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いつでも元気

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“地域丸ごと健康づくり” 国際HPHネットワークに注目される民医連

 

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舟越光彦さん
全日本民医連保健予防・ヘルスプロモーション委員会副委員長/福岡・千鳥橋病院副院長、同病院HPH推進委員会委員長

 地域の健康づくりに貢献する「健康増進活動拠点病院」(HPH)の「HPH国際ネットワーク」。WHO(世界保健機構)が推奨するもので、世界で八九七施設(昨年八月現在)が加盟しています。
 日本では九病院が加盟していますが、いずれも民医連の病院です(二〇一二年一二月現在)。同ネットワーク事務局長のハンヌ・ターネセン医師(スウェーデ ン・ルンド大学、スコーネ大学病院教授)は、「民医連と共同組織の活動こそ、HPHのすばらしい実践例」とのメッセージを寄せています。
 HPHとは何か。日本のHPH第一号となった千鳥橋病院(福岡市)のHPH推進委員会委員長の舟越光彦医師(全日本民医連保健予防・ヘルスプロモーション委員会副委員長)に話を聞きました。

HPHとは

─HPHとは、どんな医療機関のことを指すのでしょうか。
 地域の中で、患者さんや住民の健康づくりをすすめる病院です。民医連の言葉で言えば、「地域丸ごと健康づくり」をすすめる病院ですね。
 国際HPHネットワーク誕生のきっかけになったのは、一九八六年にWHOが採択したオタワ憲章です。「ヘルスプロモーション」(健康増進)という理念を 掲げ、「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」だと定義しました。そして、このヘルスプロモーションを地域で実践する病院 (HPH)を世界に広げようと、国際ネットワークが一九九〇年に発足しました。
 千鳥橋病院も病院のリニューアルにあたり、「どのような医療を地域で実践するのか」と議論するなかでヘルスプロモーションに着目し、二〇〇八年に同ネットワークに加入しました。
 アジアの加入施設は中国の台湾がもっとも多く、シンガポール、タイ、韓国にもあります。ネットワークには病院だけでなく、診療所も加入できます。

「病気の構造」とともに変わる病院の役割

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千鳥橋病院が翻訳したHPH紹介日本語パンフレット

診察室で待っているだけでなく

─WHOがヘルスプロモーションを掲げた背景は。
 世界的に“病気の構造の変化と高齢化が進行してきた”ことにあります。二〇世紀前半までは結核など、感染症の治療が最大の課題でした。しかし第二次世界 大戦後、世界的に感染症が克服され、かわりに脳卒中・心不全の原因となる高血圧・糖尿病などの慢性疾患や、がんなどが治療の中心になりました。そのため病 気や障害を持ちながら暮らす人が増え、医療機関に求められる役割も変わってきたのです。
 病院の中心的な役割は治療ですが、診察室で待っているだけでなく、その患者さんが家に帰ってからも地域で健康に暮らしていけるように支援する役割が求め られるようになった。これがヘルスプロモーションやHPHが提唱された大きな理由です。

 

活動の3本柱

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昨年9月にはターネセン事務局長を日本に招いてセミナーを開催(民医連主催。中央奥がターネセンさん。写真=編集部)

─HPHの活動は。
 人が健康に生きる上で、環境を変えることが大事だという観点から、大きく分けて三つの活動をおこなっています。
 第一に、患者さんが自ら健康に生きていけるように支援することです。たとえば、入院した患者さん全員に禁煙を指導する。そして入院で病気もよくなって、 たばこもやめることができたら、一石二鳥です。たばこはがん以外にも、動脈硬化や呼吸器の病気など、様ざまな点で健康に悪いとわかっていますから。
 また、手術前に短期間たばこをやめるだけでも、術後に細菌感染などの合併症が起こる可能性が下がるという調査報告があります(図1)。運動や禁酒などの支援も、手術後の合併症の発症率を抑えたり、回復までの日数を短くする効果があるそうです(同図)。手術とヘルスプロモーションを組み合わせることで、大きな成果を得られるということですね。外来での禁煙指導なども、ヘルスプロモーション活動と言えます。

地域で果たす役割見つめ直して

図1 手術にヘルスプロモーションをとり入れると
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 第二に、地域での活動です。企業では過重労働をなくしたり、働きやすい職場づくりをすすめる。学校は、勉強だけでなく、健康に関する教育もおこなう。そして私たち医療機関も企業や学校などと連携しながら健康診断・健康相談などを実施し、健康な地域づくりをすすめる。
 地域住民と協力して「健康に安心して住み続けたい」という願いに応えることもHPH活動です。私たち民医連・共同組織がとりくんでいる健康班会やウオー キング、仲間づくり、街並みチェックなども、HPH活動そのものと考えることができます。この点が国際HPHネットワークから「HPHのすばらしい実践 例」だと注目されている点です。

 第三に、病院の職員自身も健康に働ける環境づくりをすすめることです。体への負担を軽減する工夫を取り入れたり、メンタルヘルス対策などにとりくむこともHPH活動と言えます。

マンションの自治会などと協力

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千鳥橋病院に掲げられている方針・理念

─千鳥橋病院では、どんなことをとりくんできましたか。
 国際HPHネットワークの加入要件のなかに「HPH推進の担当者を決める」という要件があります。そこで当院もHPH推進委員会を発足させました。
 また、同ネットワークには、それぞれの病院が自己点検する「自己評価マニュアル」があります。このマニュアルに「病院の理念・方針にHPHを取り入れ る」という項目があり、これも実行しました。この理念・方針は患者さんにも共有してもらえるように、院内に掲示しています。
 地域との関係では、近隣のある大規模マンションの管理組合や自治会などと協力しながら、アンケート調査、健康チェック、健康相談会、安否確認などにとり くんできました。このマンションでは高齢化がすすんでいて、過去に四回の孤独死があったそうです。管理組合の理事長は「健康で長く住み続けたい。孤独死を なくしたい」との思いで、当院とともに活動されています。

職員の腰痛軽減の実践も

 健康に働ける職場づくりという点では「各職場でヘルスプロモーションを実践しよう」ととりくん でいます。病棟の看護現場では、入院患者さんを持ち上げる動作が腰痛の大きな原因になっていました。そこで滋賀医科大学と協力して、二〇一一年度から 「ノーリフト」にとりくんでいます。「スライディングシート」というものを活用して患者さんを持ち上げるのではなく、すべらせるようにした。このことによ り三病棟で看護師の腰痛が軽くなったとの成果が上がっています。
 国際HPHネットワークが毎年開催する「国際カンファレンス」にも参加しています。これは研究発表や実践例の交流を目的にしたもので、二〇一〇年はイギ リス、二〇一一年はフィンランド、昨年は中国(台湾)でおこなわれました。
 台湾でのカンファレンスでは、病院のなかにウオーキングコースがあって、病院のなかでも運動ができるように工夫している例が紹介されました。イギリスの ときには、日本の医療制度について質問されました。先進国の日本で医療費の自己負担が高いことに驚いたようでした。

健康権守るネットワークを

図2 世界に広がるHPH加入施設
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─今後の抱負は。
 私自身、HPH国際ネットワークに加入して大きかったことは、自らの病院や地域を見つめる視野が広がったことでした。他国・他施設の実践例を学び、ヘル スプロモーション活動の世界標準を学ぶなかで、やれることは多いし、やろうと思えば、課題は無尽蔵にあると感じています。
 今、欧州連合(EU)では貧困から生じる健康格差をなくそうとのとりくみが強まっています。千鳥橋病院の周辺地域(千代地域)も貧困層が多く、生活保護 受給率も一〇%を大きく超えています。貧困世帯では喫煙や飲酒などへの依存率が高く、家庭内暴力、子どもへの虐待、一〇代の妊娠なども多いと言われていま す。ですから地域住民や学校、企業、他の病院とのネットワークをつくって、地域の健康づくりをすすめていく必要があると思います。貧困地域にあえて建設し た病院ですから、経済的に困窮している人には無料・低額診療事業や社会制度も使って支援していきたい。
 そしてヘルスプロモーション活動の成果を数字で明らかにするとりくみを強めたいと思っています。禁煙指導も「禁煙しなさい」というだけでは不十分で、実際に患者さんをその気にさせ、成果を上げることが重要です。
 デンマークの例ですが、喫煙者や大量のアルコールを飲む救急患者に看護師が禁煙・禁酒支援をした場合、通常の看護師の場合は一〇〇人中四七人しか受け入 れられなかったのに対し、訓練された看護師の場合は一〇〇人中九七人が支援を受け入れたそうです。当院としてもどうすればヘルスプロモーションがすすむの か探求していき、国際ネットワークが提唱しているPDCAサイクル()も開発していきたいと思います。
 HPH加入施設も増やし、交流を深めたい。HPHには民医連以外の医療機関にも入ってほしいし、まだ民医連でも加入していない事業所はたくさんあります から。福岡市内でも、中国・韓国などにも加入施設を広げたいと思います。

共同組織とともに

 全日本民医連は昨年の総会で、国民の「健康権」を守る実践にとりくもうと方針に掲げました。住民のみなさんとともに地域のつながりを強め、健康に暮らし ていけるような「安心して住み続けられるまちづくり」の実践を共同組織のみなさんとともに、さらに強めていきたいと思います。
写真・若橋一三


【注】plan(計画)→do(実行)→check(点検)→act(改善)のサイクル

いつでも元気 2013.2 No.256