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いつでも元気

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緊急インタビュー 消費税増税は法律違反 「増税中止し3%に戻せ」 立正大学法学部客員教授浦野広明さんに聞く

 安倍首相は一〇月一日、消費税八%への増税を決断したと発表。同じ記者会見で、経済対策に五兆円の税金をつぎ込む方針も明らか に。「消費税は社会保障のため」ではなかったのか。立正大学法学部客員教授の浦野広明さん(税理士)に増税の不当性と本来あるべき税制の姿について聞きま した。

聞き手・編集部

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浦野広明さん
 立正大学法学部客員教授、税理士。
 著書に『Q&A納税者のための税務相談』『税民投票で日本は変わる』(ともに、新日本出版社)など多数。

血税がゼネコン・大企業に

─五兆円と言えば、消費税二%分ですね。

 「消費税は社会保障にだけ使う」という政府の言い分が偽りであることが、ここでも証明されましたね。しかも経済対策は、増税で景気が落ち込むのを避けるためだと言う。それなら、はじめから増税しなければよいのです。
 経済対策の中心は、相変わらず公共事業や法人税の減税です。国民の血税をゼネコン・大企業に注ぎこむものです。
 「復興特別税」(二〇一二年実施)の問題も見過ごせません。個人向けの「復興特別所得税」は二五年間続けるのに、法人向けの「復興特別法人税」は一年前 倒して来年三月末で廃止する。復興特別法人税の廃止分を合わせれば、約六兆円もの血税が社会保障とは関係のないところに消える計算です。

─首相は、復興特別法人税の廃止を「賃金増につなげる」と言っています

 賃金増にはつながらないでしょう。復興特別法人税の廃止分を「賃金増にあてる」と回答した企業は、わずか五%です(ロイター通信の一〇月企業調査)。
 しかも法人税は、実はすでに復興特別法人税の開始と同時に三〇%から二五・五%へ引き下げられています。法人税に復興特別法人税(法人税の一〇%)を加えても二八・〇五%で、実質一・九五%減税されているのです。
 法人税は、消費税導入前の一九八九年には四〇%でした。法人税は大幅に下がっているのに、労働者の賃金は上がっていない。賃金を増やすなら、二七〇兆円 に及ぶ大企業(資本金一〇億円以上)の内部留保をはき出させ、非正規雇用の正社員化を進める方が先決でしょう。

  表1 首相会見の主な発言の中身

(1)日本経済に「回復のきざし」が見られるため、消費税を2014年4月から5%→8%に引き上げると決断
(2)5兆円規模の経済対策
(3)経済成長を賃金上昇につなげることを前提に、復興特別法人税を1年前倒しで廃止することを検討
(4)「大胆な経済対策」によって、経済再生と財政健全化を両立
(5)消費税10%への引き上げは、経済状況を総合的に勘案して判断

消費税収はすでに先進国なみ

─「日本の消費税率はヨーロッパより低い」という意見には、どう答えれば。

 日本の消費税率の低さだけを強調する議論にはごまかしがあります。たとえばイギリスの消費税率は標準で二〇%ですが、国税収入に占める消費税収の割合は、消費税五%の日本とほぼ同じです(表2)。日本ではほぼすべての品目に消費税がかかっていますが、イギリスでは食料品や水道水、新聞・書籍、国内旅行の運賃、居住用の住宅建設費用まで「消費税〇%」になっているからです(表3)
 ヨーロッパでは、基本的に食料品などの日用品は「低税率」で、「非課税」の品目も日本より多い。生活必需品にぜいたく品と同じ消費税率をかけている国は、先進国では日本ぐらいです。
 フランスは国税収入に占める消費税収の割合が五割近いのですが、医療費はほぼ全額払い戻され、生活保護の捕捉率(生活保護基準以下で生活している世帯 が、実際に受給している率)も九割を超えています。保険料を払っているのに、医療費の窓口負担があったり、生活保護の捕捉率も二割程度で、受給者をさらに 減らそうとしている日本とは雲泥の差です。
 イギリスでも医療費の窓口負担は原則無料で、低所得者の通院費まで支給しています。日本はすでに消費税収は先進諸国なみ、社会保障だけが最低水準なのです。

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税金の中心は本来、所得税・法人税

所得課税を税制の中心に

─本来あるべき税制のあり方は。

 所得税や法人税を税金の中心に据えて応能負担(能力に応じた負担)原則を貫き、累進課税を強化することが必要です。税金には大きく、(1)所得、(2)資産、(3)消費にかけられるものがあります。
 所得税や法人税は、(1)に該当します。日本ではこの(1)が下げられ、(3)にあたる消費税が増やされてきましたが、結果として国の税収全体は減っています(図1)
 日本国憲法は一三条で幸福追求権、一四条で法の下の平等、二五条で生存権、二九条で財産権を定めている。こうした条文から見ても、応能負担は憲法の要請するところだと言えます。
 (1)は、「もうけ」に対する税金と考えてもいいでしょう。生活や事業に必要な費用を控除し、残った「もうけ」から税金を徴収する。逆に言えば、所得や利益がなければ徴収されないわけです。
 ところが(3)にあたる消費税は、家計や事業が赤字かどうかなんて関係ありません。しかも大企業ほど消費税を商品価格に転嫁したり、下請け企業に押しつけて負担せず、逃れることができます。
 さらに輸出大企業は、輸出品の仕入れにかかった消費税を「返して」もらっています。たとえば二〇一〇年度、トヨタ自動車は消費税を払うどころか、二二四六億円受け取っています(表4)。このような優遇措置もなくすべきです

─所得税を増やすと、「働く意欲がなくなる」という議論もありますが。

 所得税は現在、最高税率四〇%、住民税と合わせても五〇%です。かつて所得税は最高七五%、住民税とあわせて九三%という時代がありました(表5)。むしろ税率は今より引き上げるべきです。
 誤解している方が多いのですが、所得税は、丸ごと最高税率がかかるわけではありません。現在でも課税所得一九五万円以下の部分から五%、一九五万円超・ 三三〇万円以下の部分から一〇%、三三〇万円超・六九五万円以下の部分から二〇%…と階段状の税率になっていて、最高税率の四〇%がかかるのは課税所得一 八〇〇万円を超えた部分だけです。

─株で得た利益にかかる税金も、ずっと一〇%に据え置かれていますね。

 株の売買で得た利益や配当にかかる税金は本来二〇%ですが、二〇〇三年以降一〇%に据え置かれています。
 何億円もうけても一〇%で、勤労所得にかかる所得税よりも負担が軽いのは、明らかな不公平です。しかも株で得た利益には医療・介護・年金などの保険料も かかりません。こうした「不労所得」には、勤労所得よりも高い税率を課すべきです。欧米では二〇台~四〇%が主流です。

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法人税も累進課税強化を

─法人税率も一律のままでは、中小企業には重い負担だと思うのですが。

法人税(二五・五%)も個人の所得税などと同様に、収益の少ない企業には少なく、巨大な利益をあげた企業からは多くの法人税を徴収する階段状の税率(累進課税)にすればよいでしょう。

─財界や政府は「法人税を下げないと、海外に企業が逃げる」と主張しています。

 経団連などの財界は「法人税を下げろ」「消費税は上げろ」と要求しておいて、雇用や給与増など の見返りは何も保障しない。それどころか「国際競争力のため」だと言って賃金カットや非正規雇用の拡大、解雇の自由まで要求しています。そんな財界や大企 業のために、日本国民や中小企業が身を削る必要はありません。
 国際競争力が強調されますが、競争しているのは国ではなく、民間企業同士です。しかも多国籍企業は海外に生産拠点を持つなどして、無国籍化しています。
 企業が海外への投資を決める基準は、法人税が高いかどうかではなく、その国で利益が見込めるかどうかです(表6)。労働者の雇用を守り、社会保障を充実させ、国民生活を守る方が内需拡大につながって、日本に来る企業も増え、税収にも貢献するでしょう。
 しかも多国籍企業は「外国子会社配当益金不算入」などの優遇税制を使い、合法的に「脱税」をおこなっています。この制度は「外国にある子会社から受け 取った株の配当益の九五%には課税しない」もので、二〇〇九年から実施されています。
 たとえばある企業が日本で得た利益を海外の子会社に渡す。そうすると名目上は「費用」になりますね。これを「株の配当」という形で日本に戻させる。こう すれば本来法人税として二五・五%徴収されるところを、五%×二五・五%で一・二七五%しか徴収されない。しかも配当するのは子会社ですから、配当額は親 会社の都合で株価の一〇〇%でも二〇〇%でも好きなように設定できる。
 二〇一一年度分の外国子会社配当益金不算入は三兆九三八四億円で(国税庁発表)、総額の九六%が資本金一〇億円以上やグループ企業などの大企業です。これも税収に穴をあける原因になっており、廃止すべきです。

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国民の力で増税ストップ実現を

勝負はこれから

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内容のほとんどが大企業・資産家優遇の特別措置だという『税法六法』法令II。法令IやIIIの3~4倍の厚さが

─消費税増税ストップのために、私たちにできることは。

 昨年可決された消費税法の附則第一八条には“経済の動向を見ながら、増税の中止を含めて検討する”ことが書かれています。安倍首相は「法律で決められたとおり」増税すると言いますが、法律にもとづけば増税は中止すべきです。
 安倍首相は一~六月の国内総生産が年換算で三%以上のびたことを「経済回復の兆し」が見られると増税の根拠にしていますが、それは「アベノミクス」でゼ ネコンに大量の税金を投入したり、金融緩和策をおこなった結果に過ぎません。政府の調査でも「所定内給与」は今年八月まで一五カ月連続で減っています。実 体経済はよくなっていません。
 日本で消費税導入・増税を公約して政権についた政党は、今日まで一つもありません。そして消費税を導入した竹下登政権、五%に引き上げた橋本龍太郎政権は、いずれも直後の選挙で敗れています。
 実は、五%への増税時にも経済状況を勘案して決めるというような条項がありました。にもかかわらず、経済状況をきちんと検討せずに増税に踏み切ったことを考えれば、現行の五%自体が法律違反で、三%に戻すべきです。
 税制は、選挙民である国民が決めるものです。消費税の増税中止は、法律的には「消費税率の引き上げに関する消費税法第二条(八%への増)および第三条(一〇%への増)については、当分の間、この規定を適用しない」などの一文からなる法案を国会で通せば可能です。
 消費税増税中止は、あきらめるわけにはいかないたたかいです。勝負はこれから。ともに声を上げていきましょう。

写真・酒井 猛

いつでも元気 2013.12 No.266