民医連綱領 実践のゲンバを行く!!(4) 「ここにきて、よかった…」 利用者によりそう介護 神奈川・ショートステイ「安護楽」
いのちと健康、人権を守ろうと民医連ががんばるおおもとには、綱領に掲げられた理念があります。綱領の実践を紹介する連載。四回目は、神奈川・ショートステイ「安護楽」のとりくみを。
笑顔で話しかける菊地さん(右) |
「ここに入れてもらえて、よかった…」
ホッとしたようすで話しはじめたAさん。母親のBさんの昼食介助のため、安護楽にほぼ毎日顔を出しています。
「付き添いで来るようになって、(介護)現場の大変さを目の当たりにしています。でもスタッフのがんばりや、利用者への優しい対応がうれしい」とAさん。
母親をまっすぐ見つめるまなざしには、優しい温もりが感じられました。
食事がとれなくなって
神奈川県葉山町にあるショートステイ「安護楽」は、居宅介護支援と通所介護事業(デイサービ ス)をもつ「葉山クリニック」に併設。二四床の短期入所生活介護施設として二〇〇五年に開設。利用者の介護度は3~5と重い人が多く、近隣の横須賀市、逗 子市などから来る利用者も。
安護楽に来る前、他の施設でショートステイを利用していたBさん。利用期間の更新を申し出ましたが、食事がとれなくなったことを理由に退所を求められま した。認知症やパーキンソン病も進行し、寝たきりに。同居している夫と息子は仕事に出るため、日中介護できるのはAさんだけ。しかし二四時間つきっきりの 介護はあまりにも負担です。新しい施設を必死に探しましたが、食事のことが理由で断られ続けました。Bさんがクリニックの往診患者だったため、「ケアマネ ジャー(介護支援専門員)に相談し、なんとか入所できた」とAさんは振り返ります。
Bさん同様、「自分で食事ができない」「インスリン注射を必要とする」などの理由で利用者の受け入れを拒むショートステイも多いといいます。
「手間がかかる利用者を敬遠するのでしょうか。明らかな病気がないと病院も受けない。緊急避難的にここに入所するケースも増えています」
こう話すのは、介護主任の菊地英美子さん。「動けている間は何とかなっても、ひとたび動けなくなったら、生活はたちゆかなくなる。介護者がいない独居の高齢者はとくに深刻です」。
安護楽の平均利用日数は一〇日間前後。「ショート」といっても、長い人では数カ月にわたる人も。しかし行き場を失った人を放っておけないと、安護楽ではできるだけ受け入れようと努力しています。
菊地さんは、「どこにも入れず困っている人からの問い合わせがあっても、スタッフが『大丈夫だよ、まず受けよう』といってくれるのが心強い」と。
あと1人でも職員がいたら…
一方、安護楽のスタッフは日中四人しかおらず、利用者が定員いっぱいのときは大変です。
「思うように体が動かない人の介助が難しい。食事や入浴のときは、とくに緊張感をもって接しています」と那須美加子さん(介護職員)は話します。
わずかな人員で対応しているため、レクリエーションの途中で利用者がトイレに立つと、スタッフが付き添わなければならず、必ず中断してしまうといいます。
「あと一人、あと一人でもスタッフがいたら…って、いつも思う」と那須さん。「私たちが忙しくなれば、その分利用者さんへ支障が出てしまう。もっとゆとりのある、きめ細かい介護がしたい」と。
しかしどんなに慌ただしくても、「まず利用者さんが一番」を合い言葉に、スタッフへ声をかけているという菊地さん。
那須さんも「また来たいといってもらいたい。自宅と同じように安護楽でも過ごせる工夫を心がけている」と話します。
スタッフは、利用者と家族の関係もより深めてほしいと配慮しています。自宅でのケアを念頭に、入所が長くなる家族には、一緒に食事をとったり、誕生日を祝うことをすすめています。
「ここで看取りをする人もいるんです。できる限り足を運んでもらい、家族で過ごす時間をつくってもらいたい」と菊地さんはいいます。
「あたたかいスタッフに囲まれ、母も少しずつ飲み込む力が回復してきました。最近はとても楽しそうな笑顔も見せてくれるようになってきたんです」とAさん。
利用者に手をさしのべる介護
ショートステイ「安護楽」。デイサービスは「元気」! |
スタッフの努力だけでは乗り越えられない問題も。「介護保険から支払われる介護報酬が低すぎ て、施設の維持は厳しい」と菊地さん。安護楽では利用者の経済的負担を減らすため、必要な加算以外はとっていませんが、なんとデイサービスより利用時間の 長いショートステイのほうが介護報酬が低いのです。
「採算ラインぎりぎり。正直いうと、二四床あるベッドが、毎日二二床以上埋まらないと赤字になってしまうんです」
ケアマネジャーの八巻瑞穂さんは、「家族がいても日中は不在で、家に一人で残される高齢者は珍しくない。政府は『地域包括ケアで』と盛んにいっていますが、とても地域でみられる体制になっていない」と指摘します。
「しかも介護保険制度は、煩雑でわかりにくい。国や自治体が手をさしのべ、介護利用につなげるような積極的な姿勢が欠かせません。私たちももっと地域に 出て、介護が利用できず困っている人がいないか、実態をつかむとりくみにも力を入れたい」と八巻さん。
菊地さんも「さまざまな困難事例をもっと知らせていくことが大事。『必要な』介護を充実させることを現場から訴えていきたい」と力強く語ってくれました。
文・井ノ口創記者/写真・酒井猛
いつでも元気 2010.11 No.229
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