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いつでも元気

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特集1 トンデモ判決に負けない! 手をつないで生存権守ろう

 七〇歳以上に支給されていた生活保護の老齢加算廃止(二〇〇六年)は「生存権の侵害」だとして、青森、秋田、東京、京都、福岡な ど九つの地域で原告団が結成され、老齢加算復活を求めた「生存権裁判」がたたかわれています。たたかっているのは、老齢加算を廃止された高齢者たちです。
 ことし二月には、「生存権裁判」に対する初めての最高裁判決が、東京原告団に言い渡されました。判決は“一般高齢世帯のもっとも低い所得層に比べれば、 生活保護世帯の受給額は低くない”とした国の言い分を追認し、原告らの訴えを退けた不当なものでした。

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「黙っていたら庶民の生活はどんどん切り下げられる」と語る松島さん(写真=若橋一三)

  「これが憲法二五条で定める『健康で文化的な生活』と言えるんか? 最高裁に問いたい」。ことし八七歳になる松島松太郎さん(京都・山科健康友の会)は、 きぜんとした口調で語ります。松島さんは、京都原告団のひとりです。
 主に建設現場で働いてきた松島さん。七〇歳まで働き続けましたが、体調を崩して入院。職場の寮を追い出され、生活保護を受けることになりました。厚生年 金保険料を一〇年ほど納めていましたが、不安定な期間労働で保険料を納められないことも多く、年金が給付される要件(二五年間の保険料納付)を満たしてい ませんでした。
 生活保護を受給し、アパートの二階になんとか落ち着いたものの、生活は質素そのもの。家具はほとんどなく、食事は自炊しながら節約し、八〇〇〇円で買った背広を何年も着古しました。
 お酒も飲まない松島さんのささやかな楽しみは、五〇〇円玉を少しずつ貯めて年に一~二回出かける小旅行。たまに出かける映画や芝居、コンサートも楽しみでした。
 ところが、老齢加算廃止後は給付が二割削られ、受給額は月七万円ほどに。 「食費は一日六〇〇~七〇〇円で、肌着も二~三年買っていない」と松島さん。 趣味を楽しむ余裕はほとんどありません。「ぜいたくをしたいわけやない。でも老齢加算廃止で、ほとんど食べて寝るだけしかできなくなってしまった。こんな 生活が、『健康で文化的』と言えるんか」と、悔しさをにじませます。

「親友のお葬式に行けない」

genki249_02_02 「ほかの原告からも『香典をつつめなくて、大親友のお葬式に行けなかった』『自治会費を払えないため、近所づきあいもできず、小さくなって暮らしている』という声が寄せられています」
 こう話すのは、「生存権裁判を支援する全国連絡会」の前田美津恵事務局長。「なかには『電気代が払えないから』とクーラーをつけずにがまんし、熱中症で倒れて救急搬送された原告の方もいます」と。
 老齢加算廃止後の厳しい生活実態は、全日本民医連ソーシャルワーカー委員会の調査(「生活保護受給者老齢加算廃止後の生活実態調査報告」二〇〇八年発 表)でも裏付けられています。「一日三食の食事がとれない」生活を送る世帯が二割を超え、衣類や靴などを「この一年まったく購入していない」世帯も四割を 超えました。
 さらに、六割の世帯が「教養・娯楽費〇円」で、冠婚葬祭の案内が来ても「まったく出席しない」世帯が半数を超えるなど、驚くような結果。「水を飲んで空 腹をしのぐ」「風呂はお湯の量を減らし、三~四日に一度しか入らない」「もらった服を直して着ている」「交際費が出せないので、つきあいを減らした」など の生活実態が浮き彫りになりました。
 「高齢者は身体が衰えるため、消化吸収がよく栄養に富んだ食品が必要だし、お墓参りや親戚づきあいなど、社会的な費用も多く必要です。だから老齢加算は四〇年以上その意義が認められ、支給されてきたのです」と前田さん。

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「結論先にありき」 の判決

 東京弁護団の黒岩哲彦弁護士も、「最高裁判決は結論先にありきで、事実認定も法的論理もめちゃくちゃ」と憤ります。
 「高齢者から一番低い所得層を抜き出して、生活保護世帯と比較すること自体が大問題。本来、裁判所は生活実態から見て、生存権侵害にあたるかどうかを判 断すべきでした。最高裁はそうした事実認定を避け、憲法二五条から見てどうかという正面からの判断を避けた」と黒岩弁護士は批判します。
 「しかも『生活保護世帯のほうが収入が多い』という厚労省データは、われわれが要求したにもかかわらず、根拠となる資料を示せなかったもので、正確かど うかも疑わしいものです」と黒岩弁護士。「生活保護基準以下で暮らさざるをえない低年金や無年金の方々がいることこそ問題で、そうした現状を改善すること が求められている」と強調します。

狙われる生保改悪

  国は生活保護制度のさらなる改悪を検討しています(次頁・表)。「不正受給防止」の名のもとに、福祉事務所に警察官OBを配置するのもその一つです。
 しかし、「不正受給が増えているという主張には根拠がない」と前出の前田さんは指摘します。「不正受給は支給額全体の〇・三~〇・四% で推移しており、ほとんど変わっていません。不正受給を防止するというなら、ケースワーカーを増やしてきめ細やかに相談に応じて生活実態をつかみ、受給者 を見守る体制を厚くしたほうがよっぽど効果があります」と前田さん。
 受給者に医療費の窓口負担を求めたり、職業訓練受講を強制する制度改悪も問題です。吉永純・花園大学教授によると、生活保護開始理由の三~四割が「病 気」で、受給者全体の八割が医療扶助を利用しています。受給者を医療から遠ざけることは、症状を悪化させて国の言う“自立”からも遠ざけることになりま す。
 さらに、「受給世帯の四分の三は、そもそも働けない高齢者と傷病・障害者の世帯。残り四分の一の世帯も、五〇歳以上の中高年が多くを占めます。『働きた いのに雇ってもらえない』という方がほとんどです。『就業意欲』や『職業訓練』の問題ではないのです」と前田さん。「安定した雇用を確保せず、貧困の拡大 を放置したのは政治の責任。低年金・無年金の問題も放置されたままです。失業給付が充分でなく、失業が生活困窮に直結する社会のありようも変えていかなけ れば。政治の怠慢を棚に上げて、医療保障や生活保護の受給を抑え込もうと躍起になるのは間違いです」。

■生活保護の給付抑制と追い出しが常に狙われている!
表:検討されている制度改悪
○受給期間に期限をもうけ、就労支援受講やボランティア活動を強制
○受診できる医療機関を限定し、医療費負担と後発医薬品利用を押しつける
○福祉事務所に警察官OBを配置して威嚇(一部自治体ですでに実施)
○受給者本人以外の親族の資産調査を強化

国民生活にも密接なかかわり

 生活保護基準は、全国民の生活にも密接なかかわりがあります。労働者に最低限支払わなければな らない賃金の下限(地域別最低賃金)は、「生活保護に係る施策との整合性に配慮」して決められることになっています(最低賃金法第九条)。また、生活保護 基準は最低生活費(生計費)の目安であり、「生計費非課税」の原則から課税基準を決めるものさしにもなります。
 義務教育の就学援助の支給や国保料・介護保険料の減免なども、生活保護基準をもとに認定されています。
 「黙っていたら庶民の生活はどんどん切り下げられる。微力でも私は、その歯止めになりたい」と前出の松島さん。

社会保障充実のために

genki249_02_04 当初、生活保護の母子加算を廃止された母親たちも、「生存権裁判」の原告に加わり、たたかっていました。「その母子加算は、二〇〇九年に復活させることができました。その後も生活保護本体の切り下げを許していません。これらは運動の力です」と前田さん。
 「東京訴訟は敗訴しましたが、残る八つの原告団の訴訟が、続々と最高裁に上がってくるでしょう。そのときには必ず勝利したい。世論に訴え、生活保護基準引き上げや社会保障全体の充実に結実した朝日訴訟のようなたたかいにしていきたい」と力を込めました。
文・武田力記者

 

いつでも元気 2012.7 No.249