンの銅像がそばにあり、人気の観光スポットです。
続いて国会議事堂となっているクリスチャンボー城へ。一一六七年に当時のアブサロン大主教によって建設されたもので、現在のものは一九二八年に建て直されたネオバロック様式とのこと。
デンマークの国会は一院制で、一九七〇年以降は少数与党による連立政権が続いています。一九七〇年以降、議員定数一七九のうち、ほとんどの連立政権は八 〇程度の議席で、過半数を超えたことがないといいます。現在は社民党とその他二党の連立政権で、三党とも女性が党首とのことでした。
第2日目 福祉関連予算64%
朝八時に出発し、市民文化会館で宮下さんにデンマークについての基礎知識を講義していただきました。
デンマークは立憲王国で、言語はデンマーク語です。面積は九州とほぼ同じ。人口は五六〇万人で、兵庫県の人口と同じくらいです。
驚いたのは、なんと言っても国家予算に占める福祉関連経費が六四%(日本は約三〇%)にのぼることと、国政選挙投票率の高さ(二〇一一年八七・七%)で した。さすが高福祉の国です。しかも選挙の公約を守れないとすぐに議席を失うとのことで、日本も大いに学びたいところです。
デンマークは、日本の市町村にあたる九八の「コムーネ」と、県にあたる五つの「レジオン」、国にあたる「ステイト」で構成されています。福祉はコムーネ で、医療はレジオンが責任を持ち、ステイトは治安・外交などを受け持っています。
国と市だけに税徴収権があり、市は予算の六〇%近くを税金から集められるとのこと。そのため自治体間の差はあるものの、約七割の市で経済的に自立してお り、市が国の顔色を見ながら政策決定をする必要がなく、“世界で最も地方分権が進んだ国”との説明を受けました。
おいしいマグロステーキの昼食の後、いよいよ施設見学です。
最初に、コペンハーゲンの首都病院の一つ、へアレウ病院を見学しました。ガイドしてくれたのは、責任者のカレン・ストルガー元看護師です。
この病院には一般の病室のほかに、患者が滞在できる個室(患者ホテル)が設けられています。(1)日常生活が自立してできる、(2)スケジュールを自分 で管理できる、(3)ここにいることが安心感につながる、などの条件を満たす人が利用しているとのこと。「ホテル」とは言ってもベッドがある広めの病室と いう印象ですが、カフェが併設されているなど、その人らしくすごせるような気配りがされています。利用者は一日中ここにいなければいけないわけではなく、 「私服のままで自由に過ごし、家族も無料でいっしょにいられます。そのほうが治療効果もあがります。もちろん治療費は無料です」などと説明がありました。
この方式はノルウェー人の院長が考えたとのことですが、いわゆる「寝たきり」にならない、「廃用症候群」の予防にもつながるかもしれませんし、短期検査入院にも利用できるのではないかと思いをめぐらせました。
カレンさんとの記念写真を終えた後、私たちはグロストロップ市のちょっと変わった「森の保育園」へ向かいました。
この保育園は日本のテレビでも紹介されたことがあるので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。文字通り森の中にある保育園で、周りをかこむ柵など がいっさいないのです。柵がなかったら「子どもが迷子になってしまうのでは」と私たちなら心配しますが、そこはデンマークのお国柄でしょうか。園長から は、「認め合う、平等、尊敬」が教えの基本であることや、一日中、森の中で遊び、「自分のことは自分でやる」姿勢を身につける場であるとの説明を受けまし た。子どもたちの親も、その教育方針に納得して預けているわけです。
また、デンマークでは約九割が市立保育園だとのことでした。
第3日目 高齢者施設にカルチャー・ショック
バレンベック市の高齢福祉部門の責任者であるジム・ホーデンさんの説明を受けた後、六〇歳以上のシニア向け活動センター「コースエアゴー」(通所施設)を見学しました。
年齢がやや若いとはいえ、センターを利用する方々が刺繍や工芸、ヨガ、ビリヤードなど本当に自分のやりたいことを自分で決めて、積極的に活動していると いう印象を受けました。日本のデイサービスの場合、ややもすると「あたえられたものをやっている」受動的な傾向がなきにしもあらずですが、これにはカル チャー・ショックを受けました。
また、センターの利用者から選挙で選ばれた人たちが、年間の計画を立てて運営しているとのこと。サポートする市の職員は、「利用者が主体的に運営できるように心がけている」と語っていました。
次に行ったリハビリセンター「ピーレヘウスヒューン」では、三つの施設の掛け持ちながらも一五人の理学療法士(PT)、作業療法士(OT)がいるリハビ リ室を見学しました。リハビリは週二~三回おこなっており、訪問リハビリもあるとのことでした。
訪問看護師やヘルパーたちとも懇談。高齢者住宅への入所は、病院の医師・訪問看護師・家庭医による判定員会で決めるそうで、日本の要介護度のようなものはないとのことでした。
次にうかがった高齢者住宅「ローネペックフース」は、一〇四戸の高齢者住宅と、二四時間体制でサービスが受けられる一〇戸の介護住宅をもつ建物でした。 一戸あたり四三平方メートルある広い部屋。気になる家賃は日本円で一五万円で、最大八五%の補助が市から出るとのことでした。レストランも併設されていま すが、入居者の四分の一が自分で食事を作っているそうです。
この日の最後は「ホイストローブハーブ」(ショートステイ、認知症介護住宅)。ここでは、高齢者専門の精神科医や専門看護師、認知症アドバイザーなどか らなる専門チームをつくり、徘徊・せん妄など認知症の行動障害にも、チーム全体で対応しているとのことでした。
第4日目 介護士養成に潤沢な援助金
介護士養成学校で、日本人見学者として初めて上級社会保健介護士(アシスタントと呼ばれる)の 実地試験を見学しました。糖尿病患者の創傷処置や血糖値測定、片麻痺患者へのリハビリ実施など、かなり医療的な処置もおこなっていることに驚きました。日 本でも痰の吸引などヘルパーができる医療行為を拡大しようとしていますが、医療行為をそこまでやっていいのかとショックを受けました。
その後、デンマークの介護士養成校の制度について説明を聞きましたが、介護士になるまでの援助金の潤沢さにも驚かされました。上級社会保健介護士の場合 で月一九万八〇〇〇円、初級社会保健介護士(ヘルパー)で月一四万八〇〇〇円の学生給が支給されるとのことでした。
最後は、首都圏レジオン看護協会を訪問し、会長のビビカ・ビストさんにごあいさつ。協会には約八万人の看護師が所属しているそうですが、「それでも足り ない」とビストさん。「介護士と看護師の連携は十分でない」という点は、日本と共通しているようでした。
最終日 また訪れて学びたい
最終日は待ちに待った自由行動。
「ハムレット」のモデルになった、クロンボー城に行きました。世界遺産にもなっている堂々とした尖塔の立つ景観が見事でした。
今回の視察旅行で、デンマークの高齢者の在宅ケアの三つの原則すべてを具体的につかむところまでには至りませんでしたが、それらに結びつくものは垣間見 ることができたと思います。いずれまた訪れて、もっと深く学びたいと思います。
いつでも元気 2014.2 No.268