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いつでも元気

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被害者切り捨て許さない 受診者の90%に水俣病の症状 1・22 水俣病大検診

 「受診者の九〇%に水俣病の症状」─一月二二日におこなわれた水俣病大検診は、多くの患者が救済されずに放置されている実態をあ らためて浮き彫りにしました。一方、国は七月末に「水俣病特措法」による救済の申請を締め切る方針を決定。「全容を解明しないまま、患者を見捨てるのか」 と、怒りの声が広がっています。

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即席の診察室へ受診者を案内する

 大検診は水俣病不知火患者会が主催したもの。四府県(熊本県、鹿児島県、岡山県、大阪府)の六つの会場全体で三九六人が受診し、九〇%にあたる三五六人に水俣病特有の感覚障害が見られました。
 記者が訪れたのは、熊本県天草市の天草東保健福祉センター。国の線引きによって水俣病の“対象地域外”とされた地域ですが、多くの潜在的な患者が埋もれているとみられていました。
 「水俣病患者会の人に誘われて、初めて受診した」という久保宏子さん(仮名・71)。「子どもの頃から魚が大好き」といいます。漁師をしていた両親が 獲ってきたアジやタチウオなどを「一日三食、おかわりして食べた」と。
 久保さんは一七歳から八年間、大阪で働いたことがありますが、人生の大半を天草で暮らしてきました。三〇代になった頃から、手足のしびれやこむらがえり に悩まされるようになり、「ひどい時期は毎日のように手がつった」と語ります。
 「(タタミの縁などの)ほんの小さな段差でもつまずく」「ボタンがはめにくい」「(視野が狭く)人が横にいても気づかない」など、水俣病患者に多く見られる症状を訴えました。
 自分の症状を「年のせいだと思っていた」と久保さん。対象地域外とされてきた天草市では、自身が水俣病と自覚する機会もありませんでした。「この地域か ら外に出て行った人も多いし、私のような人がまだまだたくさんいるのでは」と話しました。

「こんな症状も水俣病なの?」と驚き

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生活歴や症状を丁寧に聴き取る中村看護師

 センターに来た一四八人の受診者の中で、最も若く見えた女性(新和町)は四八歳。「弟からもらった問診票をぱらぱらとめくって見ているうちに、思い当たる項目がいくつもあって…こんな症状も水俣病なのかと驚いた」と語ります。
 この女性も貧血やこむらがえり、味覚の異常や目が見えにくいなどの症状に、長年悩まされてきました。チッソが水銀の排出を止めたとされる一九六八年当 時、女性は五歳でした。「身体が発育する乳幼児期だから、摂取した水銀の影響を受けやすかったのかも」と不安そうな表情を浮かべました。
 母親(81)といっしょに受診した男性(55)は、二〇代の頃からひどい頭痛に悩まされてきました。「私が子どもの頃から、母はしょっちゅう『頭がジン ジンする』と訴えていた。自分が同じように痛くなって、初めてその症状を理解できた」といいます。
 大学病院を受診しても、原因はわからないままでした。「何十年にもわたって苦しんできた。検査したり、毎日薬を飲んだり、お金もかかった。せめて医療費だけでも救済してほしい」と男性は訴えました。

最後の一人まで救済すべき

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検査用の針を落としても、まったく感覚がない重い症状の方も

 検診には二〇〇人以上の民医連職員がボランティアで協力。「どこで」獲れた魚を「いつ」「どれだけ」食べたか、「どんな症状」が「いつから」出たかなど、救済申請に必要な情報を一人ひとり丁寧に聴き取りました。
 問診に参加した看護師の中村祐介さん(水俣協立病院)は、「みなさん例外なく魚を多く食べていました。まれに『魚が嫌い』という方はいますが、食生活が 魚中心である以上、(水銀ばく露の)影響がないはずがありません」と。さらに「手足のしびれなど水俣病の症状があるのに、『年のせい』としか思っていない 方が多く、あらためて潜在患者の多さを実感しました。国やチッソが線引きして決めた被害者ではなく、水俣病の症状があるすべての被害者を、最後の一人まで 救済すべき」と中村さんは力をこめました。
 くわみず病院院長の大石史弘医師は、「私が診た一三人のうち一二人に感覚障害があった。(検査用の針を落としても)まったく感覚がない、かなり重い症状 の方もいた」と。「沿岸地域だけでなく、山間部(芦北町)にも行商から入手した汚染魚を食べた方が多くいることがわかっています。あらためて全住民を対象 にした健康調査を国に要求したい」と語りました。

全容解明してこそ教訓に

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環境省前で訴える大石利生会長(撮影・編集部)

 これらの検診結果を受け、一月二五日には不知火患者会や弁護士らで構成する「ノーモア・ミナマタ被害者・弁護団全国連絡会議」が上京して環境省と交渉。 「救済申請の受付を締め切るな」とせまりました。しかし、二月三日に細野豪志環境相が「七月末に締め切る」ことを発表。「三年間の期限で申請してもらうの が法の趣旨」と、締め切りを正当化しました。
 「『三年』というのは、その間に最終的な解決の目途をつけなさいと行政に求めた規定です。周知などの義務をしっかり果たさずに、被害者を切り捨てる口実 にするなど絶対に許されません」と憤るのは、水俣病闘争支援熊本県連絡会議の原田敏郎事務局長。「いまも月数百人から一〇〇〇人もの人々が救済を申請して います。今回の検診からもうかがえるように、潜在的な患者さんはもっとたくさんいるでしょう。『救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済される』とい う特措法の趣旨に沿って、住民に周知をしながら申請がある限り受け付けるべき」と原田さん。
 水俣病不知火患者会の大石利生会長は、「水俣病が公式確認されてから五六年。国のその場しのぎの対応が、最終的な解決を妨げてきました。行政が基準を設 けて解決したつもりでも、また新たな潜在患者が名乗りをあげて救済を求めるという歴史の繰り返しです」と語ります。
 大石会長は「そもそも行政による指定地域の線引きに、どれだけの科学的根拠があるのでしょうか」とも指摘します。
 「海はつながっているのです。周辺の全住民を対象にした健康調査などで被害の全容を解明し、加害者に責任をとらせてこそ、全面的な解決といえます。福島 の原発事故を見ても、国は水俣病の教訓から何も学びとっていません。汚染源からの距離で地域を線引きし、できるだけ賠償額を低く見積もろうとする。“公害 の原点”といわれる水俣病を全面的に解決することは、今後の社会のあり方を決定づける重要な試金石です」
 大石会長は穏やかに、しかし毅然とした口調で語りました。
文・武田力記者
写真・野田雅也

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いつでも元気 2012.4 No.246