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いつでも元気

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特集1 58人の早すぎる死 全日本民医連が手遅れ死亡事例調査

 三月二九日、全日本民医連は「2012年国保など経済的事由による手遅れ、死亡事例調査」の結果を発表しました。
 対象は、経済的理由により保険料や医療費が払えず“手遅れ”になり亡くなったケースで、民医連に加盟する病院・診療所が集めたものです。
 今回の調査では二〇一二年一~一二月の一年間に、二五都道府県から五八人(図1・2)の事例が報告されました。同調査は今回で七回目になります。

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「もっと仕事がしたかった」

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3月29日、全日本民医連が開いた記者会見(写真=編集部)

 「みなさん、受診されるまでに、あまりにも時間がかかっていた。もっと早く受診できていれば」
 こう口をそろえるのは、宮崎生協病院・医療ソーシャルワーカーの米田春菜さんと石川知恵美さん。同調査に四人の事例を報告しました。
 そのなかの一人、Aさん(60代・男性)は自営業で、年金生活の父親と二人暮らし。同病院を受診する約二カ月前から体調が悪くなり、仕事ができないほどになりました。
 Aさんは以前、会社勤めで被用者保険(サラリーマンなどの健康保険)に入っていましたが、自営業を始める際、国保に加入しませんでした。
 米田さんは「自営業を始めるための借り入れもあったし、亡くなった家族が残した多額の借金もあった。加入しなかったのも、無理はないかもしれません」と話します。
 Aさんは「保険証がないので病院にかかれない」と市役所に電話。本来なら国保加入や生活保護などの制度が紹介されなければならないはずですが、市役所は無料・低額診療事業を実施している同病院の受診をすすめました。
 受診後、Aさんはがんの末期であることが判明し、入院することに。米田さんはAさんと相談し、生活保護申請の手続きをとりました。しかしAさんは後日、 「生命保険に入っているから、そのお金で医療費や借金を払いたい」と、申請を取り下げました。
 「生活保護のお世話になるのは申し訳ないと思っている人が多い。自分たちの権利と考える人はほとんどいません」と石川さんは話します。
 「以前、宮崎民医連で国保実態調査のアンケートをとったことがあるんです。そのなかで『生活保護の利用は考えたことがない』と言う方が約八割もいまし た。私たちは日常的に生活に困窮している方の相談を受けますが、生活保護をすすめると『親戚に少しずつ出しあってもらうので、大丈夫です』と言われたこと もあります」
 Aさんは「もっと仕事がしたかった」と言い残し、受診からわずか二週間で亡くなりました。

留め置きされていた保険証

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宮崎生協病院

 Bさん(50代・男性)は日雇い労働者で、家族三人暮らし。同病院に救急搬送される約三カ月前から呼吸苦などで体調が悪くなり、仕事ができなくなりました。
 収入も途絶え、派遣やパートで働く同居家族から生活費を援助してもらっていました。なんとか症状を抑えようと市販薬を飲んで耐えていましたが、搬送前には自力で起き上がれなくなるほどになっていました。
 それほどの症状があったにもかかわらず、受診しなかったのは「国保料を滞納していたため、市役所に保険証の交付を“留め置き”されていた」という理由があります。
 見るに見かねた家族が市役所に相談をしに行きますが、世帯収入が生活保護基準を上回っていたため、生活保護の申請はできませんでした。保険料の一部を家 族が支払い、短期保険証が発行されたのは、Bさんが救急搬送された当日のことでした。
 「Bさんは入院中も点滴の管を見つめながら、お金のことを気にしていました。でも、無低診の適用が決まってからは、とても安心されていた」と米田さん。 「この家族には正規雇用が一人もいません。これでは、満足な生活は難しい。保険料が払えないのも無理はありません」と、うつむきます。
 Bさんも入院して一カ月も経たず、がんの末期で亡くなりました。
 米田さんは「国民皆保険制度の徹底と雇用の充実なくしては、この問題は解決しません。そして私たちも、宮崎生協病院は“いつでも、だれでもがかかれる病 院”だと、もっとアピールしなければ」と、決意を込めて話しました。

救えたはずの“いのち”を二度と犠牲にしない

高すぎる保険料

 全日本民医連・岸本啓介事務局次長(国民運動部)は、「手遅れ事例は特別な地域で起こったことではなく、みなさんの身近なところで起こっている」と話します。
 「しかも今回の調査では、“四〇~六〇代の働き盛り”の世代の事例が八一%にも及んでいたのが特徴(図3)です。国保加入などの手続きをしていない無保険の方、短期保険証、資格証明書(表)の方が六七%もいた」と強調します(図4)
 多くの方が“無保険”になり、手遅れになるまで受診できなかった理由のひとつは、高すぎる国保料(税)にあります。国保は、国民の約三割が加入する最も 大きい医療保険。もともとは自営業者や低所得者向けの医療保険として始まりましたが、雇用状況の悪化とともに、無職・非正規雇用などの加入者が増えてきた という背景があります(図5)。国保は加入者の支払う保険料だけでは、成り立たない制度なのです。
 ところが政府は国庫負担を削減し、一九八四年に四九・八%だった負担を、二〇〇七年には二五%まで引き下げました。このため、保険料は平均一人あたり三 万九〇二〇円(一九八四年)だったものが、九万九〇八円(二〇〇九年)にまで跳ね上がっています。

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表 短期保険証、資格証明書とは

短期保険証
 国保料の滞納を理由として、通常1~2年程度の更新が、「3カ月」「1カ月」などの短期間の更新とされた保険証。

資格証明書
 国保被保険者の資格だけを証明したもので、病院・診療所の窓口ではいったん医療費の全額を支払わなければならない。保険料の滞納が1年以上に及ぶと保険 証の返還が求められ、同証明書が発行されることになっている。

“いのち”を救うために

 国保法四四条では、「経済的困難で医療費が払えない人は、窓口負担の減額・免除を受けられる」ことになっています。しかしこの制度を実施するには、各自 治体が条例をつくる必要がありますが、全国の自治体の約半数しか条例を設けていません。
 「条例があっても“保険料完納”などの厳しい条件の自治体が多い」と岸本さんは言います。「すべての自治体が、“本当に困った人たち”が利用できる保険料や窓口負担の減免条例をつくる必要がある」と指摘します。
 岸本さんは「今回の事例はいずれも社会的につくり出された早すぎる死です。これらの事例を繰り返してはならない。救えた可能性のある“いのち”を二度と 犠牲にしないような制度改善を、国に求めていく」と、力を込めました。

全日本民医連が緊急に国に要望すること

無保険者の実態調査と、すべての国民への保険証交付

短期保険証、資格証明書の発行中止。当面、国はすべての自治体に対して、機械的な短期保険証、資格証明書の発行や留め置きをおこなわないよう指導すること

医療費の窓口負担の軽減。当面、高齢者と子どもは無料に。国保法44条の積極的活用、無料・低額診療事業の積極的拡大(公的病院での実施、保険薬局への適用の拡大など)をおこなうこと、被災者の保険料減免と窓口負担支援を再開

国保料の引き上げを中止すること。誰もが払える保険料の実現へ向け、国庫負担を増やすこと。国保料上昇につながる広域化を中止し、市町村国保への財政援助の充実をはかること

丁寧な相談活動を実施するに十分な自治体職員の体制確保、民生委員や医療機関からの相談に応じる窓口の設置などを国の責任でおこなうこと

文・安井圭太記者/写真・豆塚 猛

 いつでも元気 2013.6 No.260