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いつでも元気

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特集2 意外に多い肝臓がん 肝臓の病気を早くみつけて治療することが重要

症状なくても必ず検診結果の確認を

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高木万起子
愛知 名南病院 医師
(内科)

 肝臓は「沈黙の臓器」と言われます。食べ物が直接通過する臓器ではないこと、再生能力が高いこと、病気にかかっても症状があらわれにくいことから、こう呼ばれるようです。
 ところが、2010年に厚生労働省が出した「人口動態統計」によると、年間3万人前後が肝臓がんで死亡しています。これはがんによる死亡者数でみると、肺がん、胃がん、大腸がんに次ぐ多さです。
 実は、肝臓がんはもともと肝臓に慢性の病気(慢性肝疾患、主に慢性肝炎)を抱えている人がかかりやすい特徴があります。よく「たばこを吸う人は肺がんに なりやすいから」と、禁煙を勧められますね。同じように、肝臓がんと慢性肝疾患は強い因果関係があります。肝臓がんの予防のためには、肝臓の病気を早くみ つけて治療することが重要です。

図1 部位別がん死亡数(2009年)
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肝臓の病気とは

 では肝臓の病気とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
 お酒が肝臓を悪くするのは有名ですね。外来診療でも、お酒好きな患者さんから「健康診断でγ(ガンマ)─GTPが高いと言われた」との話をよく聞きま す。お酒を飲みすぎると肝臓のはたらき悪くなり、血液中のγ(ガンマ)─GTPの数値が高くなるのです。
 実は、γ(ガンマ)─GTPが高くなる原因には、お酒以外にもさまざまあります。ウイルス感染、薬の副作用、免疫異常、さらにはメタボリック症候群などです。さらに、急性か慢性かでも区別されます。
 肝臓の障害の程度でも分類され、一般的に肝炎(肝障害)、肝硬変、肝不全の順に進行し、重くなります。

しっかり管理したい肝硬変

 肝硬変や肝不全などの肝臓の病気が進行した状態では注意が必要です。肝硬変になると肝臓がんになる確率がさらに高くなりますし、肝不全は文字通りそのはたらきを失った生命の危険がある状態だからです。
 慢性の肝疾患が進行して起こる肝硬変は、肝臓がんの発生や肝不全(肝臓がそのはたらきを失った状態)を引き起こしやすくなります。本来、肝臓へ流れてい くはずの血液もとどこおるため、食道や胃に静脈瘤ができやすくなり、破裂すると大出血するおそれがあります。
 肝硬変の原因はさまざまです。西洋では飲酒により肝硬変に至ることが多く、日本ではウイルス性肝炎が肝硬変になる原因の約8割を占めています。しかし原 因が判明すれば、肝臓の炎症を抑え、肝硬変に進むのを防ぐ治療ができます。その結果、がんを防ぐこともできるのです。

日本に多いウイルス性肝炎

 ウイルスが原因でおこるウイルス性肝炎の中では、日本ではC型肝炎がもっとも多く、慢性肝疾患の約6割を占めます。B型肝炎は1~2割です。どちらも血液を介して感染します。一方、A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスは食物を介して感染します。
 肝硬変を招くウイルスとして問題になるのは、B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)です。というのも、A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウ イルスが原因で起こる肝炎は慢性化することはなく、またD型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと共存しないと生息できない特殊なものなので、日本ではほとん ど発症する例がありません。
 B型肝炎は免疫が確立する年齢を過ぎれば、感染しても、原則として慢性化することはありません。しかし免疫ができていない時期、たとえば出産時に新生児 に感染した場合(母子感染)などでは、ウイルスを排除できず感染が持続してキャリアとなり、その中で1割程度が慢性肝炎へ進行します。
 C型肝炎ウイルスは、成人が感染しても、おおかた持続感染し、慢性化します。ウイルスが自然に排除され、治癒することもあります。

診断は

 飲酒、ウイルス感染、薬の副作用、免疫異常、さらにはメタボリック症候群など肝臓の病気の原因は多岐にわたります。ウイルス感染や免疫異常の有無は血液検査でわかります。
 さらに肝臓の状態を把握し、がんができていないか調べるために、エコー(超音波検査)やCT(X線による断面撮影)などの画像検査をおこないます。診断 や病気の進行度を確認するために、肝生検(体の外から肝臓に針を刺して組織を採り、顕微鏡で肝臓の細胞を調べる検査)がおこなわわれることもあります。

治療について

 お酒や薬が肝臓の病気の原因になっている場合は、原因の除去(禁酒、薬の中止)が必要です。免疫異常で起こる場合は、ステロイド薬が必要となることがあります。
 ウイルス性肝炎の治療は、慢性C型肝炎はインターフェロン療法(注射)、慢性B型肝炎は核酸アナログ製剤(飲み薬)による治療が中心となります。いずれ も高額な薬ですが、医療費助成制度があり、所得に応じて経済的負担は軽減されます。キャリア(ウイルスに感染していて発病していない状態にとどまってい る)か肝炎か肝硬変か、またウイルスの種類や血液中のウイルスの量などでも治療法は異なります。
 慢性C型肝炎を治療するインターフェロン療法は、1992年から保険でおこなえるようになりました。リバビリン(飲み薬)と併用したり、インターフェロ ン自体が改良されるなど治療法が進化し、治療成績が向上してきました。昨年は新たにプロテアーゼインヒビターという種類の新薬も認可され、より高い治療効 果を期待できるようになりました(現時点では基準を満たした医療機関でしか取り扱われていません)。
 一方、慢性B型肝炎の治療には、核酸アナログ製剤を投与します。ウイルスを抑制する効果だけでなく、肝機能の改善、がんの発症を抑えるなど、さまざまな効果のある薬です。
 慢性B型肝炎と慢性C型肝炎の治療法は日進月歩です。治療を躊躇している人も、今までの治療でうまくいかなかった患者さんも、ぜひかかりつけの先生に相 談してみてください。必要なら専門の先生に紹介してもらうといいでしょう。

肝炎最近の話題〈その1〉
生活習慣病に関連する肝臓の病気

 近年、B型肝炎ウイルスにもC型肝炎ウイルスにもかかっていないのに、肝臓がんを発症する割合 が増えてきました。その中で注目されているのは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。これは、脂肪肝で、飲酒量が少ないにもかかわらず、肝臓がアル コール性肝炎と同じような炎症を起こすものです。肝炎の状態から肝硬変にすすみ、がんを発症する例もあります。
 「たまたま血液検査をして肝臓の数値が高かったが、肝炎ウイルスが検出されず、お酒も飲まない」という場合、NASHの可能性が疑われます。突然、肝臓 がんがみつかることもあり、診察にあたる私自身「肝臓に悪い生活を送っていないのに、なぜ?」と割り切れない思いにかられることもあります。原因は、まだ 解明されていません。
 NASHの診断は肝生検によりおこないますが、血液検査の数値を組み合わせて診断する(スコアリング)試みもされています。NASHであれば、ウイルス性肝炎と同様に定期的な血液検査が必須です。

肝炎最近の話題〈その2〉
新しいタイプのB型肝炎(1)

 B型肝炎のなかに、健康な成人がかかっても慢性化する頻度が高いタイプが増えてきました。このタイプのB型肝炎は、主に都市部で感染が確認され、性交渉がきっかけで感染することが多いようです。
 いわゆる性病で検査を受けるときには、B型肝炎ウイルスへの感染の有無も確認する必要があります。この新しいタイプのB型肝炎ウイルスが検出されれば、 抗ウイルス療法を考えます。HIV(後天性免疫不全症候群=エイズの原因となるウイルス)も同時に感染していれば、HIVの治療ができる専門の病院での治 療が必要です。抗ウイルス薬である核酸アナログ製剤のほとんどがHIV感染症の治療にも効果を発揮する可能性があるからです。
 新しいタイプのB型肝炎かどうかは、血液検査でわかります。

肝炎最近の話題〈その3〉
新しいタイプのB型肝炎(2)

 健康な成人がB型肝炎ウイルスに感染して治癒した場合、以後、血液中にウイルスは検出されず、 肝炎を発症することはありません。しかし免疫抑制薬や抗がん剤の治療を受ける場合は、例外的に注意が必要です。 なぜならこの場合、血液中にウイルスがふ たたびあらわれて検出されるようになり、肝炎を発症する場合があるからです。この現象は「de novo B型肝炎」「HBV再活性化」などと呼ばれ、症状が急激に悪化する可能性があります。そのため、免疫抑制薬や抗がん剤の治療をおこなう前にはB型肝炎ウイ ルスに感染したことがないかを調べる必要があります。感染歴の有無は血液検査(HBs抗原、HBc抗体)を調べます。
 検査をして1つでも陽性反応があれば、血液中のウイルス量を調べ、ウイルスが検出されれば抗ウイルス剤(核酸アナログ製剤)を投与します。もちろん、抗 がん剤や免疫抑制薬の投与を受ける人がB型肝炎ウイルスのキャリアや慢性B型肝炎であるとわかっている場合は、ウイルス量を確認して抗ウイルス剤を投与し ます。

さいごに

 肝臓の病気は症状がないことも多いため、気づかないうちにかかっているかもしれません。健診を受けたり、医療機関にかかる機会があれば、ぜひ肝臓の病気のことを思い出し、検査結果を確認してください。
イラスト・井上ひいろ

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肝臓の病気 QアンドA

 

Q.慢性B型肝炎や慢性C型肝炎は、どのようにしてかかるのですか?

A.主に、感染している人の血液が 血液中に入ることによって感染します。過去には、集団接種時の注射針の共有により感染が拡大したこともあります。輸血や性交渉のほか、出産時に母親から感 染することもありました。いまは充分な対策が講じられているので、以前に比べて患者さんは減っています。医療従事者は、感染している人の血液が傷口に触れ たり、注射の際に注意が必要です。

Q.血液検査は、どの項目の数値をみたらいいですか。

A.GOT(AST)、GPT(ALT)、─GTPをみてください。このうちGOT(AST)は肝臓以外の病気で異常値を示すことがあります。

Q.家族にB型肝炎ウイルスキャリアがいます。自分が感染する心配はありませんか?

A.血液検査をして感染していないか確認しましょう。日常生活で感染することはまずありませんが、万が一のことを考えて、家族全員がワクチンを接種することをお勧めします。

Q.B型肝炎やC型肝炎にかかっていないか心配です。

A.輸血した経験があるなど感染の 可能性がある場合は、特に血液検査が必要です。健康増進法による肝炎ウイルス検診、協会けんぽ(中小企業のサラリーマン向けの健康保険)による肝炎ウイル ス検診、保健所などにおける肝炎ウイルス検査があります。無料になる場合が多いので、ぜひ血液検査を受けてみましょう。
 また、国の過失により、集団予防接種などで注射器が連続使用されたことでB型肝炎に感染したり、止血剤として使用された血液製剤からC型肝炎に感染して いることもあります。これまで「大丈夫」と言われていた方でも、ご心配な方は近くの医療機関にてご相談ください。

Q.C型肝炎にワクチンはありますか。

A.残念なことにないのです。また、肝炎ウイルスに対するワクチンに他にはA型肝炎ワクチンがあります。慢性化することはありませんが、アジアなどに海外旅行をされる際、予防策としてA型ワクチン接種を考えるといいでしょう。

いつでも元気 2012.5 No.247