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いつでも元気

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特集2 腰痛 腰椎、この難しきもの

ストレッチング、体幹筋トレーニングを

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森実 和樹
愛媛生協病院
(整形外科)

 誰もが一生のうちに一度は必ず味わうという腰痛。しかし、この腰痛ほど、整形外科医をも深く悩ませるものはありません。今回は、ヒトが立位歩行を始めて苦しんできた腰痛について、お話しします。

腰痛の疫学

 日本の統計で、国民が「最も気になる症状」として挙げる第1位が「腰痛」です。
 2010年の国民生活基礎調査では、男性の8・9%、女性の11・8%が腰痛を訴えています。病院にかかる際の訴えとして最も多いのも、「せきやたんが 出る」「鼻がつまる、鼻汁がでる」などのかぜの症状ではなく、腰痛です。
 一方、実際に病院や診療所にかかる方は、39・6%と全体の4割もいません。多くの方は、あんまや針灸、柔道整復師などの施術、市販薬などですましています。
 「病院にかかっても治らない」、もしくは「病院は検査はしてくれても治療はできない」と思われているところがあるのかもしれません。
 整形外科医にとっても、腰痛は「肩こり」「関節の痛み」とともに、患者さんからよく訴えられる3大主訴の1つです。  
 しかしこの腰痛には、わかっているようでわかっていないことがたくさんあります。実は、「先生、私の腰痛の原因は何ですか」と問われるのが、整形外科医にとっては最大の難問なのです

腰痛の原因

 腰痛がやっかいなのは、その原因がわからないことです。わからない原因は、(1)ほかの病気の ように、血液検査など客観的なデータで白黒の判断がつきにくい、(2)腰痛といっても、患者さんの訴える部位は、背中、腰、臀部(お尻)、太ももなどさま ざま、(3)痛みの原因となる部位が腰椎(背骨)、椎間板、椎間関節、神経、筋肉や筋肉を覆う筋膜、仙腸関節(骨盤にある関節)など、これまたさまざまで あることなどによります。
 今日ではX線(レントゲン)だけでなく、CTやMRI(電磁波による断面撮影)、果ては骨シンチグラフィー(検査薬を使って骨ががんなどに侵されていな いかを見る画像検査)など検査方法は増えましたが、「画像で異常があるからそれが痛みの原因か」というと、単純にそうとも言えません。血管や血液の病気、 婦人科や精神科の病気など、整形外科以外の病気から腰痛が起きる場合もあります。ですから腰痛は、われわれ整形外科医を手こずらせるのです。
 また、みなさんがよく耳にする「ぎっくり腰」、これも本当のところは、痛みの原因が何なのかわかっていません。最近の研究では、「魔女の一撃」とも言わ れる最初の痛みは、「椎間板が断裂したために起こるもので、断裂した椎間板が修復して腰痛が改善したころに椎間板内にある髄核が突出して神経を刺激するの が、椎間板ヘルニアではないか」と考えられています。
 以前は、ぎっくり腰といえば、「とにかく安静に寝ていること」が提唱されていましたが、現在は5日以上の安静は無意味と言われています。
 一方で、痛みがなかなかとれなかったり、痛みが再発したりする患者さんもいます。これらは、断裂した椎間板が修復しようとしているときに繰り返し損傷が加わることで、慢性腰痛になるのではないかと言われています。

手術が必要な腰痛

 腰痛はそのほとんどが、数日から数週間で改善します。しかし、その中に、命や社会生活などに影響をあたえるような、放っておけない腰痛も存在します(図1)。
 「そのまま放っておくと、大変なことになりますよ」と言うキャッチフレーズの某テレビ番組で紹介されるような腰痛がそれに当たります。図1にあるような項目に当てはまるようであれば、病院などでの精査が必要になります。
 そこまでいかなくても、痛みが強かったり筋力が低下したりして、日常生活に支障をきたし、内服や運動療法などの保存療法で改善しない場合は、手術をしなければならないことがあります。
 その代表格は、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症(図2)です。ともに腰椎の中を通る神経を圧迫し、腰や足の痛み、筋力低下、さらには膀胱直腸障害(排尿・排便の調子が悪くなる)などを起こす病気です。
 腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の間にある椎間板という軟骨が飛び出し、神経を前方から圧迫することによって起こります。一方、腰部脊柱管狭窄症は、黄色靱 帯というゴムのような組織が厚くなり、神経を後方から圧迫することによって起こります。それぞれ「前方」「後方」と、圧迫するものの場所は異なりますが、 神経を圧迫する病気であることに変わりはありません。
 基本的な治療は、神経を圧迫している椎間板や黄色靱帯を切除することです。病状によっては、圧迫している要因を除去するだけでなく、背骨を金属で固定し たり、骨盤の骨を採って移植したりする場合もあり、術式や適応は医師や患部の状態によってさまざまです。
 一方で、「腰が痛い」というだけで手術になることはほとんどありません。手術で改善が得られる可能性が大きい症状は筋力低下や痛みで、足のしびれは改善 しにくいというのが一般的な見解です。手術については主治医とよく相談して受けられることをおすすめします。

図1 放っておけない腰痛の症状

◆発症年齢が20歳未満、55歳以上
◆最近の激しい外傷歴(高所からの転落、交通事故など)
◆進行性の絶え間ない痛み
(夜間痛、楽な姿勢がない、動作と無関係)
◆胸部痛
◆悪性腫瘍の病歴
◆長期間にわたる副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)の使用歴
◆非合法薬物の静脈注射
◆免疫抑制剤の使用
◆HIV感染の既往
◆全般的な体調不良
◆原因不明の体重減少
◆腰部の強い屈曲制限の持続
◆脊椎叩打痛
◆身体の変形
◆発熱
◆膀胱直腸障害とサドル麻痺(馬尾症候群の疑い)

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手術しないで治すには

 「手術してでもいいから早く治してほしい」という患者さんもいますが、多くの方は、「何とか手術しないで良くならないだろうか」と思う(思いたい)もの。
 しかし外来診察室は忙しいため、医師の側も「症状が悪くならなければ今の治療を続けておけばいい」と思いがちで、患者さんに「どう腰痛を克服するか」と いう方法を教えたり、徹底させたりすることが不十分になりがちです。
 手術せずに腰痛を克服するにはどうすれば良いのでしょう。
 私が最近読んだダイエットの本に、「『やらなきゃいけない』ではなく、『やらないと損をする』と意識を変えると継続できる」ということばがありました。 そこで、「手術して損をした」と思わないための実践的な治療を紹介します。

腰痛を起こさないための姿勢

 まずは、生活する上で、腰痛を起こさないようにする姿勢を学びましょう。腰椎が反りすぎる(前弯)と腰痛の原因になります。立位でも、坐位でも、頭を起こし、軽くあごを引き、軽く胸を張り、背筋を伸ばすのが基本です(写真(1))。
 壁に後頭部、肩甲骨、臀部をつけて、チェックしてみましょう。背中(おへその真後ろ)にすき間はできていないでしょうか。両肩は浮いていませんか。頭は 後頭部がついていますか。頭頂部(つむじの辺り)がついてあごが上がっていないでしょうか。日常生活の中で、いい姿勢をとるように心がけましょう。
 机に向かう仕事をする方で、同じ姿勢が長時間に及ぶときは、片足を10~15センチ程度の足台に乗せると、骨盤の前方への傾きが減り、疲れにくくなります(写真(2))。重いもの(男性では体重の40%、女性では24%以上のもの)を持つことを避けましょう。持ち上げるときは、片膝をつき、体の前、腰の高さで抱えるようにします(写真(3))。

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写真(1)正しい立位姿勢 写真(2)正しい坐位姿勢 写真(3)持ち上げる動作

ストレッチング

 次に体のコンディショニング対策についてお話しします。一つ目の柱は、ストレッチングです。
 「腰痛=腰が弱い」と考えて、何でもかんでも筋力トレーニングをするのは感心しません。腰痛を抱える患者さんの多くは、ハムストリングと呼ばれる太ももの後ろの筋肉の柔軟性が低下するために、写真(4)のように、床に手がつきません。これを「タイトハムストリング」と言います。
 タイトハムストリングの結果、腰痛がひどくなったものが、中学生・高校生に起こる腰椎分離症です。これは、ハムストリングが固いために股関節が曲がら ず、その代償として腰椎の可動性が必要以上に増加し、腰椎の疲労骨折を起こしてしまう病気です。腰痛のある方がまずやるべきことは筋力トレーニングではな くて、体の柔軟性を獲得するストレッチングです。
 ハムストリングのストレッチングは、「ジャックナイフストレッチ」がここ数年の主流です。その方法は、まずしゃがんで手で足首をしっかりと握り、胸と太 ももの前面をぴったりとつけ、この状態から、膝を伸ばすものです(写真(5))。
 このときのポイントは、胸と太ももが離れないようにすることです。膝は必ずしも伸ばしきる必要はありません。膝を伸ばしながら、太ももの後ろ側に伸びを 感じる状態で10秒間キープし、これを朝夕5回ずつおこないます。成人でも1カ月継続すれば、平均20センチ伸びるというデータが出ています。
 転倒しやすい方は、座っておこないましょう(写真(6))。台の上などに腰を下ろし、膝を少し曲げ、反動はつけずに、背中もなるべく曲げないように、上半身の重みでゆっくりと前に倒れていき、胸を太ももの前面につけるようにしましょう。
 背中を曲げるのではなく、おへそを太ももに近づけるような感覚です。太ももにつかなければ、膝をさらに曲げると良いでしょう。

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写真(4)タイトハムストリング 写真(5)ジャックナイフストレッチ 写真(6)ハムストリングのストレッチ

体幹筋トレーニング

 体のコンディショニング対策のもう1つの柱は、体幹筋トレーニング(コア・エクササイズ)です。コアには、腹筋、背筋、股関節周囲筋が含まれます。コ ア・エクササイズは、ウオーキングよりも腰痛の軽減や機能回復に効果的という報告や、腰痛再発軽減効果があるとの報告もあります。
 コア・エクササイズにはさまざまな運動がありますが、ここでは、ドローインとブリッジ・エクササイズを紹介します。これらは主に、腹横筋を強化する運動 です。腹横筋は腹部を取り囲むようにある筋肉で、体の深い位置に あります。腹横筋は腰の周りを支え、姿勢を維持する働きをしています。腹横筋を強化することで、腰が安定するわけです。
 最初はドローイン、別名「おへそ引っ込め体操」です(写真(7))。仰向けで膝を90度くらいに曲げ、息を吐きながらおへそを引っ込ませます。その状態で30秒間保ち、息は止めないようにします。これを5~10回、1日2~3回おこないます。
 ドローインの応用が、ブリッジ・エクササイズです。写真(8)は、そのなかでも比較的簡単なものです。
 四つんばいの状態から、片方の手を前に、反対側の足を後ろに伸ばします。背中は反らないように、なるべくまっすぐにします。先ほどのドローイン同様、お なかを引っ込めた状態で30秒キープ、終わったら、反対の手を前に逆の足を後ろに伸ばして同じように30秒キープします。姿勢を保つ時間は、最初は3~5 秒程度から始めてもいいでしょう。慣れてくれば、左右交互に3セットおこないましょう。

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写真(7)ドローイン(おへそ引っ込め体操) 写真(8)ブリッジ・エクササイズ

  まだまだ原因のはっきりわからないことが多い腰痛ですが、腰痛が発生する原因には、筋力の低下や柔軟性の低下、体重増加などがあります。今回ご紹介したストレッチング、体幹筋トレーニングを継続して、腰痛のない生活を送りましょう。

いつでも元気 2013.10 No.264