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いつでも元気

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原発事故から7カ月 “主権”を取り戻すため、この地で生きていく ──福島・郡山医療生協

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静岡・浜北医療生協が企画したサマーキャンプ(対策本部ニュースより)

 福島第一原発事故から半年以上。多くの県民は、放射能性物質による被害で、これまでの生業や生活を奪われています。
 郡山医療生協では、原発事故発生後すぐに「対策本部」を設置、地域住民の生活や職員と家族の健康を守るために、発信を続けています。
 七月、「放射能汚染に立ち向かう! 地域まるごと暮らしと健康を守る大運動プロジェクト」で七つの運動方針(下)を掲げ、とりくみをはじめました。
 放射能被害を受けたまちで、地域の医療・介護をまもる職員と医療生協組合員、共同組織の実践を取材しました。

七つの運動方針で職員と家族を守る

genki241_06_02 「いま、福島県で一番深刻な問題は、“仕事がない”ということです」と話すのは、郡山医療生協・桑野協立病院の江川雅人事務長。
 「仕事がないなか、この地で医療・介護を続けることは、職員の生活を守ることになる。そして、ここで働いて生活していく以上、どうやって被曝量を低く抑 えるかということが重要です。このまちで生きていくために何ができるのかを考え、この七つの運動方針(大運動プロジェクト)ができたんです」
 この大運動プロジェクトを知った山形・庄内医療生協、医療生協さいたま、愛知・南医療生協、静岡・浜北医療生協は「夏休みの数日間、職員の子どもたちに 県外で過ごしてもらおう」と、夏のリフレッシュ企画を準備しました。

7つの運動方針

(1)放射線量測定マップ
 医療生協の全26支部に各1 台の線量計を確保し、毎日測定を実施。線量測定班会を開催してマップを作成し、ホームページで公開。
(2)除染活動
 自治体は学校や幼稚園、保育園内の表土除去を実施中。放射線量を下げるためには「地域ぐるみ」で実施することが必要なことから、職員と共同組織が地域の除染活動を率先。
(3)防護活動
 放射線防護の3原則をひろく地域住民に知らせる。6月からは組合員健診に「白血球像検査」を追加。造血機能異常(白血病など)の早期発見につなげる。
(4)子どもの被曝リスクを減らす
 定期的に汚染された地から離れることによって内部被曝を抑制できることから、職員みんなで「子ども被曝低減」にとりくむ。放射能のことを忘れて、のびの びと野外で遊ぶ時間を設けるサマースクールやキャンプなどを企画。
(5)放射能についての正しい知識を身につける講師活動・学習会の開催
 正しい知識を身につけるため、班会や支部学習会を開催する。そのための講師を派遣する。
(6)相談窓口の設置
 健康相談、正しい知識を身につけるための学習資材の貸し出し、放射線量測定、除染活動や「子ども被曝低減」のための相談窓口を、郡山医療生協と桑野協立病院に設置。
(7)私たちの「声」を実現させよう!
 生活保障や正確な情報開示、除染、健康診断の充実、原発事故の原因究明、県内の原発全てを廃止・廃炉にすることを求める


全国支援でリフレッシュ実現

 郡山医療生協は企画に参加してもらうために職員の休暇を確保しようと、全国に看護師支援を要請。二〇県連から看護師の派遣を受け、職員が子どもとともに企画に参加できるようになりました。
 「私たちは原発事故以来、苦悩の毎日を過ごしているけれど、全国から物資や人材の支援をたくさんいただいた。民医連の連帯に感謝です」と話すのは同病院 の佐藤唱子看護部長。「できることなら福島から逃げ出したいと感じている看護師も、患者さんがいるから自分だけ逃げるわけにはいかない、今ほど自分の職業 を恨んだことはないと話す看護師もいる」と言います。「でも、対策本部が大運動プロジェクトを掲げて、リフレッシュ企画など“職員のためにできること”を 考え実行しているので、職員は“自分たちは守られている”と感じています。そして、“守られている”という実感が、“職場の仲間を守り、患者さんや地域を 守っていくんだ”という力になっているのです」。
 法人内に一三事業所を持つ介護部門も、看護師支援を受けました。介護保険事業部の新田要一部長は、「慣れない地域のなかで、支援のみなさんには本当にご 奮闘いただいた。職員たちは“全国が自分たちを支えてくれている”ということを肌で感じた」と。
 静岡・浜北医療生協が八月に企画したサマーキャンプにお子さん二人と参加した三浦香さん(看護助手)は、「子どもが公園で走り回っている姿を見て、本当 に参加してよかったと思いました。この企画のために、全国のみなさんが力を尽くしてくれたと思うと、一生忘れられない。原発事故以降お世話になってばかり で、感謝してもしきれない。いつの日か、何かの形で恩返しがしたい」。その目は涙でうるみました。

福島の“いま”を学ぶ場も

 全国からの支援者には、福島の現状を学んでもらう場を設けています。講師は同病院の坪井正夫院長です。
 「『核害』のまちで生きていくとは、どういうことか」をテーマに語っています。
 「核害」とは、事故を起こした原子力発電所による被害という意味。「過去の公害の歴史から、われわれは公害をつくりだした廃棄物対策に終始するのではな く、発生源を止める必要があることを学んだ。原発事故に対しても同じ発想が必要です」と話し、「原発にわれわれは主権を奪われた。私たちは、この地で主権 を取り戻したいのです」と訴えます。
 坪井院長は行政に対して、(1)除染に必要な財源は東電が負担し、(2)尿中セシウム測定など内部被曝に対する健康調査は国の責任でおこなうことを求め ています。「これらはこの地で生きる、市民の生存権の主張です」と坪井院長。

“声をあげよう”に共感ひろがる

 「放射能被害をうけた地で生活していくには、どうすればいいのか」―同病院放射線科科長の中里 史郎さんと放射線技師で事務室主任の鹿又達治さんは、市内各地で開かれる学習会の講師をつとめています。職員や組合員対象の学習会はもちろん、八月以降は 自治体や町内会、保育園に加え、企業健診を受託した会社からも要請を受け、講師活動は二人で四〇回を超えました。
 中里さんは中学一年のお子さんを持つ父親です。「学校の校庭は、国が除染をおこなっているので放射線量は下がってきています。しかし学校から一歩外に出 たら、安心できません」。中里さんの自宅で放射線量を測ったところ、一階の部屋に比べて二階の線量が倍以上に高かったのです。屋根に付着しているセシウム を高圧洗浄機で洗い流して除染しましたが、いまも二階にある子ども部屋はなるべく使用せず、できる限り一階で過ごしています。「わが子のことを中心に考え ながら、できる限りこの地で住み続けたい。そのためには、前を向いて、やれることをやるしかない。子どもにとって安心できる環境を確保するために、早く除 染してほしい」と切々と訴えました。
 放射能被害に対する情報があふれるなか、「洗濯物を外に干しても大丈夫か」「水は安全か」「この地で子どもを産んでいいのだろうか」など、住民の不安は 生活に関わるすべてにおよんでいます。国はホールボディカウンター()による住民健康調査をはじめましたが、この調 査では、すでに排泄された放射線量は計測できません。「今のペースで住民が健康調査を待っていても、調査を受けたころには体内から検出されず、“被曝して いない”と診断されかねない。学習会では必ず“早く調査して”と私たち自身が声をあげようと呼びかけています。そして、農作物の放射線量も、事実を公表す るよう国に求めよう、と訴えています」と鹿又さんは話します。まち全体の放射線量を下げるためには“地域ぐるみ”で一軒一軒の家庭を除染することが必要で す。しかし、国は放射能に汚染された汚泥や家財などをどこに廃棄するかさえ示さず、年間二〇ミリシーベルト以下の自治体については、“自治体まかせ”にし ているのが現実です(九月末現在)。
 また食べ物などを通じて起こる内部被曝を軽減する対策も重要です。いま放射線科では、食養科と協力して「少しでも内部被曝を減らす調理レシピ」をつくり、学習会で地域住民のみなさんに知らせようと考案中です。

(注)ホールボディカウンター:内部被曝線量を測定する装置

放射能から「守る」正しい知識を

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郡山市で開催された「市民講座 放射能からママと子どもを守る」

 九月二二日午後、郡山医療生協は市内で野口邦和氏(日本大学専任講師)を招いて「市民講座 放 射能からママと子どもを守る」を開催しました。参加者は一七〇人。託児室も準備され、小さな子連れのお母さんも多数参加しました。野口氏は「累積外部線量 が年間一〇ミリシーベルト以下といわれているこの地域の大地放射線量は、一〇年後には四分の一以下になる」というデータを示し、「それまでの数年間に、い かに被曝を防ぐか」について、(1)現在住民が住んでいる地域の除染をすすめること。そのために国がロードマップを作り放射能汚染物質の最終処分場を決め ること、(2)食品に付着した放射性物質を取り除くこと。野菜は細かく切って洗う、水にさらしたり、ゆでたりすることで放射性物質はかなり取り除ける、と 話しました。

「事故が起きるとどうなるか」を発信

 「避難所や仮設住宅で暮らす方がたにとって、人と人とのつながり、地域のコミュニティーが壊さ れたということが問題でした。いま、同じ思いを抱えた職員同士、この職場がひとつのコミュニティーとなり、支えあっていると感じる」と江川事務長。「原発 事故後に福島を離れるため退職した職員もいます。今後もそう決断する職員がいるでしょう。こんな大変な事態ですから、そのことを責める気持ちなど、まった くありません。私は、国から避難指示が出ない限りは、この地で生きていくと決めています。そして“原発が事故を起こすと何が起こるのか”を全国に発信し続 ける役割がある、と思っています」と決意を語りました。
文・宮武真希記者/写真・五味明憲

 

市民講座に参加した後藤信弘さん

(64・郡山医療生協組合員)

 住民のみなさんといっしょに放射線量を測定し、表土を削って埋めるなどの除染をおこない、安心できる環境をつくるために活動している。
 東電や国は、真実を明らかにしないのが一番の問題。風評被害もひどい。国は、国民が正しい認識で行動できるよう、説明責任を果たしてほしい。そうでないと、福島の地域社会は崩壊してしまう。

 

「NO!原発」訴え、福島県民医連がピーチャリ

genki241_06_04 9月23日、福島県民医連としてはじめてピーチャリを開催しました。県内すべての加盟法人から参加があり、宮城県連や全日本民医連からかけつけてくれた仲間も合わせて45人の大集団で、被災の大きかったいわき市内を走りました。
 出走式では原発0への願いを込めてバルーンリリース(写真)を行ったほか、およそ45キロの道のりを「フクシマで生きていきたい~NO!原発~」の文字 が書かれたT シャツを着て、アピールしながら自転車で走行。そうとう目立ったと思います。
 財政活動や当日の給水などで共同組織の皆さんの大きな協力を得ました。また、寄せ書き入りのT シャツを送ってくださった長野・北海道両県民医連をはじめ、T シャツを注文してくださるなど、全国の仲間に支えられて成功させることができました。

(福島県民医連・熊谷智)

いつでも元気 2011.11 No.241