特集2 「めまい」を感じたら 原因はさまざま、早めに受診を
日常生活に影響の大きい症状
今田隆一 宮城厚生協会 坂総合病院 院長 (脳神経内科) |
めまいは、医療機関を受診する患者さんのなかで、もっとも訴えが多い病気の症状のひとつです。
めまいってなに?
ひとことでめまいといっても、いくつかの種類があります。大きくわけて、平衡感覚の障害によるめまい、急激に起こる「回転性のめまい」、慢性的におこりやすい「非回転性のめまい」に区別することができます。
急に意識を失って後で戻るという、いわゆる「失神」を起こす状態を「失神型めまい」と表現することがありますが、これは、めまいそのものとは、やや異なります。
身体の“見当識”の障害で
私たちには、空間における自分の身体の状態を認識する力(見当識)があります。目を閉じていて も、地面に対して、頭や胴体や手足がどのような位置にあるのか、ひっくり返っているのか、横になっているのかということもおおよそわかりますね。この見当 識に障害が起こって目がまわったり、くらくらしたりするのがめまいというわけです。
それは、頭の位置や身体の姿勢に関する情報が脳に入り、さらにその情報がお互いに調整されて「結論的」に認識できる、ということです。まずはその情報についてご説明します。
3つの情報で認識
通常、私たちは次の3つの情報をキャッチし、脳がこれを総合することで空間における自分の身体の位置関係などを認識しています。
(1)平衡感覚
1つめは平衡感覚です。これは耳の奥にある「三半規管」(図参照)で認識します。三半規管は、内部が水で満たされたパイプで、前後・左右・上下の動きを感知するため、左右両方に3本ずつあります。頭が動くと必ず水が動きます。その水の動きや流れを神経がキャッチして脳に伝えます。
(2)手足の状態
2つめは、手足の筋肉と関節からの情報です。重力の変化は、必ずどこかの筋肉を緊張させます。手足の状態(伸びているのか緩んでいるのか、曲がっているのか)は、常時、脳に伝えられています。
(3)視覚
3つめは視覚です。周囲の動いているものの速さや方向が視覚情報として脳に伝えられます。
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これら3つの情報が脳に伝えられると、脳はこれらの情報を処理して、空間における自分の身体の状態を理解するのです。
「くるくるするめまい」
くるくると目がまわる回転性めまい |
平衡感覚は三半規管から神経(平衡神経)を通じて脳に伝えられますが、平衡神経に障害が起こると、くるくると目がまわるようなめまい(回転性のめまい)を引き起こします。
三半規管の水の動きの情報は、前庭神経を通じて脳の中に入ります。この情報は、小脳や大脳などでつくられた広いネットワークで処理されます。この水の動 きが乱れたり、あるいは間違って伝えられたりして、筋肉や関節、視覚から入る情報との間に“ずれ”が生じたときに、脳が情報を処理できなくなって「めま い」が起こります。
この種類のめまいで最も多いのは「良性発作性頭位めまい症」です。
(1)良性発作性頭位めまい症
三半規管のなかに、普段は静かにじっとしている耳石という小さな石があります。その石が動き出し、重力によって三半規管内を移動することで、水が動きだ します。その水の動きを神経が感知して脳に信号を送ってしまうため、頭は動いていないのに動いているように感じてしまい、めまいが起こるのです。
耳石が重力によって三半規管内を移動してしまうのは、三半規管の方向と頭の角度が、重力に対して同じ方向にそろってしまったときです。頭の位置が問題になります。
そのため、この型のめまいの多くは、朝の起床時に起こります。あわてて起きようとするとまた目がまわるというように、縦方向に頭が動くことによってめまいの「発作」が引き起こされます。
ほとんどの場合、三半規管のなかでも後半規管内を耳石が動くことで症状が現れます。病名に「良性」とついているのは、これと似た症状を起こす腫瘍などの「悪性」の病気と区別するためです。
良性発作性頭位めまい症の診断は、診察で簡単にわかります。診断がつくと、診察後に独特な体操(エプリー法など)をおこなうのが一般的な治療法です。こ の体操をおこなうと、劇的に症状が改善する患者さんもいらっしゃいます。
(2)メニエール氏病
めまいと同時に耳の聞こえの悪さも起こるメニエール氏病 |
メニエール氏病は、良性発作性頭位めまい症とよく似た、回転性のめまいを起こします。しかし原因は異なり、三半規管内の水が増えることによって起きま す。この水は聴覚器官(蝸牛)と共有しているため、メニエール氏病の場合には、めまいと同時に聞こえの悪さ(難聴)も起こります。
メニエール氏病の発作は点滴や服薬による治療で一旦は改善しますが、繰り返し起こることが特徴です。発作を繰り返すたびに難聴が進行することが多いので、 「メニエール氏病かな?」と感じたら最初から耳鼻咽喉科専門医を受診しましょう。
メニエール氏病とよく似た病気に「突発性難聴」があります。めまいとともに難聴が起き、聞こえの悪さが比較的長く続くものです。この場合も、耳鼻咽喉科を受診することが必要です。
それ以外の原因には…
その他、かぜの後にめまいが長く続く「前庭神経炎」、ヘルペス・ウイルスが原因となり顔面神経麻痺と痛みやめまいが起こる「ハント症候群」、中耳炎が内耳に広がって起こるめまいなどもあります。
めまい、特に回転性のめまいは吐き気をともなうことも多く、血圧も上昇して大変苦しいものです。我慢せず、できるだけ早く受診するようにしましょう。
脳卒中が原因の場合も
■こんなときは緊急に受診を■くるくるするめまいと同時に… |
急激に始まるめまいのうち、3~5%は脳卒中(脳出血、脳梗塞)などが原因です。この症状は、 脳の中心部分にある脳幹や小脳内で出血や血管が詰まった場合などに起こります。脳幹や小脳は平衡神経と密接な関連を持っている器官ですので、ときに平衡神 経の障害によるくるくるするめまいと似ていることも、めずらしくありません。同時に、しびれや脱力感、ろれつが回らないなどの症状があれば脳卒中の可能性 があり、緊急に救急病院や脳神経外科などを受診する必要があります。
慢性的に脳内の血管が狭まっていくことで発作的にめまいが起こる「椎骨脳底動脈血流不全症」いうものもあります。めまいの主要因のひとつと考えられてい た時期があり、読者のみなさんのなかにも、そのような説明を受けたことがある方がおられるかもしれません。しかし最近、専門家のなかでも「確実に椎骨脳底 動脈血流不全症の診断をつけられる患者さんは、ごく一部に限られているのではないか」という意見が多くなってきています。
もともと、めまいは病気として明らかな異常を指摘しにくい病気です。一方、耳鼻咽喉科や脳神経外科、神経内科など、めまいの診療をする各科の考え方も違っており、診断のために使われる器械も異なっています。
その結果、検査はしたけれども原因がよくわからず、患者さんに説明しづらい場合(そしてそういう場合がとても多いのです)、困った専門家がいろいろな病 名をつけた歴史的経緯があります。「椎骨脳底動脈血流不全症」も、そういったものと考えてよいでしょう。
原因はさまざま、慢性のめまい
めまいではなく心臓病や自律神経失調症にも注意 |
くるくると目がまわるようなめまいとは別に、「ふらつき」「よろめき」などと表現される慢性のめまいもあり、原因となる病気はさまざまです。
平衡神経にできる腫瘍やできものに「聴神経腫瘍」があります。脳のまわりをつつむ髄膜に「髄膜腫」ができる場合もあります。これらの腫瘍は、いずれも ゆっくり平衡神経と聴神経を破壊・圧迫し、「ふらつき」「よろめき」などのめまい症状を起こします。幸い、腫瘍はいずれも良性ですが、気づかないうちに大 きくなると平衡神経や聴神経だけでなく、脳幹を圧迫して致命的経過をたどることがあります。そうなる前に診断がつけば、手術で完治しますし、完治はしなく とも腫瘍が大きくなることを抑制するガンマナイフ治療(放射線で体内の腫瘍を焼いてしまう)などで改善します。この治療は、公的医療保険でおこなえます。
また、脳幹や小脳などの中枢神経の変性(萎縮したり、神経細胞が死んだりすること)が原因で現れることがあり、その代表的な病気は「脊髄小脳変性症」で す。この病気は遺伝によって発病することもありますので、親や兄弟によく似た症状の方がいれば注意が必要です。
いずれにしろ、慢性的にめまいが続くようなら、神経内科や脳神経外科などを受診する必要があります。
つらい症状は受診し相談を
最後に、私たちが日ごろ「めまいがした」と表現することが多いのですが、本当のめまいとはやや異なる病気についてふれます。「立ちくらみを主としたもの」と、「立ちくらみのないもの」というふうに分類すると、わかりやすいと思います。
「立ちくらみ」は、体内の環境をととのえたり、生命を維持するためにはたらいている自律神経の機能が障害を起こして出る症状です。自律神経のはたらきを 妨げる病気や薬などに注意が必要です。一方、「立ちくらみのないもの」は自律神経とは直接関係しないものです。たとえば、急な「不整脈」や「徐脈」の症状 で脳へ血流が届きにくくなったときなどにクラッときたりするわけです。
いずれも、つらくて自分でコントロールできる症状ではないため、日常生活にさしさわります。内科や神経内科などを受診しましょう。めまいは昔から多くの 人たちが悩まされてきたようで、全国各地、さまざまな方言で呼ばれています(カコミ参照)。
症状のある方は遠慮せず、医療機関にご相談ください。
地方によって呼び名が違う「めまい」の表現◇「ふらふらして倒れそうな状態」を表す言葉 ◇「目がまわっている状態」を表す言葉 |
いつでも元気 2011.4 No.234