“健康”という窓から国づくりを 医療・介護再生へともに行動を 原中医師会長と藤末民医連会長が会談
『元気』二〇〇八年八月号にご登場いただいた、原中勝征・茨城県医師会長(当時)。一〇年四月に日本医師会長に就任、再び全日本民医連会長との会談が実現。日本医師会館でおこなわれた、藤末衛・民医連会長との会談の内容を紹介します。
国民皆保険制度は日本の宝物
藤末 衛 全日本民医連会長 2010年民医連会長に就任。兵庫・神戸健康共和会理事長。内科医。 |
藤末 原中先生は日本医師会長に就任された直後に「国民に開かれた、国民を守る、国民の味方になる医師会を目指す」とおっしゃいました。これまでにない立場だと受け止めました。
原中 “ヒポクラテスの誓い”というのがわれわれ医師の原点だと、私はいつも言っています。人種や老若男女で分け隔てせず、目の前の患者さんやけが人を平等に助けるという精神です。
藤末 そういう意味で、国民皆保険制度が大切だと…。
原中 国民皆保険制度は日本の宝物だと私は思っています。国民の安心・安全を実質的 に守ってくれている制度です。実際、G7(先進7カ国)の中で最低に近い医療費で、世界一の長寿国をつくり、しかも周産期死亡率が低いという、“効率的で よい医療”をやってきた。その基盤に、いつでも、誰でも、どこでも受診できるという国民皆保険制度があると思います。
藤末 政府の新成長戦略の中に位置づけられた医療ツーリズム(注)などについても、痛烈に批判されていますね。
原中勝征 日本医師会長 2004年茨城県医師会長、2010年日本医師会長に就任。医療法人杏仁会理事長、社会福祉法人筑圃苑理事長。 |
原中 人間の体や健康に直接関わる医療を、利益の対象、商売道具にしてはいけないと強く思います。混合診療の拡大にもつながる。そうなれば、お金のあるなしで受けられる医療が差別されてしまいます。そんな方向には反対です。
藤末 現状でも保険料や窓口負担が払えないために、医療を受けられない方が増えてい ます。民医連は無料・低額診療事業に積極的にとりくんでいますが、経済的困窮でギリギリまで受診をがまんしていた事例がたくさん報告されています。介護を 受けられない事例などもまとめ、発表しましたが、国民の医療・介護をめぐる状況がどんどん深刻になっています。
原中 とくに窓口負担が三割になってから初診の患者さんの重症化が目立つようになったでしょう? 保険料を払った上に、窓口負担を三割も払うのは、もう社会保障とはいえないですよ。
窓口負担はゼロに
原中 私たちは、諸外国で実施されている公的医療保険、とくにヨーロッパ型を一つの参考にすべきだと考えています。そして窓口負担はゼロというのが理想です。
藤末 社会保険料など企業の負担が小さすぎる、ここに応分の負担を求めるというのが私たちの主張です。二〇代の若者の半分が非正規雇用というのも異常です。
原中 正規雇用を増やして、労働分配率を上げる必要はあるでしょうね。労働者派遣法 を改正して、緩めすぎた規制を強化する。安定した普通の生活ができる環境を、大至急つくらなければいけません。生活が安定しないと、若者は結婚もしない し、子どもも生まない。残虐な事件の多発、自殺者の増加も気がかりです。こんな社会でいいのか、国民が自身の問題として考えなければいけない。マスコミが 現場の実態や正確な知識にもとづいて情報提供してくれればいいのですが。
藤末 “医者対患者”、“勤務医対開業医”といった図式をマスコミは熟慮せずにつく りがちです。しかし、私たち民医連は「医師の絶対数が不足している」と訴えて「医師増やせ」の運動の一翼をにない、かつてないほどの共感と連帯を広げてき ました。地域医療を守るために、今後も積極的な役割を果たしていこうと思います。
原中 医療提供者が一つになって、医療崩壊を防ぐ視点が重要ですね。医師会は、国民の健康や生命をどのように守っていくかを真剣に考える団体です。医師の偏在、診療科の偏在も、みんなで協力して是正していく必要があります。
藤末 医師の偏在の是正などは、官僚的に強制しようとしても無理でしょう。医師の使命感に依拠したり、自発性を大切にしながらとりくまなければ。
神戸では新型インフルエンザ対応の経験から、パンデミック(大流行)対策として医師会の呼びかけで東灘区内の民間病院が懇談し、「病院と開業医が結束し て患者さんを守ろう」と議論されました。地域住民の健康を守るためとなると、勤務医も開業医もいっしょに議論したり、協力したりできるんです。
国民みんなで語り合うとき
原中 いままでの医師会のスタンスは、医療費だけを論議していればいいというよ うなところがあった。これからの医師会には、今後どうすれば国民皆保険制度を維持できるのか、医療や介護の財源はどうあるべきかについて、国民といっしょ に話し合い、考えていくスタンスが必要ではないかと思います。医療従事者だけでもダメ、政治家だけでもダメ、現場を知らない官僚だけではもっとダメ。少子 化の問題も、雇用や社会保障の問題も、国民みんなで真剣に語り合い、議論していくべき時期です。
藤末 “健康”という窓から大きく“国づくり”というところまで展望していかないといけないということですね。
民医連も二〇〇八年に「医療・介護制度再生プラン(案)」を出して、財源にもふみこんだ積極的な提言をしています。民医連は、日本医師会との共同した行 動を組織としても希望しますし、それぞれの地域で医師会員として積極的な活動をすすめたいと思います。
いつでも元気 2011.2 No.232