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いつでも元気

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特集1 「新システム」で保育はどうなる? -待機児童解消の名で市場化ねらう

 現在、全国で 潜在的には100万人ともいわれる保育 所の待機児童。待機児童とは、認可保育所に入所を希望しているにもかかわらず、入所できない子どものこと。保育所の数がたりないことが原因です。
 ことし、待機児童をなくすことを目的に「子ども・子育て新システム」法案が国会に上程される予定です。この「新システム」で、待機児童はゼロになる? 保育制度はどう変わる? (文・宮武真希記者)

「2年待っても入れない」

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山田真由美さんと次男の陸証くん

 「一昨年も昨年も、認可保育所に入所できなかった。どうしてこんなに待たされるの?」
 東京都三鷹市に住む山田真由美さん(38)は二児の母。長男は認可保育所に入所していますが、次男は“待機児童”です。二〇〇八年に次男を出産、育児休暇を経て仕事に復帰しようと認可保育所に入所を申し込みましたが、二年たったいまでも入れません。
 ケアマネジャーの資格を持ち、現在は有料老人ホームに併設されている通所デイサービスで相談員兼介護員として働いている山田さん。「少しでも早く復職し たい」と入所できる保育所を自力で探しました。結局、空きがあったのは、無認可の保育施設。二万円の入所金を支払いました。保育時間は午前八時三〇分~午 後五時三〇分まで、月の保育料は七万二〇〇〇円です。
 「保育時間が短いためにフルタイムで働くことができず、『時間短縮勤務』です。午後五時三〇分以降、保育時間を一時間延長するには、月額でさらに一万円の延長料金が必要です。高すぎて、とても払えません」

 

自治体は“24条”満たせず

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福岡市保育協会・保育のひろば
アドレスhttp://www.hoiku.or.jp/

 二〇一〇年四月、三鷹市内にある認可保育所への入所申し込み数は九四八人、そのうち半数の四七四人が認可保育所に入所できませんでした。
 市は、「待機児童の解消」として認証保育所の増設、定員の「弾力運用」などで待機児童の受け入れ人数を増やしています。市内の社会福祉法人みたか小鳥の 森保育園(認可)では、市から「ひとりでもふたりでも定員を増やせないか」との相談をうけ、二〇〇七年四月から要望の多い一歳児の定員の増員を実現しまし た。施設内の限られたスペースをやりくりして保育室として活用。苦肉の策で二人分増員できる施設基準をクリアしました。しかし、児童福祉法第二四条に明記 された「市町村は、児童の保育に欠けるところがある場合において、保護者から申込みがあったときは、それらの児童を保育所において保育しなければならな い」を満たすことはできず、根本的解決にはなりません。

 

新システムは国の責任放棄

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大阪保育運動連絡会作成のパンフレット
■問い合わせ(06-6763-4381)

 政府はいま、「子ども・子育て新システム」(以下、新システム)の導入を急いでいます。保育も営利企業のお金もうけの対象にする内容で、ことし国会に法案を提出し、二〇一三年から実施する方向です。
 これまでは、国が設ける職員数と設備や施設の基準を一定以上満たすことで、保育の質や水準を確保していました。「新システム」は、幼稚園と保育所を一体 化させ、「こども園」と名称を変更。運営に企業も参入できるように国の基準をなくすものです。自治体は「要保育度」を一人ひとりの子どもについて審査し て、必要な保育時間を認定するだけ。保護者は、その「要保育度」に応じて、保育を受け入れてくれる「指定事業者」を自分の足で探し回り、指定事業者と個別 に契約を結んで保育料を支払うという「直接契約制」のしくみです。
 「新システムは“あなたには必要な時間数を認めるので、自分で保育所をみつけてください”という制度。これは“契約”の名で導入された介護保険制度と同 じしくみです」と前出の保育園園長。「現在の制度では、保育料は保護者の所得に応じた金額を負担する“応能負担”のしくみです。これが新システムでは、所 得に関係なく一律の保育料を支払う“応益負担”になります。保育料はいまより高くなり、保護者の負担が多くなります」
 保育事業者も困難を抱えます。直接契約を結んでいる親からの保育料がきちんと納入されなければ、安定的な保育所運営はできなくなるからです。
 「いま私たちは、各家庭がいくらの保育料を支払っているのかということを知らされず、保育をしています。ところが新システムになれば、保育料を徴収する ことにも、力を割くことになると思います。どの子もおなじように保育したいと思っても、親が保育料を支払えなければ、運営が困難になるのです」と前出の園 長は言います。

アピールや請願署名運動ひろがる

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11月14日に開かれた集会後のパレード(上)/会場には“公的保育の充実を”“市場化反対”のプラカードや横断幕が(下)

 各地の保育運動団体では、新システムの中身を知らせるチラシやパンフレット、ホームページで見ることができる動画などを作成、「新システム」反対の声をあげています。
 二〇一〇年一一月一四日、「保育所を増やして」「安心して子育てできる環境をつくって」と願う保育労働者や父母らが東京・日比谷野外音楽堂で集会を開き ました。集会には全国から約四八〇〇人が参加。「新システム」の本質をすべての国民に知らせて、「新システム反対」と「公的保育制度の拡充を求める自治体 意見書採択」の運動をすすめることを呼びかけました。
 保育研究所の逆井直紀さん(常務理事)は「保育制度の“解体策”は、約二年前から社会保障審議会の少子化対策特別部会で準備していたもの。そこに、政権 党となった民主党の“幼保一体化”構想が加わり、新システムとして浮上してきました。新システムが導入されれば、保育に対する市町村の公的責任は、補助的 なものでしかなくなります。待機児童が多い地域では“どこの施設とも契約が結べない”という事態が生まれ、待機児童解消には結びつかないでしょう」と話し ます。
 伊藤周平・鹿児島大学教授ら五名が代表呼びかけ人となった「新システムに反対し保育をよくするアピール」への賛同者は、一二月二〇日現在、三五一一名になっています。
 集会を主催した「保育制度の解体を許さず保育の公的保障の拡充を求める大運動実行委員会」は、現行制度のもと、国・自治体の責任で保育所を増設し、すべての希望者に保育を保障することなどを求めて国会請願署名にとりくんでいます。

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安心できる保育制度は公的保障の充実でこそ実現

増設・拡充は国の責任で

genki232_02_07  二〇〇四年、国は自治体に対して補助していた公立保育所の運営費を一般財源にふくむものとしてひとまとめにし、実際には運営費を減らしました。地方交付金 全体が削減されるもとで、多くの自治体が保育予算を減らさざるをえなくなり、公立保育所を「増やしたくても増やせない」状況になっています。
 新システムは、こうした現状も口実にして導入されようとしています。しかし、国は責任を持たず、安上がりに保育を済ませようというのでは、待機児童解消 にはなりません。受け入れ人員、職員配置、安全などにかかわる国の基準も自治体まかせ。その上、保育分野への営利企業参入まで許せば、お金のある人はサー ビスの充実した保育所に、お金のない人は狭いスペースに押し込められたり、そもそも子どもを預けられないという事態がすすみかねません。 
 親の就労に関わりなく、必要な子どもに保育を保障する現在の制度(措置制度)を廃止し、介護保険と同じ直接契約制度を導入することにより、利用者とさま ざまな事業者との“契約”を可能にして、保育の市場化をねらう新システム。これを導入すれば、国や自治体で「待機児童」の人数を把握できなくなるため、 “究極の待機児童解消策”とも言われています。自公政権がすすめてきた「構造改革路線」の延長線上にあり、国民の安全やいのち、健康を守るために設けた国 の最低基準(ナショナルミニマム)を破壊するものです。
 新システムが、橋本・小泉政権以来の構造改革を引き継いでいることは明らかです。政権は代わっても、福祉まで市場拡大の対象とし、国の責任を投げ捨てる改革の方向は変わっていないのです。
 前出の山田さんは、一日も早く、次男が認可保育所に入れるようにと願っています。「出産前と同じようにフルタイムで働きたい。いまの保育料は高すぎる し、このままでは働き続けることができません。待機児童解消に、国が国の責任で希望する人数に応じて認可保育所をつくるべき。安心して働けるようにしてほ しい」

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いつでも元気 2011.2 No.232