特集2 腎臓病・腎不全 早期発見から治療まで
健康診断で定期的に尿蛋白チェックを
鈴木 創 東京・立川相互病院 (腎臓内科) |
腎臓病と聞いて、どんな病気を思い浮かべますか。多くの人が思い浮かべるのは、腎臓の機能が低下し、やがて働きが失われ(腎不全)、透析が必要になるような病気のことではないでしょうか。
ここでは、進行すると腎不全に至るような腎臓の病気を中心にお話したいと思います。
腎臓とは
腎臓は、体の中の下水処理工場にたとえることができます。いらなくなった老廃物、過剰に摂取し た水分やミネラル分を尿として体外に処分し、一方で必要なもの・まだ使うものは体内にしっかり保持します。そのほかにも貧血を改善するホルモン(エリスロ ポエチン)を作るなど、体内のバランスを保つためにさまざまな役割を果たしています。
腎臓の主な仕事は、毛細血管が糸玉のように丸まってできている糸球体が担っています。この糸球体では、血液から尿のもと(原尿・1日あたり180リットルできると言われている)が作られます。
その後、原尿は尿細管と呼ばれる管の中を流れながら、濃縮され、必要な物質は体内にとりこまれていき、最終的には500~2000ミリリットルほどの尿 が一日に排泄されます。この処理のために、心臓から送り出される血液の20~25%が腎臓に流れ込みます。腎臓はかなり血のめぐりのいい臓器です。
糸球体にはじまり集合管に終わる尿生成のしくみを「ネフロン」と呼びます。人間はこのネフロンを左右あわせて200万個ほど持っています(図1)。
腎臓病の特徴
「おしっこを出す」には、腎臓以外にも、膀胱や尿管など、できた尿を運ぶ臓器が活躍する必要が あります。実は「尿がすっきり出ない」「尿が近い」などといった、ふだん、みなさんが出会う「おしっこのトラブル」は、膀胱や尿管、前立腺などに問題があ ることが多く、腎臓の機能が低下しても、症状が出ないことは珍しくありません。「症状が早期に出にくい」ことが、腎臓病の特徴のひとつといえます。
機能低下をしめすサイン
腎臓の機能が低下していることを示すサインでもっともわかりやすいのは、尿に蛋白が混じることです。繰り返し検査しても尿蛋白の陽性が続く場合、何らかの腎臓病の可能性が高いと考えます。
実際にどのくらい腎臓の機能が落ちているかを量るには、血液中のクレアチニンの値を調べます。ただし、注意しなければならないのは、クレアチニンは腎臓から捨てられるべき
ゴミのたまり具合をみる数値であり、異常が出たときには、すでに腎機能が正常の半分から3分の1程度にまで落ちている、ということです。
腎臓から尿の出口までのどこかに傷がついている場合は血尿をしめし、尿に蛋白が混じる場合は腎臓そのものに原因があることが多いと言われます。そのた め、健康診断で尿に異常があると指摘されたときは、「血尿だけなら泌尿器科へ、蛋白尿があるならば腎臓内科へ」と覚えておくといいでしょう。ただし、腎炎 では多くが蛋白尿を呈しますが、腎硬化症などいくつかの腎臓の病気では尿蛋白も出ないまま腎機能が低下します。
血縁関係のある人に腎不全や人工透析を受けている方がいらっしゃる場合には、腎臓病のリスクが高いと考えたほうがいいでしょう。遺伝性の病気による腎不 全もありますし、高血圧や糖尿病も腎臓を傷める病気です。症状が出る前に健康診断を受ける、減塩食を心がける、禁煙するなど、一般的に推奨される生活習慣 の改善をおこなうとよいでしょう。
腎炎
腎臓病の代表的なものに腎炎があります。腎炎はさらに発症の経過から急性腎炎・急速進行性腎炎などにわけられます。
急性腎炎は、急に血尿・蛋白尿・体のむくみをともなって発症するもので、有名なものに溶連菌感染症後糸球体腎炎があります。これは子どもに時々見られる もので、溶連菌感染症によって扁桃腺が腫れた後、数週間経ってから発症します。
急速進行性腎炎はもう少し長く、数カ月のうちに腎機能が急速に悪化していくことからこう呼ばれています。しばしば膠原病(複数の臓器が機能障害を起こ す)や血管炎(血管が炎症を起こす)が原因となって起こる病気で、ごくまれに肺出血を起こして命に関わることがあり、危険です。
腎炎のなかでもっとも多いのが慢性腎炎です。これは、症状がないまま、ゆっくり進行します。免疫物質が糸球体に沈着して起こるIgA腎症や、糸球体が少 しずつ潰れていく巣状糸球体硬化症などがあり、進行を止める手だてが確立していません。
そのほか、腎臓病として「ネフローゼ症候群」も有名です。この病名は原因を問わず、多量に蛋白尿が出てむくみが出る病気全体を指します。そのため「腎炎 によるネフローゼ」などと呼び分けており、原因によって治療法が違ってきます。最終的には「腎生検」と呼ばれる腎臓の組織を採取して調べる検査をおこなっ て診断します。
腎炎以外の病気
腎臓病はその原因から、腎臓に原因がある病気(腎炎)と、他の病気が腎臓にも障害をあたえている病気(二次性腎疾患)とに分けられます。
現在、二次性腎疾患として多いのは、高血糖によって腎臓が傷む「糖尿病性腎症」で、つづいて腎臓の血管の動脈硬化である「腎硬化症」です。いずれも腎臓 の動脈硬化がすすんで腎臓のはたらきが低下していくものです。その他にも免疫の病気である膠原病(SLE・強皮症など)に伴うものや血管炎に伴うもの、薬 剤によるものがあります。
また、原因を問わず、慢性的に進行する腎臓病を総称して、慢性腎臓病(CKD)と呼んでいます。早期診断に役立つように、血清のクレアチニン値と年齢から腎機能(GFR)を推定する式が発表されています(図2)。ただしこの推算GFR値は体格の差が反映されず、また実際にGFRを精密測定した値との誤差があることが指摘されています。おおよその目安として参考にするのがよいでしょう。
予防と症状別の対応
現在の日本では、糖尿病や高血圧・動脈硬化などに伴って腎機能が低下する患者さんの方が多くなっています。また、腎炎の患者は比較的若年からみられますが、二次性腎疾患は中高年が多く、年齢によって気をつけるべきことは変化してきます。
特に指摘されている病気がない方は、健康診断をうけて、新しく発症する病気がないかを調べることが重要になります。健康診断で尿検査がおこなわれないこ ともあるようですが、腎臓病の早期発見には尿検査が重要です。健診ではぜひ尿検査も受けましょう。
もともとの病気が指摘されている方は、まずその病気をきちんと治療しましょう。血圧管理や血糖管理を厳格におこなうことで、腎臓の機能が低下させないようにします。
腎臓の機能が低下してきている方は、まず原因となっている病気をはっきりさせることが大事になります。腎臓のエコーやCT・採血・採尿などで、原因疾患 の種類や進み具合を判定します。腎生検がもっともしっかりした検査になります。
治療について
腎炎は何らかの免疫的な異常によって起きていると考えられており、治療はステロイド剤がよく用 いられます。最近では、IgA腎症の発症原因に扁桃腺炎が関与しているという説が唱えられており、扁桃摘出手術とあわせてステロイド剤を投与するという治 療法が提唱されています。いずれにせよ時間をかけての対応が必要になる病気です。
二次性の腎疾患では大元の病気への治療が重要です。高血圧や糖尿病が原因であれば薬や食事療法が中心になりますし、膠原病などが原因であればそちらを抑えるためにステロイドや免疫抑制剤が使われます。
しっかりした診断が正しい治療のうえで重要です。
増え続ける透析療法
腎臓機能が低下した結果、体内に老廃物がたまり、機能が維持できなくなった状態(尿毒症)に陥った場合には、腎代替療法によって腎臓の働きを肩代わりしてもらい、体を維持することになります。CKDステージでは5に相当します。
腎代替療法には、機械を使って血液中の老廃物をとりのぞく血液透析と、腹部の内臓を覆っている膜(腹膜)を利用する腹膜透析の二つの透析療法と、腎移植 があります。現在、日本で透析の導入がもっとも多いのは糖尿病による腎不全で、人口の高齢化に伴って腎硬化症による透析導入も増えています(図3)。
腎炎による透析導入は少しずつ減っていますが、全体としては定期的な透析を必要とする患者は増え続けており、年齢構成では高齢化が進んでいます。
腎代替療法には多額の医療費を要し、患者さんにとっても通院や食事療法・服薬など大きな負担がかかります。腎臓病の早期発見・進行抑制は大きな課題です。
食事について
腎機能の低下を少しでも遅らせることを目標とする段階では、(1)高血圧や高脂血症・糖尿病をきちんと管理するために薬を服用する、(2)腎臓に負荷をかけないよう、腎臓が捨てなければならないものの摂取を控えて、腎臓の仕事を軽くする、この2点が求められます。
食事療法としては塩分・蛋白制限が必要になります。ただし、一般的な食事は肉や魚といった蛋白質が主菜になることが多く、蛋白を控えるメニューを組み立 てると、炭水化物・油脂などの全体が減っていく傾向があるようです。けれども、蛋白制限はカロリーの維持と同時におこなわないと、かえって体力が落ちる原 因になることがあるので、注意が必要です。
腎不全・透析患者さんの食事についてひとことで説明する時、私は「ご飯は大盛り、主菜は少しで塩分は控えて」と説明しています。
これを守りながら毎日のメニューに変化をつけることは非常に難しいことです。具体的な注意点は、病状によって違いますので、適切でバランスのいい食事を継続するため、医師・管理栄養士に相談するとよいでしょう。
継続は力なり
腎臓病治療の難しさは、薬の服用だけではなく、食事や生活習慣への制限があることです。これらに意識的にとりくまないと、よい治療をするのが難しい病気です。
自分の体の状態・食事や生活に対して意識を高くとりくむこと、できることを探しながら治療を続けていくことが重要です。医療機関の力を借りて、「継続は力なり」の療養を心がけましょう。
イラスト・井上ひいろ
いつでも元気 2012.8 No.250