特集2 糖尿病と言われたら 自然治癒しない病、症状が軽いうちに治療を
生活習慣を見直すことで予防できます
糖尿病とは
熊谷悦子 長野・医療法人(社団)健和会 健和会病院 医師・透析センター部長 |
わたしたちの体が正常に活動する為には、エネルギー源が必要です。お米やパンのような炭水化物は重要なエネルギー源です。
炭水化物は、腸の中で分解されブドウ糖になります。ブドウ糖は血液の中に入り、血液の中のブドウ糖の濃さ(血糖)はわずかに上昇します。このわずかな血 糖の上昇に対して、膵臓からインスリンというホルモンがでます。このホルモンは、肝臓、筋肉、脂肪組織にはたらいてブドウ糖を細胞の中にとりくみます。そ のため血糖値は、大きく上昇することはありません。
しかし、膵臓からのインスリンの出が悪かったり、肝臓や筋肉、脂肪組織でのインスリンの働きが悪かったりすると、ブドウ糖の濃度が上がってしまいます。このような状態が、糖尿病です(図1)。
糖尿病の原因
糖尿病はその原因によって、4つに分類されています。
(1)1型糖尿病
(2)2型糖尿病
(3)遺伝子異常、膵臓病、肝臓病などが原因の糖尿病
(4)妊娠糖尿病
1型糖尿病は膵臓のインスリンを出す細胞に対して、免疫反応がおきて、細胞が壊されてしまう状 態です。免疫反応の強さによって、細胞破壊が急激に起こるものから、ゆっくり起こるものまでありますが、最後にはインスリンを出す細胞が壊れて、インスリ ンの出がなくなりますので、インスリン注射が、欠かせません。子どもや青年期に多く起こりますが、中高年でもおこります。肥満、過食、運動不足などの生活 習慣とは、関係なく起こりますし、遺伝も少ないといわれています。免疫反応がどうして起こるかは、よくわかっていません。
糖尿病の90%以上は2型です。膵臓からのインスリンの出が少ない状態や、肝臓や筋肉、脂肪組織でインスリンが効きにくい状態が、生まれつきあって、そ こに過食、肥満、運動不足、ストレスが引き金になって血糖値が上がってくるといわれています。日本人では、欧米人と比べて、インスリンの出がすくなく、比 較的軽い肥満でも糖尿病が起こりやすいといわれています(図2)。
高血糖を放っておくと
糖尿病では、「炭水化物を食べたあとのわずかな血糖上昇に対する素早いインスリンの出」が悪く なるので、食後の血糖が少しずつ上がってきます。血糖値が140mg/dlを超えると、血管に傷を付け、動脈の老化を進めるといわれていますので、このよ うなわずかな上昇も軽視できません。
さらに進むと血糖がさらに上がって、170mg/dlを超えると尿に糖がでてきます。さらに上がって200mg/dl以上となり、血糖の平均値「ヘモグ ロビンAlc 」が6・1%以上となると糖尿病と診断されます。さらに放っておくと、今度は炭水化物を食べる前(空腹時)の血糖値までも上がってきます。そうなると食後 血糖もさらに上がって300mg/dl以上になったり、ヘモグロビンAlc も10%などという大変な状態になってきます。
また、数年放置されれば目、神経、腎臓に病気が出たり(合併症)、心筋梗塞、脳卒中などの心臓血管病も起こしやすくなります。このように糖尿病では、血 糖の上昇も合併症も進行するばかりで、自然に良くなったり、止まったりしませんので、軽いうちに発見して、治療することが大事です(図3・4)。
糖尿病の飲み薬
(1)食後の血糖改善:初期には食後のインスリンの出が悪くなりますから、食後のインスリンの出 をよくする速効型インスリン分泌促進薬(スターシス、ファステック、グルファスト)、糖分の吸収をゆっくりにする薬=α -グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)が有効です。
(2)インスリンの効き目を良くする薬:ビグアナイド薬(グリコラン、メルビン、メデット、メトグルコ、ジベトス)は体重が増えにくく、筋肉や肝臓でのイ ンスリンの効き目を良くして血糖を下げます。ピオグリタゾン(アクトス)もインスリンの効き目を良くしますが、体重が増加しやすいので食事療法をしっかり 守ることが大切です。
(3)食前血糖も上がってきたら:膵臓に働きかけて食前もインスリンの出を良くする薬が必要です。スルホニル尿素薬(グリミクロン、アマリールなど)は膵 臓に働きかけてインスリンの出をよくして血糖を下げます。血糖値が正常に近くなってくると、食事時間が遅れたときなど血糖値が下がりすぎて、気分が悪くな る(低血糖)を起こすことがあるので注意が必要です。最近つかわれるようになったDPP―4阻害薬(グラクティブ、ジャヌビア、エクア、ネシーナ)は血糖 値が高い時だけインスリンの出をよくするという薬なので、単独では低血糖を起こしにくい特徴があります。
糖尿病の注射薬
1型の糖尿病でインスリンが出なくなった時、2型でも高血糖で体調不良の時、肺炎や腎盂炎などを起こした時にはインスリン注射が必要です。
2型でも高血糖が続くと膵臓のインスリンを出す細胞が疲れてきて一時的にインスリンが出ない状態になります(糖毒性)。このような場合はインスリン注射 で、膵臓を休ませてやると自前のインスリンがまた出てきて注射をやめることもできます。スルホニル尿素薬を飲んでインスリンの出を増やしても血糖値が高い 場合は、インスリンを追加して血糖値を下げることもあります。
インスリンには効き目の時間によって、超速効から持効型まで、いろいろな種類がありますが、最近では製剤・注入器一体型の使い捨てタイプが主流となり使 い方が簡単になりました。針も細くて痛みもないので、注射を始めるために入院する必要はなくなりました。
最近つかわれるようになったもう一つの注射製剤が、GLP―1受容体作動薬(ビクトーザ皮下注)です。インスリンそのものとは違い、血糖値の高い時だけ インスリンの出をよくするので、単独では低血糖を起こしません。1型の糖尿病などのインスリンを出す細胞が極端に減った状態では、効果がありません。食欲 を抑えて、体重が減る効果があるため、スルホニル尿素薬で体重が増えたり、血糖コントロールが良くならない肥満例に効果が期待できると思われます。
予防はできますか?
肥満のある人はまず体重を5%へらすこと、食事量を減らして、脂肪や甘い物の取りすぎを制限し ます。一日30分のウォーキングなど運動も効果があります。野菜や海藻、キノコなど、線維の多いものを食べるように心がけましょう。特に、家族に糖尿病の 人がいる場合、肥満がある場合、高血圧、脂質異常症など心臓血管病になる危険因子がある場合は、予防に心がけましょう。糖尿病予備軍かどうかがわかる、ブ ドウ糖に対する反応を調べる検査(糖負荷試験)もあります。身内に糖尿病の人がいる、最近体重が増えて糖尿病が心配という方は、この検査をおすすめしま す。
検査で予備軍といわれたら、早速予防にとりかかりましょう(図5)。
糖尿病を予防し、良くする生活習慣の見直し
(1)食事療法
年齢、体格、運動量にあった食事量を、医師、栄養士と相談して決めます。成人なら、ご飯は1回に100グラムから200グラムを3食、おかずは肉 60g、魚1切れ、卵1個、豆腐半丁(納豆1パック)、野菜、海藻、キノコなど300g 以上(ただしイモ、カボチャ、トウモロコシはご飯の仲間ですので、その分ご飯を減らしましょう)、牛乳1本、リンゴ1/2個、油大さじ1杯くらいが、一日 の食事の目安になります。肥満のある人は、血糖を下げるうえでも、動脈硬化の予防の上でも体重を減らすことが必要です(図6)。
(2)運動療法
だるさや痛みなど、体調の悪い時、食事前の血糖値が250mg/dlを超えるような血糖の高い時、眼底出血、心臓、腎臓などの合併症がある時などでは、 運動が有害なことがあります。医師、トレーナーと相談して始めましょう。
例えばウォーキングでは、1回15分から30分、1日2回、歩数にして1万歩くらいが目安になるでしょう。体重が多くて、ひざに負担がかかる人では、水 中歩行もおすすめです。運動はブドウ糖の利用によって血糖を下げる効果だけでなく、筋肉の衰えや骨粗鬆症を防ぐ効果、血の中の中性脂肪を減らして、善玉コ レステロールを増やす効果もあります。日頃体を動かす習慣のない方は、この機会に是非、自分に合った長続きする運動をはじめてください。
治療の中断が大敵
糖尿病は、食後血糖のわずかな増加にはじまり、高血糖になるまで、進行していく病気です。放っ ておいて自然に良くなることはなく、次第に合併症が出てきます。合併症が悪くなるまで、「痛くも痒くもない」ので、つい病院に来なくなったり、薬をやめた りしがちです。合併症で悩む方の中には、長く放置されていたり、治療を途中でやめてしまった方が多いです。
糖尿病と言われたら早く診察を受け、軽いうちに治療を始め、定期的に検査をすることが大切です。
*註:文中の薬品名は、日本糖尿病学会編「糖尿病治療ガイド 2010」の記載を引用しました。
いつでも元気 2011.11 No.241