Dr.小池の世直し奮戦記 いのち奪う大増税はね返そう 消費税増税は経済も財政も社会保障も壊す
「ムダを削れば財源は出てくる。消費税は増税しない」はずだったのではないのか。民主党政権が衆議院選挙(二〇〇九年)で掲げた公約を投げ捨て、大増税の道をひた走っています。二〇一四年に消費税八%、二〇一五年に一〇%にする法案が三月三〇日、閣議決定されました。
消費税増税はやむを得ないのか。民医連出身の医師・小池晃さん(日本共産党前参議院議員)に聞きました。
─政府は消費税増税へまっしぐらですね。
野田首相は消費税増税に「命をかける」と息巻いています。ならば私たちは、「増税反対」の一点での共同を広げて野田内閣に迫り、「増税法案が民主党政権 の命取りになった」と言われるような運動を巻き起こそうではありませんか。
消費税増税をストップする展望は十分あります。民主党政権は公約をあっさり破り、噴出する与党内の反対意見も押さえつけて増税法案を押し通そうとしてい ます。これを見て「どうなってるんだ」「庶民にばかり痛みを押しつけるな」という怒りが国民の中に急速に広がっています。
私も先日、JR新宿駅頭で「消費税増税を許すな」と訴えましたが、三〇分間で七〇筆の増税反対署名が集まりました。若い人も次々と署名してくださいました。
もちろん、社会保障財源や国家財政の将来を心配している人は、増税賛成の人にも反対の人にも多い。でも、これだけは、はっきり言っておきたい。消費税を増税したら、税収は減ります。社会保障の財源も出てきません。
─なぜ税収が減るのでしょうか。
国民のくらしを直撃し、景気をいっそう冷え込ませるからです。労働者の賃金が減り続け、中小企業が不況にあえぐときに消費税増税なんて愚の骨頂です。
消費税が三%だった一九九六年には国と地方合わせて九〇・三兆円の税収がありました(図1)。 ところが二〇一〇年度は消費税五%なのに、税収は七六・二兆円に減りました。富裕層・大企業向けの減税の影響もありますが、何と言っても一九九七年の消費 税増税など約九兆円の国民負担増が経済を直撃した結果、所得税や法人税が減ったからです。消費支出も今日まで一度も回復していません(図2)。
増税で減った税収
一九九七年の負担増が経済を直撃したと言っているのは私だけではありません。二〇〇五年の国会 (衆議院財務金融委員会。二月二八日)で、こんな質問をした人がいます。この方の事務所は千葉県船橋市の五階建てビルの三階にあったようなのですが「一階 の布団屋はつぶれ、二階のマッサージ屋は夜逃げ」し「四階、五階もみんな倒産」。イギリス「タイムズ」誌掲載の論文から「橋本政権によっておこなわれた増 税政策は、もっとも無意味で、もっとも愚かで、破壊的な経済政策と言われることになろう」という部分まで引用して「国民経済にあたえた影響を含めると、そ れぐらいきびしい総括が必要だ」と追及しました。発言の主は野田佳彦さん(現首相)、追及されたのは当時の谷垣禎一財務相(現自民党総裁)です。
─それなのに今、消費税の増税を?
今や民主も自民も消費税一〇%で一致し、「もっと増やせ」とまで言っています。しかも「社会保障と税の一体改革」で社会保障は悪くなる。消費税増税で年 間一三兆円、年金額削減や年金・医療などの保険料値上げによる負担増を加えると年間二〇兆円の大負担増。社会保障改悪の上、消費税増税なんて言語道断で す。
税の改革と経済活性化の2本柱で
─消費税増税にかわる財源はどうやって。
二本柱の改革が必要です。まず税金の取り方(歳入)と使い方(歳出)の改革。もうひとつは国民の収入を増やし、経済を成長させる改革。経済低迷が税収減 の大きな要因ですから、消費が落ち込み中小企業が次々倒産するもとで税金の数字あわせだけやっても財源は出てこない。
図3は、日本の国内総生産(GDP)に対して借金が突出して増えているグラフです。日本政府が財政危機を強調するときに持ち出すグラフはこれです。
しかし借金増は他の国も同じで、日本が突出しているわけではない(図4)。こうなる理由は、日本だけGDPが伸びていないからです(図5)。巨額の借金は重大ですが、歴史上、国の借金を返しきった国なんて存在しません。借金が国の経済力にくらべて大きくなりすぎないようにおさえていく。ここが大事です。
労働者の雇用が保障され、賃金が増え、中小企業の利益も伸び、農漁業・林業も生業として成り立つようにする。そうしてこそ日本経済が元気になり、財政危 機打開の展望も開けます。日本共産党はこの二本柱の改革を同時にすすめる提言を今年二月発表しました(「社会保障充実、財政危機打開の提言」)。
─歳出・歳入面では、どんな改革を。
歳出面ではムダの一掃です。民主党はあれだけ大騒ぎで「事業仕分け」をやったのに成果がなかった。軍事費や米軍への「思いやり予算」、政党助成金など、 始めから仕分けの対象外になっている聖域がいたるところにあったからです。
民主党政権は八ッ場ダムなどの大型開発も次々と復活させた。こうしたムダと浪費に切りこまなければ。
富裕層に相応の負担を
歳入面では富裕層に相応の負担を求めましょう。日本では年間所得が一億円を超えると逆に税負担率は低くなっています(図6)。富裕層ほど、株の配当などで大半の収入を得ているからです。株の配当や売買で得た収入には住民税・所得税を合わせても一〇%しかかからない。欧米並みの三〇%にするのは当然です。
所得税・住民税は六五%(一九九八年)、相続税は七〇%(二〇〇二年)の最高税率に戻すべきです。
─半分以上税金で持っていかれるのは、大きな負担になりませんか。
最高税率は所得にまるごとかかるのではありません。九八年までの税制では、所得税だと課税所得三三〇万円までの部分に一〇%、九〇〇万円まで二〇%、一 八〇〇万円まで三〇%、三〇〇〇万円まで四〇%と、とられる税金も階段状になっています。六五%が課税されていたのは、三〇〇〇万円を超える所得の部分だ けで、対象者は千人に一人です。
相続税が最高税率の七〇%かかっていた人というのは相続人一人あたり二〇億円以上の遺産を相続する人です。日本ではほんのひとにぎりの“スーパーリッ チ”にゆきすぎた減税をしています。ここを見直すことで大きな財源をつくれるのです。
大企業向けの減税も正す
大企業向けの行き過ぎた減税も正す必要があります。法人実効税率は約四〇%ですが、大企業ほど 負担は軽減されている。研究開発減税(減税されている九割以上が資本金一〇億円以上の大企業)など、適用されるのはほとんど大企業という減税制度がいくつ もあるからです。ソニーは一三・三%、日本経団連・米倉弘昌会長の住友化学も一七・二%しか払っていない(表1)。こういう企業にきちんと四〇%の税金を納めてもらわなければ。
─増税で海外に企業が逃げる心配は?
経済産業省のアンケートでは海外投資の際のポイントについて約七割の企業が「需要」と答えています(表2)。「税制、融資等の優遇措置」は約一割だけ。その国の経済が元気で物がよく売れると思うから、投資を決めるんです。逆に消費税を増税したら需要が落ち込み、企業がますます海外に逃げかねません。
法人税も企業を呼び込むために各国で下げられてきましたが、経済協力開発機構(OECD)は「法人税引き下げ競争は有害」と警告しています。その国の税 収に穴をあけてしまいますから。国際協調で法人税を引き上げることも必要です。
内部留保を労働者にまわして
─日本経済はどうすれば元気に?
大企業(資本金一〇億円以上)がためこんだ約二六〇兆円の内部留保を労働者にまわすことです。労働運動総合研究所は内部留保の約七%を賃金にまわすだけで、四六六万人の新規雇用が生まれると試算しています。
もうひとつは構造改革で破壊された社会保障の再生です。「提言」では当面、医療費の窓口負担を国保も健保も「現役」二割、高齢者一割にし、国保料も一人 一万円下げることを掲げました。そして年金も受給資格を保険料納入二五年から一〇年に短縮し、受給額が目減りしていく制度をやめ、低年金を底上げして、特 別養護老人ホームの待機者もなくすなどの「社会保障再生計画」を提案しています。社会保障分野の充実は、国民の負担軽減や将来不安解消につながり、これら の分野での雇用を増やすことにもなって、さらなる経済効果が見込めます。
─医療費の窓口負担無料(または低額)などは実現できるのでしょうか。
「提言」ではその次の段階として医療費窓口負担や介護保険利用料を無料にし、「最低保障年金制度」を創設して、先進国並みの社会保障制度を実現することを掲げました。高校や大学の授業料も無償化を実現します。
そのような抜本的な改革をおこなう場合の財源は大企業の負担だけではつくれませんから、国民全体で負担する必要が生まれるでしょう。もちろん、そのとき も消費税ではなく、「能力に応じた負担」の原則をつらぬき、所得税の累進課税強化で財源をつくる。その前提としても、労働者の賃金や中小企業の仕事が増え る経済改革が必要です。
増税反対の1点で共同広げて
4月12日におこなわれた消費税反対集会には5000人を超える人々が集まり、会場の外まで人があふれていた(日比谷野外大音楽堂で) |
─最後に、読者にメッセージを。
今年一月、札幌市で四〇代の姉妹が自宅で“孤立死”しました。お姉さんは体調不良で働けないと訴えたのに福祉事務所は三度も追い返した。お姉さんが先に 亡くなり、知的障害のある妹さんは「迷惑がかかるから外出するな」という姉の言いつけを守ったのか、そのまま亡くなりました。遺された携帯電話には 「111…」という履歴があった。かけたかったのは110番だったのか、119番だったのか。「助けてほしい」と必死だったに違いありません。
二〇〇七年にも北九州市で生活保護を切られた男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死しました。最後に買ったおにぎりにも消費税がかかっていました。
こうした人たちにとって重くつらい税金が消費税です。その苦しみをよくご存じなのが民医連や共同組織のみなさんだと思います。
消費税増税反対の一点で共同が広がれば増税は止められます。「提言」は自信を持って消費税増税反対だと言っていただくためにつくりました。「命を奪う増 税はやめよ」と声をあげ、ごいっしょに消費税増税法案を廃案に追い込みましょう。
聞き手・多田重正記者/写真・五味明憲
いつでも元気 2012.6 No.248