特集1 沖縄県高江 ヤンバルの森を守れ 写真家・森住 卓
ヘリパッド工事許さない
住民・支援者がつくる「人間の鎖」の頭越しに、むりやり作業員らが工事用の砂が入った土のうを持ちこむ |
いま、沖縄県本島北部の東村・高江で、在日米軍のためのヘリパッド工事が日本政府の手で強行されている。
ある住民は「今日も朝早く暗いうちから(沖縄)防衛局職員と作業員が押し寄せてくる。もう、いい加減にしてほしいよ」と語った。
作業を中止させるために説得を続ける住民や支援者。その住民に「エー、オトー、シナサリーンドー!(おぃ、おじさん、懲らしめてやるぞ!)」と防衛局が雇った若い作業員が、乱暴な言葉を叫びながらすごんでくる。
本音もらす作業員も
森の中にある高江は、住民一六〇人ほどの集落だ。その集落を囲むように、日本政府は新しいヘリパッドを六つもつくろうとしている。
ヘリパッドをつくるためには、森の中へ入らなければならない。しかし建設予定地に続く道は、反対住民が入り口を封鎖しているため、トラックで乗り入れる ことができない。そこで防衛局と作業員は、工事に使う土のうに詰めた砂利を「バケツリレー」で藪の中から人力で運び込もうとしているのだ。
だが、ある若い作業員は、支援者にこうもらした。
「もっと反対の人たちが来て、阻止してよ。そうすれば俺たちこんな仕事やらなくて済むから」
それを聞いて、私は昨年、高江に現地調査に来た裁判官の言葉を思い出した。
「国民同士が戦争をしているようだ」
行政訴訟で住民を訴える国
理不尽にも国は、ヘリパッド建設に反対する住民を「通行妨害」で行政訴訟に訴えている。行政訴訟とは本来、住民が行政を訴えるものだ。ところがここでは、まったく逆のことがおこなわれている。そして裁判中にもかかわらず、国は工事を強行しているのだ。
高江で農業を営む盛岡浩二さん(43)は、ヘリパッド工事に反対する一人だ。「話し合いましょうよ。騒音被害や新しく配備されるオスプレイはどこを飛ぶ んですか? 墜落の危険はないのですか? なんにも納得いく説明をしてくれないで、なぜ工事を強行するんですか」と、防衛局職員に食い下がる。
赤土まみれの長靴をはいた盛岡さんは、ジャガイモ掘りのさなかに「防衛局が来た」と知らせを受け、ヘリパッド建設予定地の「N1ゲート」前にすっ飛んできたのだ。
工事で「気の休まることがない」
命はぐくむヤンバルの森。緑が目にも鮮やかだ |
盛岡さんは五年前、ヤンバルの豊かな自然の中で農業をやりたいと考え、東京から高江に移住してきた。妻の尚子さんと小学二年生、二歳、〇歳の子どもがいる。
「森の中で暮らせて、空気もいいし、水もうまい。ここの人もみんなあたたかくて、大好きになったんですよ」と盛岡さん。しかし移住した翌年に持ち上がっ たヘリパッド建設問題。それ以来「気の休まることがない」と言う。
とくに昨年末からは「防衛局がいつ来るのか、不安で落ち着いて仕事ができない。おかげで今年はタイモの作付けもできなかった」と話す。
今でさえ、高江を低空飛行でヘリがかすめていくのは日常茶飯事だ。バリバリと耳をつんざく爆音を響かせながら、夜中にもやってくる。その上、集落周辺に六つもヘリパッドができたら、とんでもないことになる。
多くの犠牲生んだ「欠陥機」も
建設が予定されているヘリパッドは、米軍の「欠陥機」オスプレイの演習に使われる可能性が高 い。オスプレイは、プロペラ飛行機のような形をした特殊ヘリだ。離陸の際はプロペラを上に向かせ、離陸したところでそのプロペラを前に倒して、飛行するの だ。開発段階から墜落事故を繰り返し、合計三〇人の犠牲者を生んでいる。オスプレイが高江で訓練を始めれば、墜落事故に住民が巻き込まれる危険がさらに増 す。
「静かな高江に早く戻ってほしい」。これが住民の願いだ。
一方、政府は日米合意だからと住民の意見に耳を傾けようとしない。
ヤンバルの森はいま、ウリズン(注)の季節を迎えている。スダジイやウラジロガシなどの原生林が萌え立つような緑を見せ、一年でもっとも美しい季節だ。
ノグチゲラやヤンバルクイナは豊かな自然に抱かれながら、三月より繁殖期を迎えた。防衛局は六月末まで「音の出る工事はしない」としているが、住民・支 援者らの監視は休まずおこなわれている。命はぐくむ森に暮らす人々のたたかいは、まだまだ続く。
【注】ウリズン:沖縄のつゆの季節。2月下旬から4月下旬
いつでも元気 2011.5 No.235
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