元気スペシャル 見切り発車、プルサーマル 漁師町 の住民、立ち上がる 九州・玄海原子力発電所 写真家 森住 卓
24時間稼動し続ける玄海原発 |
リアス式海岸が連なる佐賀県東松浦郡は、風光明媚な景色が続く。かつて豊臣秀吉が朝鮮侵攻の拠点としたが、朝鮮半島との交流も盛んな地域だった。
玄海町に入ると、美しい風景をぶち破るように無機質なコンクリートの構造物が現れる。九州電力玄海原子力発電所(玄海原発)だ。敷地面積は八七万平方 メートル。一九七五年、電気出力五五万九〇〇〇キロワットの一号機が運転を開始し、現在四号機まで動いている。
原発関連交付金への“依存症”
45年間、原発に反対して住民運動を続けている仲秋さん |
全国初のMOX燃料を燃やすプルサーマルの運転は、昨年から三号機で始まった。プルサーマルと は、プルトニウムとサーマルリアクター(軽水炉)を組み合わせた造語。使用済みウラン燃料から取り出したプルトニウムと、燃えにくいウランを混ぜたMOX 燃料を通常の原子炉で燃やす。電力業界は二〇一五年度までに、愛媛県の伊方原発、静岡県の浜岡原発など全国の原発一六~一八基で実施するとしている。
地元の玄海町で原発計画当初から反対運動を続けている仲秋喜道さん(81)は、「MOX燃料の大がかりな実験を実用の軽水炉でいきなりおこなうのは危険 ではないか」と指摘する。「だが、住民は不安や警戒心、利害関係など複雑な感情が働き、『物いわぬ地元住民』にならざるを得ないのが実情だ」と仲秋さんは いう。
町には毎年、国から原発関連交付金が約一五億円入る。この額は町の総予算の約二〇%にもあたる。玄海町長は「交付金がなければ町は成り立たないのが現実 だ」と、原発関連交付金への重度の依存症になっていることを公言してはばからない。米軍基地交付金と軍用地料に依存する沖縄県内の自治体を想起させる。
白血病患者が11倍!?
原発の健康被害の心配がささやかれ、「上場(うわば)から嫁はもらうな」と噂されていると聞いた。「上場」とは東松浦半島の北部台地、唐津市の呼子、鎮西、玄海町、肥前町の玄海原発周辺のことだ。
さらにショッキングな報告がある。この地域は「白血病患者が全国平均の一一倍」という。厚生労働省の二〇〇八年「人口動態調査」によると、人口一〇万人 に対し全国平均は六・〇人、佐賀県は九・二人、唐津保健所管内は一六・三人、玄海町は六一・一人という驚くべき数字だ。
この問題を唐津市議会で取り上げた浦田関夫市議(61)は「因果関係ははっきりしない。しかし、放射能との関係を否定もできない」という。原発問題住民 運動全国連絡センターの伊東達也さん(福島県・浜通り医療生協理事長)は「もっと調べてみなければならない。二〇〇六年にチェルノブイリに行ったときに聞 いた話ですが、事故から一〇年も経ってから、がんや白血病が増えたのだそうです。同じようなことが起こっているのかもしれません」と指摘する。
危険な本末転倒
付近にある呼子町はイカの名産地。「事故が起これば海産物が大きな打撃を受ける」と、町内会こぞって反対 |
一〇月九~一〇日、唐津市で全日本民医連の原発・核燃サイクル問題全国交流集会が開かれた。
日本原子力研究開発機構労働組合委員長の岩井孝さんが講演し、プルサーマルについて以下のような問題点を指摘した。
▽MOX燃料をつくる再処理工場ではプルトニウムを大量に扱うことなどから、臨界事故・火災事故が起きる危険性が高い。従業員・周辺住民が重大な被ばくを受ける危険性が高まる。
▽MOX燃料をくわえた原子炉は不安定で制御しにくく、事故の危険が増す。日本のプルサーマル用MOX燃料のプルトニウム濃度は世界の実績よりもかなり高く、安全性が十分検証されていない。
▽MOX燃料は通常のウラン燃料に比べ、輸送中に事故が起こる可能性も高い。
▽MOX燃料は大幅コスト高になる。
▽使用済み燃料の処理方法は見通しが立っておらず、貯蔵され続けるため、将来にわたって被ばくの危険が増す。
岩井さんは「私はプルトニウムの使い方を研究していますが、軽水炉でMOX燃料を燃やすのはたいへん愚かなことだ」と述べた。「そもそもプルサーマル は、日本が持つプルトニウムを消費するための計画で、ウラン資源の有効利用などのためではないのです」とその本末転倒ぶりを警告した。
変化する住民意識
昨年、使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設計画が進んでいることを玄海町が認めた。隣町の旧呼子町地区・区長連絡協議会は、プルサーマルの中止にくわえて中間貯蔵施設建設反対を掲げ、佐賀県や唐津市に申し入れをおこなった。
昨年五月二三日、玄海原発対策住民会議が呼びかけた「MOX燃料搬入抗議集会」にも区長さんたちが参加した。その先頭に大森登至郎会長(71)の姿が あった。大森さんは自民党呼子支部長でもある。「プルサーマルのことを学者や専門家を呼んで学習した。そしたらとんでもねえことだとわかった。孫・子の代 まで被害が続く。風評被害でも起これば、海産物や観光も大打撃だ。中間貯蔵施設ができたら最終処分場にされてしまう」と語る。
同区長会で真っ先に反対したのは松尾楯男さん(76)だ。松尾さんは原発の建設工事にたずさわり、完成後も炉心内で働いた経験をもつ。線量計を持たさ れ、炉心近くまで入った。五分もしないうちに警報音が鳴りっぱなしになった。その経験から、原発の恐ろしさを「誰よりも知っている」と話す。
昨年、玄海町議選で仲秋さんたちが推す、原発対策住民会議会長の藤浦晧さん(日本共産党)が三位で当選した。「健康保険の問題や教育問題とともに、原発 問題へのとりくみが支持に繋がった。地道な私たちのとりくみが支持された」と仲秋さん。沈黙を強いられてきた地元住民の意識に、少しずつ変化が現れてき た。
■森住卓写真展「山の民の祈り パキスタン・カシミール地震被災地に生きる」のご案内 11月23日~12月2日コニカミノルタプラザ・ギャラリーC(新宿駅徒歩1分) |
いつでも元気 2010.12 No.230