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いつでも元気

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胃がん早期発見! 「3年間胃検診せず」を反省 体験記

 平 修(神奈川県在住)

genki231_05_01 昨年4月、胃がんと宣告されて手術を受けました。いまも療養生活中。まったく予期していませんでした。
 民医連職員として30年以上働いた者が3年間胃検診を受けず、その間に胃がんにかかったのです。恥を忍びつつ、読者の皆さんの参考になればと体験を書きつづりました。
 在職中、同じ民医連の仲間の在職死に何度も接してきました。「要精密検査」の指示を無視した人。まったく検診を受けていなかった人も。そのため、当時勤 めていた法人では30年ほど前から「40歳以上人間ドック」を実施。私も在職中は定期的に受けていました。
 ところが、胃検診は何度やっても「異常なし」。定年退職後も仕事の手伝いをしていましたが、それも離れてからは自治体の制度検診以外は受けていませんで した。自覚症状もなく、食事もお酒もおいしかったせいか、「何がなくとも毎年のがん検診」から遠ざかっていました。
 そこへ昨年2月、かかりつけの民医連・逗子診療所の所長が「しばらく胃内視鏡検査をしていないので、ぜひ」とかなり強くすすめられ、いやいや検査を受けたのでした。

4月、胃がん見つかる

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写真右下の隆起した部分が胃がん

 内視鏡検査が始まって間もなく「がんが見つかった」。画面上に病変が(写真)。検査終了後、医師は次のように告げました。
 「早期がんだが内視鏡で摘出するのは困難。開腹手術が必要」「入院・手術をする病院を決めましょう」
 突然のことで一瞬「どうしよう」と不安になりましたが、「宣告された以上、次の手順をどう踏むか。手術を受けることを目指し、病院を決めなければ!」と考えました。
 検査の翌日から、20年ほど前に働いていた川崎協同病院を訪ねて受診。胃X線検査や、胸・腹部CTなどを受け、今後の方針を一気に決めました。主治医は 「他への転移はみられない」と。4月末の入院・手術に決まりました。

 

入院、詳しい説明受ける

genki231_05_03 入院し、手術と治療にあたる外科医師から次の説明を受けました。
【診断】
◆胃がん。病変は胃壁の範囲にとどまっており、リンパ節や他の臓器には広がっていないと思われる
【治療】
◆全身麻酔下で、幽門側胃切除術をおこなう予定(図1)。取り残しのない「治癒切除」をめざす。胃の出口側を6割程度切除し、残った胃と十二指腸をつなぐ
◆胃周囲のリンパ節も取り除き、転移がないか、詳しく検査する
【治療の見通し】
◆術後、胃壁やリンパ節などの組織検査をおこない、その結果を見てあらためて説明する
【術後の予定】
◆つなぎ目がきちんとつくまでの間、数日間、口から飲んだり食べたりはできない。必要な水分・栄養・投薬はすべて点滴でおこなう
◆数日後にX線検査をおこない、縫い合わせた部分を確認
◆経過が良ければおもゆを始め、3分粥、5分粥…全粥へと変更
◆縫合に使った糸やドレーン(手術の際、縫合部から腹部に残った血液などを外に出すための管)は、順調であれば7~10日後に抜く
◆全粥が半分食べられて全身の状態も回復すれば、退院の時期を相談

手術当日

 ストレッチャーで手術室に入り、腰に麻酔の注射をされたと同時に眠りにつき、手術が終わって病室に戻った後、意識が戻りました。手術は予定通り。術後、医師から家族が受けた説明は「手術は成功した。転移は見られなかった」とのことで、ひとまず安心しました。
 しかし酸素吸入と点滴を施され、尿道と手術個所にそれぞれ導尿の管とドレーンを入れた状態。持続麻酔薬を注入する管も装着したまま一晩明かしました。縫合個所が痛く、1時間おきくらいに目覚めていました。

術後翌日から離床

 翌朝目覚めると、縫合部に痛みはあるものの、何とか耐えられたことは幸いでした。
 術後に現れる腸閉塞などの合併症を防ぐために「早期に歩くことが必要」といわれ、午前中から立ちあがる努力をはじめました。しかし縫合部に痛みが走り、 点滴針を差し込まれた腕の周辺も強いしこりになって、腕を曲げることもつらい。やっとの思いでベッドを離れて立ちあがり、病棟の廊下を歩きましたが、この 苦痛はしばらく続きました。
 3日後、造影剤を使ったX線検査で胃の接合部の状態を点検。結果は良好。麻酔と尿道の管を外すと、いっぺんに楽になりました。少量ですが、水分もとれる ように。点滴台を転がしながら、自分で歩いてトイレに行き、排尿できるまでになりました。
 4日目には腸が働き始めたのか、ガスが初めて出ました。
 5日目の夕食より、おもゆを開始。その後1日ごとに3分・5分・7分・全粥となり、8日目より常食に。水のようでしたが、初めて排便がありました。しか しトイレの便座に座って排便を促すことは、傷口の痛みが強く、苦痛でした。
genki231_05_04 次の日に縫合部のドレーンが抜かれ、プリン・ヨーグルト・ビスケット・チョコレートなど、軽く溶けやすいものを食事と食事の間にとるよう指導を受け、楽しみが増えました。
 シャワーを浴びてよいといわれ、浴室へ。傷口を見るとへそから上に12・5センチもの縫合跡があり、生々しく、びっくりしました。
 9日目。主治医から「組織検査の結果、周辺へのがん転移はない」とのうれしい知らせが。点滴も中止となり、すべての管が体から離れ、13日目で退院しました。
 「病理組織検査報告書」には「早期胃がん(Stage IA)」であり、粘膜下層の下3分の1程度まで浸潤していたと書かれていました。がんの進行度は、図2の左から2番目でした。

医療スタッフに感謝

 まず感謝しなければならないのは、検査を「無理やりすすめてくださった」診療所の医師をはじめとするスタッフのみなさんです。
 川崎協同病院では昔の友と出会ったり、医師、薬剤師、看護師としてその二世が働いている姿に接し、ずいぶんと元気をもらい、「ここなら安心して任せられる」との気持ちが持て、励みになりました。
 さらに、適宜経過と治療方針を伝えてくれた医師や看護師さんたち。民医連ならではの診断・治療を受け、療養生活を送ることができたことに感謝です。
 30年以上前にもこの病院に入院しましたが、療養環境は変化していました。スタッフの明るさ、テキパキとした動きと受け答えや、設備なども大きく変わり、安心して療養できると実感しました。
 ただ、術後に個室から6人部屋に移ってからのこと。消灯時間は以前に比べ30分延びていましたが、床頭台にはカード式テレビがあるため、消灯時間を過ぎ てもテレビを見ている患者さんがいると「明るい」のです。廊下の照明も日中と同じで、部屋にまで広がっており、これらの点は配慮が必要だと思いました。

退院後

 退院後半年のCT検査でも、術後の合併症などはなく、順調に快復しています。退院後の療養生活についてご紹介します。

(1)食事の変化
 1度にとれる食事量が限られているため、食事と食事の間に軽食をとるようすすめられていますが、私の場合、30年以上前にタバコをやめた際、体重の増加 対策で主食をずいぶん減らしたことが定着し、胃が満腹感を要求しなくなっており、その必要はありませんでした。この点は胃が小さくなっても変わらず、幸い だったかもしれません。
 チーズ、ヨーグルトや、鉄分補給のためレバーを積極的にとるなど、食事の好みが一変し、あまり食べなかったものを食べるようになってきています。現役時 代にはできなかったことですが、ゆっくりと落ち着いた食事がそうさせているのかもしれません。噛み砕けない繊維質のものは飲み込まず、出しています。
 食事量がなかなか判断できず、食べ過ぎると直後に胃もたれが起こり、すぐ横になっていた時期もありましたが、半年過ぎた頃からは食事量は術前近くに戻 り、体重もわずかですが増え始めています。あせらず、何でもおいしく、ゆっくりと食べることが大切だと思います。
 アルコールは退院後10日ほどたってビールを少し口にしましたが、うまいと思えず飲めませんでした。術後3カ月ほど経ってから休肝日を守りつつ、缶ビール(小)を1本飲んでいます。
 手術4カ月後に旧友と北陸へ旅に出かけ、疲れもなく、食事もほとんど食べられたことも喜びでした。

(2)基礎体力づくりが大切
genki231_05_05 9月の外来受診で主治医から「猛暑で術後の患者さんが再入院する例があった」と聞きましたが、私は幸い夏バテも起こさずにすみました。
 私はタバコをやめてから、30年以上体重64キロを維持してきました。また、3年前に仕事をやめて歩く距離が短くなったため、出かけるときは歩くことを 心がけてきました。トレッキングを楽しむことが目標だったからですが、一昨年秋は5000メートルを超える高地トレッキング(ネパール)にも出かけるな ど、少しばかりですが体力づくりを続けたことが、手術前の肺機能検査で担当技師が驚くほどの良いデータ(肺活量4・38リットルなど)になって現れたと思 います。体重などの推移は図3の通りです。
 食事の変化とともに体を動かすことが大切だと思い、努力を続けています。退院からひと月以上は縫合部に痛みが残っており、ゆっくり歩いていましたが、痛 みを我慢しながら積極的に体を動かし、いまでは走っても苦しさや痛みは感じなくなりました。術前と同じく、自転車も使わずに歩くよう心がけています。
 トレッキングはしばらくできませんが、昨年断念したチベット文化圏の旅(ブータン)を近いうちに実現することを目標に、体力づくりに励もうと思っていま す。体力づくりで目標を持つことは大切です。術後の順調な快復は、やはり基礎体力が備わっていたからこそだと思っているところです。

(3)ストレスを生まない
 ストレスを生まないようにするのは、現役時代であれば相当の苦労が必要だと思っていますが、ストレスを生み出すようなことはなるべくやらないよう心がけることが大切ですね。
 がむしゃらに働き、動き続けた40数年の生活を一変させ、あせらず、のんびりと静かに過ごしていきたいと願っています。

「運のよさ」を無にせずに

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エベレストをバックに筆者(09年、ゴーキョ・ピーク5360mから)

 退院後、ある医師から「3年も内視鏡検査を受けてなかったのに、がんが転移なしの状態で見つかって、運がよかった」とのメールが。まさに「運がよかった」の一言に尽きます。
 「自覚症状がなかった」と書きましたが、兆候はあったように思います。09年、ネパールでのトレッキングの際、5340メートルの峠越えから帰るとき、 突然食欲不振、下痢・おう吐が現れ、その後4日間「おかゆとじゃがいも」しか受け付けなくなりました。これがきっかけで体重が減ったと感じていましたが、 ふり返ると、それ以前にも体重が減っていました。
 今回、胃がんを体験し、病気の予防と早期発見の機会を自ら摘み取らず、定期的な検診を「何もなくて当然」との心構えで受け、「何かあったら早期の治療」 を受ける。こうした原点への回帰が本当に必要だと実感しています。
 私の入院・手術を知り、わざわざお見舞いに来てくれた皆さんと、電話やメールなどで励ましてくださった皆さんに感謝。6歳になったばかりの孫も「おじい ちゃんしゅじゅつがんばってね!」とのうれしい便りや電話をくれました。そして自宅から遠い病院を選んだにもかかわらず、足を運んで入院生活を支えてくれ た家族にありがとうといいたい。
 「運のよさ」を大切にし、あせらず通常の生活が送れるようになることを目指したいと思います。
イラスト・いわまみどり

いつでも元気 2011.1 No.231