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いつでも元気

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特集1 TPPが日本を壊す

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。「開国」「経済復興」のかけ声のもとに日本政府は締結を急いでいます。
 しかし実態は「開国」どころか「壊国」への道です。日本の農業、雇用、経済、安全など、国民の命と暮らしを営利市場の暴風にさらす「パンドラの箱」です。

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8月27日、東京・日比谷でTPP 参加反対の集会がひらかれた。集会後、銀座のまちへデモ行進、トラクターの姿も

 TPPは、協定を結んだ国同士が貿易をおこなう際、輸入時の「障壁」をすべてとりのぞくもの。輸入品にかけられる関税も例外なく「ゼロ」になります。
 しかしTPPに参加すれば、日本の食料自給率は四〇%から約一三%に下がると試算されており、他の先進国と比べても低い食料自給率がさらに低くなります(図1)。しかもこれは日本政府自身の試算(表1)。主食の米さえ自給率一〇%に。乳製品はほぼ外国産、砂糖もすべて外国産に置き換わると試算されています。政府が繰り返してきた「開国と農業再生の両立」など成り立たないことが政府自身の試算で裏付けられています。

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めざすべきは「食料主権」の確立

 新潟県農民運動連合会会長の今井健さんは「TPPで農業の後継者が激減し、日本の農村がさらに 荒廃するのは間違いない」と断言します。「いまでさえ農家は『米つくってメシ食えねえ』実態がある。世界貿易機構(WTO)、FTA(自由貿易協定)のも とで、日本では農産物の関税が削減されてきた。日本の農産物の価格は下がりっぱなしです」。語る言葉に実感がこもります。
 稲作が中心の今井さん。「米をつくっても時給に換算して一七九円にしかならない(〇七年、農水省試算)。こんな状況なのにTPPに日本が参加すれば、農 民はますます生活できなくなる。自分の国の農業政策は自分たちで決めるという『食料主権』の確立が必要です」。
 農水省はTPPで、農業と関連産業あわせて三五〇万人の雇用が失われるとも試算。「農家に戸別の所得保障をおこなっても、農業衰退は避けられない。 TPP参加で日本の農産物が売れなくなるのですから、関連産業も大打撃を受ける。農業の後継者もいなくなる」と今井さん。

被災地復興の足かせにも

 「TPPは東日本大震災の被災地復興にとっても足かせにしかならない」
 こう語るのは、全国農業協同組合中央会(JA全中)農政部WTO・EPA対策課の一箭拓朗課長です。
 宮崎県では昨年五月二七日、県が口蹄疫被害の終息を宣言しました。一二三八農場・約三〇万頭の家畜が殺処分されましたが、一年を過ぎたことし五月末に なっても六六六農場しか畜産を再開していません。再開が約半分にとどまっている原因に「将来の展望が見えないことがある」と一箭さん。「その理由のひとつ がTPPだと、農家の方々が口にしている。TPPが、参加前から宮崎で畜産農家復興の足かせになっているのですから、東日本大震災被災地の農業復興を妨げ ることは間違いない。財界・マスコミには『被災地復興のためにもTPPに参加すべき』という方がいますが、被災地の現場を見ていないのでは」。

医療や介護にも打撃

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8月27日の集会では、今井さんも登壇。「米どころ新潟の農業も壊滅的な打撃を受けることになる」と訴えた

 TPPにはこれまですすめられてきた「貿易自由化」と決定的に違う点が。それは「関税」だけで なく、貿易に関わる一切の「障壁」(=非関税障壁)をなくすことを求めている点です。農業だけでなく、人や物、サービスなどにかかわるあらゆる分野が対 象。国独自に設けた安全基準・ルールなどが「障壁」と見なされれば撤廃される危険があります。
 「医療や介護も打撃を受ける」と全日本民医連・長瀬文雄事務局長。「すでに看護師や介護職を外国からの安い労働力でまかなう動きが始まっていますが、 TPPに参加すれば、こうした動きが拡大するのは避けられない。医療・介護だけでなく、日本の労働力全体が低賃金競争にさらされます」。
 「“保険証一枚でどこの医療機関にもかかれる”国民皆保険制度も、外国の民間保険会社参入の“障壁”と見なされれば、公的医療保険でおこなえる医療が縮小させられ、混合診療()が拡大する危険もあります」と長瀬さん。保険証を持っていても、民間保険に入っていなければ十分な医療を受けられない時代が訪れるかもしれないのです。

注 公的医療保険による診療と自費診療を同時におこなうこと。


アメリカ産コシヒカリも

 こんな危険な協定になぜ日本政府は参加しようというのか。背景にはアメリカ政府の圧力が。アメリカ政府はこれまでも日本政府に混合診療の解禁や、日本の医療を「市場」として他国に開放することなどを求めてきました。
 農業でもアメリカ政府側は日本国民の命や健康などおかまいなし。ことし一月、ワシントンで開かれた日米貿易フォーラムでアメリカ政府は、日本が牛海綿状 脳症(BSE)防止のために実施している輸入牛の月齢制限を撤廃するよう求めました。
 米通商代表部「二〇一〇年衛生・植物検疫措置に関する報告書」でも日本の食品添加物表示義務を「費用がかかり、不必要」と。大腸菌を理由に日本がアメリ カの冷凍フライドポテト輸入を拒絶した例も示し、「あまりに規制が強い」と非難しています。農産物の輸出で長距離の輸送、長期間の保管が必要となるため、 添加物や細菌などにかかわる日本の規制を邪魔者扱いしているのです。
 アメリカは収穫後の農産物に使う農薬の規制緩和も要求。すでに輸出に向け、アメリカ産の「コシヒカリ」「ササニシキ」の生産も始まっています。
 規制緩和・撤廃は、日本の財界も求めています。九月二〇日、米倉弘昌・日本経団連会長は枝野幸男経済産業相に面会し「経済の国際競争力を高めるために も、一一月までにTPP参加表明を」と。輸出大企業などが国を越えて自由に経済活動をおこなうためなら国民生活を犠牲にしてもかまわないという「構造改 革」路線の延長にあるのがTPPなのです。

「世界の趨勢」は真っ赤なウソ

 世界の趨勢のように言われるTPPですが、参加国は協議中を含めて世界にわずか九カ国(表2)。しかも九カ国と日本の国内総生産を合計すると日米だけで約九割(図3)を占めるという、事実上の日米単独貿易協定です。日本をアメリカにまるごと市場として差し出すというのがTPPの真相です。
 「日本は七割が中山間地。耕作面積が農家一軒で平均二ヘクタール未満の日本と、一七〇ヘクタール超のアメリカ、三〇〇〇ヘクタール超のオーストラリアな どとは条件が違います。日本の農業には、洪水・土砂災害の防止など、アメリカ型、大陸型にはない役割がある。競争させること自体が間違いです」こう語った 一箭さんは「TPPは農業だけの問題でもない。農業だけの問題に矮小化してはならない」と強調しました。
 全日本民医連も年内に一〇万筆を目標にTPP反対の署名にとりくんでいます。
 長瀬さんは「TPPは国民全体にかかわる重大問題。JA、日本医師会や漁協、労働組合など、さまざまな分野の人たちが懸念や反対を表明している。全日本 民医連も従来の枠を越えてさまざまな方たちと手をつなぎ、連帯し、日本のTPP参加を阻止したい」と語りました。

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文・多田重正記者
写真・酒井 猛

いつでも元気 2011.11 No.241