特集1 “国民皆保険”の時代になぜ 経済的困難で71人死亡 全日本民医連「2010年国保など死亡事例調査」
全日本民医連は三月二日、都内で記者会見。「二〇一〇年国民健康保険など死亡事例調査」の結果を発表。経済的理由で医療を受けられずに亡くなった人が、わかっただけで七一人にのぼりました。同様の調査は、今回で四年目です。
事例は民医連加盟事業所を通じて寄せられたもの。二〇〇九年調査の四七人を超え、過去最多となりました。
病気が原因で保険証持てず
「一度も保険に入ったことがないと思われる人もいた」と全日本民医連の長瀬文雄事務局長(中央=記者会見で) |
最年少は東京都の三二歳男性。〇九年一月、糖尿病の合併症で喉のどのかわき、吐き気などを訴え て緊急入院。重症のぜんそくのために高校を中退し、定職につけず、無保険になっていました。病気が原因で、治療に必要な健康保険証を手にできなかったので す。その後、アルバイト・日雇い労働を転々とし、〇九年一二月までネットカフェ生活。蓄えがつき、生活保護を受けている父親のもとへ転がり込んでいまし た。入院後一〇日で亡くなりました。
神奈川県の五六歳男性は自営業。仕事がないため国保料を滞納し、その結果、医療費を医療機関の窓口でいったん一〇割払わなければならない資格証明書を発 行されていました。腹部に違和感を感じながらも我慢しつづけ、昨年三月、腹痛に耐えられなくなって受診したときには膵臓がんが進行。市役所に国保証発行を 求めても「九〇〇〇円払わないと保険証は出さない」の一点張り。娘が五〇〇〇円払って、ようやく五月末までの短期保険証を受けとることができました。三カ 月後の六月に息を引き取りました。
正規保険証あっても22人死亡
驚くべきことにこの調査では、正規の国保証を持っているにもかかわらず亡くなった人が二二人もいました(表2)。群馬の五八歳男性はその一人です。C型肝炎ウイルスによる肝硬変で亡くなりました。昨年二月より受診を中断。職員が電話をかけ、受診をすすめていましたが、断っていました。
昨年一一月に吐血し、救急搬送されたその日のうちに永眠。入院時も妻は支払いを心配し「家賃の支払いがたいへんだから、食事は出してほしくない」と訴え ました。男性は非正規雇用で生活が困窮。九月にも吐血していましたが、受診していなかったといいます。調査結果は、高い保険料や窓口負担などが原因とな り、いのちを守るはずの国保が十分機能していないことを如実に示しています。
表1 国保短期証、資格証明書、無保険などの死亡42人 | 表2 正規の保険証で亡くなった29人 |
最年少は32歳、事例数過去最多に
保険料アップを指導する国
国保料は上がり続けています。一人あたり平均三万九〇二〇円(八四年)だった国保料は九万六二五円(〇八年)へと二倍以上に。国が国庫負担を減らしたことが大きな原因。国は、国保財政に対する補助率を四九・八%(八四年)から二四・一%(〇八年)へと半減させました。
さらに一月、政府は保険料算定方式を「旧但し書き方式」に一本化する方針を決め、国保料アップに拍車をかけています。
「旧但し書き方式」とは収入から基礎控除(三三万円)だけを差し引いて所得とみなし、国保料を算定するもの。収入から基礎控除、扶養控除、障害者控除な どを差し引いて所得とし、国保料を計算する「住民税方式」に比べ、扶養家族や障害者などを抱えている世帯ほど保険料が上がりやすい特徴があります。現在、 住民税方式は三七自治体と少数ですが、大都市に集中しており(表3)、影響は小さくありません。
東京二三区はことし四月、住民税方式からの変更を予定。豊島区では年収二五〇万円・四人家族の場合、一二万七六八〇円から二二万七九九六円になると試算されています(二〇一一年度は経過措置で一五万二七五九円)。
滞納者の財産差し押さえ拡大
表4 急増する市町村による差し押さえ |
(厚生労働省保険局国民健康保険課調べ) |
さらに国保料滞納分にあてるため、加入者の財産を差し押さえたり、差し押さえ物件をインターネットで公売するなどの手法をとる自治体が広がっています(表4)。
本来、給与や年金などの生計費は、法律で差し押さえが禁止されています。しかし銀行に振り込まれた途端に「資産」などとみなして、差し押さえる動きが横行しています。
まるでサラ金のような差し押さえの裏には、国の政策が。厚生労働省の国保課長補佐が〇八年一二月、鹿児島県内で講演。国保滞納者の車に「タイヤロック」 をかける手法を賞賛しました。「滞納分を払わなければ、タイヤロックを解除しない。必需品なので慌ててお金を払いに来る人が多くなると思う。タイヤロック は簡単にできる。特に地方における大きな収納ツールになっていくだろう」とまで述べています。
そして国保料の収納率が九〇%を切ると国保への国の補助金を減らすしくみまで。こうして自治体を財産差し押さえにかりたてています。しかしその結果どう なったか。国保課長の言葉とは裏腹に、国保料の収納率は〇八年度、額で初めて九〇%を下回りその後も八八・〇一%と低下(〇九年度)。厳しく取り立てた り、保険証を取り上げても収納率は改善しません。高すぎる国保料こそ問題にし、国の責任で引き下げるべきです。
運動の力で国保改善を
国保料アップや、保険料滞納による国保証の取り上げ、財産差し押さえなどが広がるなか、逆に運動の力で自治体を動かし、制度改善へつながった自治体も生まれています。
広島市では、「国保をよくする会」などが資格証明書を発行しないよう要請し続け、〇八年、資格証明書の発行がゼロに。福岡市でも「国保をよくする会」の 運動などで、今年、一人あたり平均二〇〇〇円の保険料引き下げを実現しました。東京都清瀬市では市社会保障推進協議会などの要請を受け、資格証明書に「病 気や負傷などの場合は保険証を交付する」と明記するなどの変化も。
前述の民医連調査では、食欲不振で顔色も悪く、身体がやせていっても受診を拒否し、その後胃がんでなくなった八四歳の男性の例も報告されました。この男 性は保険料を滞納しておらず、正規の後期高齢者医療制度保険証を持っていましたが「医療費が払えない」と受診を拒んでいた例でした。
この四月、全国の多くの自治体で、地方議員や自治体首長を選ぶ統一地方選挙がおこなわれます。保険料を引き上げたり、厳しい取り立て、制裁を推奨する国 に追随する自治体でいいのか。議員・首長候補を選ぶ私たちの視点と選択が問われています。
文・多田重正記者
特養待機者42万人安心して介護受けられる基盤整備を介護保険施行から一一年。「介護の社会化」をかかげ、二〇〇〇年にはじまった介護保険ですが、「介護の社会化」にはほど遠く、介護が十分受けられなかったり、介護保険料や利用料が重荷となって、少なくない利用者、家族を苦しめているのが現状です。 利用を阻むハードル幾重も さらにサービス利用を阻むハードルが幾重にも存在していることが、問題をいっそう 深刻にしています。まず、要介護認定の申請が必要で、申請しても身体の状況に見合った要介護度が認められるとは限らない。そして要介護度ごとに限度額が決 まっており、必要な介護を受けているだけでも限度額をオーバーし、保険外負担が発生している人もいます。
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いつでも元気 2011.4 No.234