(得)けんこう教室/逆流性食道炎/生活習慣の改善をこころがけて
森 智子 愛知・協立総合病院 消化器内科
最近、「胸やけ」がしたり、酸っぱいものが喉にこみ上げてくるような感じはありませんか? これらの症状が気になる場合、「逆流性食道炎」かもしれません。
逆流性食道炎とは
逆流性食道炎とは、胃食道逆流症ともいわれ、胃液が食道に逆流して炎症をおこす病気です。
欧米と比べ、日本では少ない病気と考えられてきましたが、高齢化社会、食生活の欧米化、ストレスの増大などが原因で発症する人は年々増加。日本人の約20%にみられるという報告もあります。とくに男性に多く、女性では60歳以上になると増える傾向があります。
胃は食べ物を消化し、食べ物と一緒に入ってくる細菌を殺すために強力な胃酸と消化酵素を分泌しています(胃液)。胃液は胃の壁も溶かしてしまう力をもっ ていますが、胃の壁は胃液で消化されないように粘液の膜で覆われています。ところが、食道は粘液がほとんどないため、胃液に曝されると炎症をおこしてしま います。これが胸やけの原因になります。
逆流性食道炎の原因は?
通常は、胃液が逆流しないように「下部食道括約筋」の働きで、食道と胃の境界部分が閉じられています。逆流性食道炎はこの筋肉がゆるみ、胃液が逆流しておこります(図)。
下部食道括約筋がゆるむおもな誘因は、以下のとおりです。
■加齢…年をとると、筋肉の働きが低下する。
■食道裂孔ヘルニア…本来腹部にあるはずの胃の上部が横隔膜を越えて胸の中へ飛び出てしまっている状態。横隔膜による食道の締めつけが弱くなる。腰が曲がった高齢女性によくみられる。
■肥満…肥満により腹圧が高くなると胃が外から押され、胃液が食道へ逆流しやすくなる。腹圧が高い状態が続くと食道裂孔ヘルニアもおこりやすくなる。
■脂肪の多い食事…脂肪が十二指腸に入ると分泌されるコレシストキニンというホルモンは、下部食道括約筋をゆるませる働きがある。
■食べ過ぎ…胃が伸ばされ、食道と胃の境界部分がゆるむ。
また、近年は「胃酸分泌の増加」も逆流性食道炎の大きな原因のひとつです。日本人は欧米人より胃のピロリ菌感染者が多く、慢性胃炎で胃の粘膜が壊され、 胃酸分泌が加齢とともに減少する傾向にありました。しかし衛生環境の改善などで、口から感染すると考えられていたピロリ菌の感染者は年々減少し、胃酸分泌 の増加につながっています。
おもな症状と診断法
逆流性食道炎の症状は、次のようなものです。
■胸やけ…最も多くみられる典型的な症状。胸の下から上へ向かって、熱く、焼けるような感じがする。手のひらで胸をさすりたくなるような不快な症状。
■胃酸が上がる…喉や口まで酸っぱいものが上がってくる。他の病気ではあまり見られない特徴的な症状。
■胸痛…胸がしめつけられるような、狭心症に似た痛みを感じることがある。
■のどの違和感や痛み…逆流した胃液でのどに炎症がおこる。
■咳や喘息…逆流した胃液が喉や気管支を刺激したり、食道の粘膜を通して神経を刺激しておこると考えられている。
■不眠…夜間や睡眠中に胸やけがおこることで、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりする。
診断は、問診と内視鏡検査によっておこないます。問診では、症状の種類・強さ・頻度、食事との関係を詳しく聞いていきます。また簡単に症状をチェックできる問診票も活用されています(表)。
内視鏡検査では、食道粘膜のびらん(ただれ)や潰瘍の有無や程度、食道裂孔ヘルニアの有無を調べるほか、食道がんや胃がん、胃・十二指腸潰瘍のような胸やけをおこす他の病気がないか確認します。
まず生活習慣の改善を
治療は生活習慣の改善と薬の服用です。生活習慣の改善点として、以下のものがあげられますので、実践してみましょう。
(1)肥満を解消する…下部食道括約筋のゆるみが改善し、胃液の逆流が少なくなる。
(2)頭からお腹を少し高くして寝る…重力の働きで胃液が食道に逆流している時間が短くなる。
(3)脂肪の多い食事、酒やたばこ、炭酸飲料を控える…これらは胃酸分泌を増やし、下部食道括約筋をゆるめる作用がある。
(4)チョコレートなどの甘いものを控える…甘いものが胃液で溶けてできた液体は、食道にキズをつくりやすい。
(5)過労やストレスを避ける…過労・ストレスは、食道の胃酸に対する過敏性を高めてしまう。
生活習慣の改善とあわせ、状況に応じて胃酸の分泌を抑える薬を使用します。現在、第一に選択する薬として使われているのがプロトンポンプ阻害薬です。胃酸を分泌するプロトンポンプという物質の働きを妨げ、胃酸の分泌を抑えます。
薬でほとんどの症状は軽くなりますが、下部食道括約筋のゆるみを治しているわけではないため、服用を中止すると再び症状があらわれることが多く、注意が必要です。
やはり薬で症状を軽減し、食道の炎症を治している間に生活習慣の改善に努め、薬をやめても再発しにくい体にすることが大切です。
イラスト・井上ひいろ
いつでも元気2010年12月号